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メコン圏の写真集・旅紀行・エッセイ 第18回「タイ工芸の里紀行」(江本正記 著)
- 2003/8/10
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メコン圏の写真集・旅紀行・エッセイ 第18回「タイ工芸の里紀行」(江本正記 著)
「タイ工芸の里紀行」(江本正記 著、実業之日本社、2001年11月発行)
<著者紹介>江本 正記(えもと・まさき)
1948年福岡県生まれ。早稲田大学政経学部卒業。ノンフィクション作家として活躍。タイに魅せられ20年、足繁く通い続けている。主な著書に『路地裏のタイランド』(青春出版社)、『タイ旅の雑学ノート』『やっぱりタイは熱かった』(共にダイヤモンド社)など多数。(本書紹介文より)ー本書発刊当時ー
魅せられて長年タイに足繁く通い続け、タイに関する著書も多いノンフィクション作家の江本正記 氏が、タイの伝統工芸から現代工芸まで10数品を選び、その工芸品が生まれる里を訪ね歩いた紀行記。本書の刊行は2001年11月であるが、この取材は2000年11月~12月に行われている。バンコクをはじめ都市のショップで目にする機会が多いタイ工芸品ではあるが、それがどこでどのような職人たちによってどのように作られているのかは、関心は持てても普通にはなかなか訪ね知る機会はないであろう。「タイの工芸品だけでなく、日常生活のさまざまな場面で、タイの人々の生活を下支えするのが名もなき職人さんで、その職人さんたちの表情やしぐさに、やんわりと頬を撫でる心地いい風を感じてしまう」という著者による本書のタイ工芸の里紀行は、これまでそれほど関心が無かった人にとっても、タイの様々な工芸品・ものづくりに興味が湧くのではなかろうか。
本書で取り上げられたタイ工芸は、綿布、漆工芸、シルク、竹細工、真珠細工、ヤンリーパオ細工、唐木細工、陶芸、刀鍛冶などと多種多様にわたり、訪れた取材地も、北部からタイ南部までとタイ各地に広がっている。タイ工芸品の紹介だけでなく原材料の説明から製作過程、さらに工芸品が生まれる地での職人たちや彼らの現在の生活の様子などと、紹介内容も幅広い。著者のタイ工芸の里を訪ねる旅のパートナーは、このメコンプラザのフォトギャラリー「タイ・ビルマ国境風景」を担当いただいている泉 裕 氏だ。タイに住みカレン難民村の写真を撮りつづけている若手カメラマンの泉 裕 氏が、カメラマン兼通訳コーディネーターとして本書に関っておられ、本書には泉 裕 氏が撮ったカラー写真も含め多数の写真が収められている。
綿布を織っているチェンマイ郊外のバーン・ライ・パイ・ガーム(「美しい竹林の家」)の工房では、白い綿を生む木とココナツの木を同じフィールドで栽培したところ偶然に産出されたというクリーム色の綿花(「トゥン棉」)の話や、綿布織りを始めた先代の通称ダーおばさん(本名セーンダー・バンシット女史)の話が紹介されている。同じく北タイのチェンマイ郊外の「ダン・ラッカーウェアー」を訪ね、使用している漆はベトナム産とミャンマー産という、この漆の工房では卵の殻を使った漆のプレート作りの工程を実演してもらっている。本書によれば、「ベトナム産の漆はかぶれると強烈だけど、乾きが早いという特徴がある。ミャンマー産は色合いはダークであり、光沢があるので最終仕上げに使い」、またミャンマー産の漆を採取しているのは主にカレン族で、カレンによって採取された漆はいったんヤンゴンまで運ばれ、その後タイに輸出されるとのことだ。
タイ北部では、他に「ソップモエイ」と呼ばれるメーサリアンからミャンマー国境のサルウィン川に至る一帯にポー・カレン族の村、メトラ村を訪ね、更にミャンマーを追われたカレン族が生活する難民キャンプ「メラモ村」に足を伸ばしている。この地で作られる絹織物と竹細工の取材のためだが、工芸品の商品化は、父親がキリスト教の伝道師としてタイで生活していたためタイで生まれたアメリカ人のケント・グレゴリー師がカレンの村人の暮らしを支援する活動から始まっている。これらの工芸品を扱うショップ「ソップモエイ・アーツ」がチェンマイ、バンコクにあり、磯村真沙子さんを中心に、日本人駐在員夫人の方々のボランティアが運営協力されているということもあって、在タイ邦人の間ではショップの存在や活動内容は既にかなり知られているのではないか。
タイ南部では、バンコクで貝殻工芸品に注目したことから、プーケット島の周辺の大小の島々の一つで、南洋真珠の養殖が行われているナカ・ノイ島に取材で向かうことになる。また南タイ特産のツル性植物であるヤンリーパオで編んだ工芸品については、タイ南部の古都ナコンシータマラート市内から南にハジャイの方向に20分ほど車で走ったところにあるタルア村を訪ねている。ナコンシータマラートは、「ナン・ヤイ」と違って比較的小型の人形を使って人形師が竹で作った人形の手足を動かすタイの影絵芝居「ナン・タルン」が有名であるが、タイでナンバー・ワンの影絵師といわれるスチャット・サブシン氏の製作工房まで取材されている。他の地域では、タイでも古くから工芸の里として有名な土地が紹介されている。一つは、東北タイの玄関口にあたるナコンラーチャシーマ近くの、焼き物で知られるダンクィアンであり、もう一つは、タイ中央部のアユタヤの中心部から車で約20分あまりのアランイック村で、こちらはアユタヤ王朝の時代から刀鍛冶の技術が受け継がれている。
当然、本書に登場するタイ人の工芸職人たちも魅力的であるが、本書では、こうしたタイ工芸に、バイヤーとしてではなく、ものづくりに関わる在タイの日本人の方々も紹介され、バンコクの隣りのパトゥンタニ県で木工芸品を製造する工場を経営する長谷川義久さんをはじめ、こうした方々の話も興味深い。取材のきっかけの様子もこまめに記されていて取材の仕方の参考になるし、巻末には取材日記まで収められている。私事ではあるが、実はナコンシタマラートが洪水で取材にいけずバンコクで足止めをくっておられた著者の江本正記氏と同行者の泉裕氏と、たまたまバンコクのあるバーで飲んだのだが、このような本が出来上がるとは当時思いもいたらず、せっかくの機会に取材にかかわるいろんな話を聞かなかったことが悔やまれる。
本書の目次
まえがき
「美しい竹林の家」のしなやかな綿布
ダンおじさんとチンダーおばさんの漆工芸
国境の山中で育まれたシルクの織物
メラモ難民キャンプの竹細工
美しい涙の粒のペンダント古都が生んだヤンリーパオと影絵芝居
プラニーおばさんの竹細工
「神」と慕われる男の唐木細工
ひなびた焼き物の町で出会ったレプリカ
アユタヤ郊外の刀鍛冶とステンレスの村
伝統工芸とタンブンの思想
あとがきに代えて
取材メモ
ショップガイド
本書掲載のショップガイド
(本書巻末に掲載。本書巻末には住所だけでなく電話番号も掲載されている)「美しい竹林の家」のしなやかな綿布
●パダ・コットン・ファクトリー&テキスタイル・ミュージアム
(Pa-Da Cotton Factory,Pa-Da Cotton Textile Museum) 105 Chiang Mai-hot Road, Tambon Sop Tiea, Chom Thong District, Chiangmai●バン・ライ・バイ・ガーム
(Ban Rai Pai Ngarm)のショップ 206 Shopping Center Tippanert Road,Chiangmaiダンおじさんとチンダーおばさんの漆工芸
●ダン ラッカーウェアー (DANG LACQUWARE)
147/2 Srpingmaung Rd. Soi 3 Chiang Mai国境の山中で育まれたシルクの織物 メラモ難民キャンプの竹細工
●ソップ モエイ アーツ チェンマイ店(Sop Moei Arts Chiang Mai Shop)
The Elephant Quary House 31-35 Chareonrajd Road, Chiang Mai●ソップ モエイ アーツ バンコク店 (Sop Moei Arts Bangkok Shop)
Sukhumvit Soi 49 Soi Promsri 1 In The Soi Klang Racket Club Compound, Bangkok美しい涙の粒のペンダント
●ジェムライン (GEMLINE)
2/2 Soi 20 Sukhumvit Rd. Bangkok古都が生んだヤンリーパオと影絵芝居
●ナビン ハウス (NABIN HOUSE)
883 Thachang Rd,Muang Nakhonsrithammarat●スチャットさんの工房 (Suchart Subsin)
110/18 Thammasok Soi 3, Muang Nakhonsrithammaratプラニーおばさんの竹細工
●プラニーさんの工房 (Pranee Borriboon)
36 Intha-asa Road Panusnikom, Chonburi「神」と慕われる男の唐木細工
●アーク (Ark)
24/1 Sukhumvit Rd,Soi 49, Khwaeng Klongton Nua Khet Wattana Bangkokひなびた焼き物の町で出会ったレプリカ
●チャオ ディン ポッタリー (CHAO DIN POTTERRY)
148 Moo 3 Ratsima Chokchai Rd, Baandankwien Chokchai Nakhon Ratchasimaアユタヤ郊外の刀鍛冶とステンレスの村
●アランイック (N.V.ARANYIK)
48/3 Moo 5 Malela Nakornluang Ayutthaya