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メコン圏対象の調査研究書 第17回「ラオスの民話」(根岸範子・前田初江 訳著)
- 2003/5/10
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メコン圏対象の調査研究書 第17回「ラオスの民話」(根岸範子・前田初江 訳著)
「ラオスの民話」(根岸範子・前田初江 訳著、黒潮社、1994年12月発行)
<訳者略歴>(本書紹介文より。1994年発刊当時)
根岸 範子 (ねぎし・のりこ)(旧姓 渋江)
1942年栃木県に生まれる。東北大学卒業。県立高校英語教諭となる。1967年から2年間、青年海外協力隊員としてラオスに派遣される。栃木県立黒磯高校勤務。[著書]「BUTTERFLIES OF LAOS」桐原書店(共著)1989
前田 初江(まえだ・はつえ)(旧姓 久保田)
1946年静岡県に生まれる。慶應義塾大学(通教)卒業。1969年から青年海外協力隊員、ヴィエンチャン日本語補習校教師、JVCボランティアとして5年半ほどラオスに滞在。[著書]「遥かなるラオス」時事通信社 1977
⇒前田初江さん紹介
「ラオス いとしい国」私が出会った女性たち (段々社、2002年4月)
本書は、ラオスの文化や文学に関心を持ち、民話の収集をしてきた根岸範子さんと前田初江さんが、ラオス民話を日本語に訳したもので、黒潮社より1994年に出版された。2人が収集したラオス民話225編のうち、本書では計25編が取り上げられているが、内容面からは、歴史に関するもの、宗教に関するもの、笑話や動物民話の類に分類することができる。ラオスの民話の背景やラオス民話略説については、巻末に訳者による解説がつけ加えられている。
1975年の革命前に青年海外協力隊員としてラオスに赴任し(根岸氏は1967年~1969年、前田氏は1969年~1971年)、それ以来、不思議な魅力を持つラオスの虜になった2人の訳者は、それぞれ早くからラオス民話に着目し収集を始めておられるが、長年たってラオス民話の日本語訳書の出版実現に至ったいきさつについても、本書あとがきに記されている。この話も興味深いが、あとがきには訳者のラオスやラオスの人々への強い思いも綴られている。
本書に収められた民話のうち、歴史に関係した民話は、国や町の起源、川や山など自然のものの由来、歴史的英雄などを語っている。ラオス創世記ともいえる『ラオスの始まり』や『クンブロム伝説』では、天地の関係や洪水の話など、各地の創世神話にでてくるような話もあるが、ラオス人の民族起源伝承にかかわるヒョウタン伝説は面白い。ルアンパバーンの新年の祭りに現れる人類の祖先、プーニュー、ニャーニューの赤い面をした祖霊もこの創世民話に登場する。また本書に紹介されたラーオ族の英雄物語『勇敢なチュアン王』は、ラオスに限らず広くメコン圏各地にいろんな形で伝わるチュアン伝承の一つで、メコン圏上部の古代や広義のタイ族の歴史に関心がある人には見逃せないだろう。
宗教に関する民話には、やはりラオス土着のピー(精霊)信仰が色濃く残り、多種多様なピーが民話に登場する。「ピー・コンコイ」の話では、魔女のような、長い髪を風になびかせた、色の浅黒い女の小人で、足が後ろ向きについていて、何一つ身にまとっていないという様相と書かれているが、本書ではこの不思議なピー・コンコイの絵も含めて、ラオスの人によって描かれたそれぞれの民話に関するいろんな挿絵が付けられている。ピーに関する民話では、人食鬼なども登場し、目玉を抉り出すとか、赤ん坊を引き裂き食べあうなどと、恐ろしい情景もある。
また仏教説話も少なくなく、金の亀に生まれたりヒキガエルに生まれたりと、不思議な生まれ方をして、凛々しく魔力を備えた主人公が、神仏の助けを得て悪魔との戦いに勝つといった内容になっている。「四本のチャンパーの木」「シンサイ物語」や「チョラトーの冒険」などの話は壮大で、そのストーリー展開にはわくわくさせられる。
機知とユーモアに富んだ若者の話「シエン・ミエン」は、楽しい笑話であるし、人と水牛・犬・猿の寿命に関する「寿命はこうして決まった」も面白い。「クンルーとナーンウアの悲恋」といった悲恋物語まで取り上げられていて、本書収録の民話はなかなかバラエティに富んでいる。
尚、海に面しないラオスに関する民話といっても、「海底の女王チャンサムット」とか「チョラトーの冒険」「ヒキガエル大王」の話には海が登場し、「賢者シアオ・サワート」の話でも、チャンパーの国から来た商船とか外国への航海といった言葉が登場している。本書掲載作品の原著書は右記の通りで、「サン・シンサイ」の著者ウティン・ブンニャヴォン氏はラオスの古典文学の普及活動にも積極的な現代小説作家・文化人。日本語訳「シンサイ物語」の後半部分や、「クンルーとナーンウアの悲恋」は、作家でウティン・ブンニャヴォン氏の妻であるドゥアンドゥアン・ブンニャヴォン女史からの聞き取りをまとめている。
本書の目次
日本のみなさまへ 原文、訳文
駐日ラオス大使館 大使 カムシン・サヤコーン 1994年6月30日 東京
ラオス全図ラオスの始まり (根岸 訳)
クンブロム伝説 (前田 訳)
男山と女山 <ルアン・パバーン地方> (根岸 訳)
ピー・コンコイ (根岸 訳)
星のように <ルアン・パバーン地方> (根岸 訳)
海底の女王チャンサムット (根岸 訳)
孤児カンパー (前田 訳)
金の亀 (根岸 訳)
呪い師の夫婦 <サバナケート地方> (根岸 訳)
ヒキガエル大王 (根岸 訳)
馬顔の娘 (前田 訳)
髪薫る娘 (根岸 訳)
勇敢なチュアン王 (前田 訳)
ブッサバの結婚 <サバナケート地方> (根岸 訳)
四本のチャンパーの木 (マイ・ルアン・シー・ソンカム、久保田初江 共訳)
シンサイ物語(前田 訳)
チョラトーの冒険 (根岸 訳)
賢者シアオ・サワート (前田 訳)
タンタイ嬢の知恵 (前田 訳)
怠け者トウカタの成功 <パークセー地方> 根岸 訳)
シエン・ミエン (前田 訳)
金貨にならなかったうんこ (根岸 訳)
蛇の舌はなぜ二枚? (根岸 訳)
寿命はこうして決まった (根岸 訳)
クンルーとナーンウアの悲恋 (前田 訳)原著者一覧
ラオスの民話について
あとがき
本書掲載作品の原著書
◆1969年以前の出版物に関する翻訳権は、1969年に、根岸氏がラオス国立図書館、ラオス文部省、ラオス宗教省およびラオス人の作家から得ていたが、今回の出版に際し、1970年以降の出版物とともに、あらためて駐日ラオス大使とラオスの著作権協会に申請して、翻訳出版の許可を取得(本書のあとがきに記載)■「Kingdom of Laos」(Rune De Berval 著、France Asia発行、 1959年)
ラオスの始まり/ ピー・コンコイ/ 星のように/ 呪い師の夫婦/ 髪薫る娘/ ブッサバの結婚/ 怠け者トウカタの成功
■「ボット・アーン・パソム」(ターオ・ケーン著、ラオス文部省発行、 1960年)
男山と女山/金貨にならなかったうんこ
■「ニターン・クンブロム・ラーサーティラート」(シラー・ヴィラヴォン著、ラオス宗教省発行、1967年)
クンブロム伝説
■「チャンサムット」(キケーオ・ウドム著、ラオス国立図書館発行、1969年)
海底の女王チャンサムット
■「ワンナカディー」(著者不明、ラオス文部省発行、1987年)
孤児カンパー
■「ターオ・タオ・カム」(キケーオ・ウドム著、ラオス国立図書館発行、1968年)
金の亀
■「パニャー・カンカーク」(パチット・スリサック著、ラオス国立図書館発行、1970年)
ヒキガエル大王
■「ケーオ・ナー・マー」(著者不明、ラオス国立図書館発行、1972年)
馬顔の娘
■「キン・チュアン・ハーン」(キケーオ・ウドム著、ラオス国立図書館発行、1969年)
勇敢なチュアン王
■「チャンパー・シー・トン」(著者不明、貝葉、アジア文化研究所所蔵)
四本のチャンパーの木
■「サン・シンサイ」(ウティン・ブンニャヴォン著、ワラサン・ワナシン発行、1991年)
シンサイ物語
■「シアン・ノーイ・チョラトー」(キケーオ・ウドム著、ラオス国立図書館発行、1968年)
チョラトーの冒険
■「ニターン」(著者不明、ラオス文部省発行、1969年)
賢者シアオ・サワート/ タンタイ嬢の知恵
■「シエン・ミエン」(プアン・サバー著、ラオス政府出版局発行、1991年)
シエン・ミエン
■「ルーク・ニー・ルン・カム」(サーン・スン・ソム著、ラオス文部省発行、1968年)
蛇の舌はなぜ二枚?/ 寿命はこうして決まった
■聞き書き
1991年にチャンタノム・ポムマチャンさんから聞いた話と、1994年にドゥアンドゥアン・ブンニャヴォンさんから聞いた話とをまとめた。