メコン圏に関する英語書籍 第2回「PHI TONG LUANG」(THE MALABRI HILTRIBE)(MUN WALEE 著)

メコン圏に関する英語書籍 第2回「PHI TONG LUANG」(THE MALABRI HILTRIBE)(MUN WALEE 著)


「PHI TONG LUANG」(THE MALABRI HILTRIBE)【タイ語・英語】MUN WALEE 著、ルアム・サーン(1977)社(バンコク)、1994年発行

ムラブリ族については、タイ語・英語併記の『ピー・トング・ルアン - ムラブリ』と題した本が、1994年、バンコクの出版社から発行されている。同書では、北タイ・プレー県ローンクラン郡にムラブリ族を訪ね、現在のムラブリ族の生活・風習等を紹介している。絶滅の危機に瀕している「森の漂泊民」ムラブリ族については、同書では現在、プレー県のローンクラン郡とソン郡、ナーン県のサー郡の森に、約140人が散在しているだけと述べている。

60年前は、男女とも性器を隠すだけで全裸に近かったが、今では衣服を着けるなど、森林伐採が進んだことや、メオ族の耕作面積の拡大により、その住・食生活などが著しく変化している。約60年前に、ラオスとの国境沿いの北タイ・ナーン県にムラブリ族を調査したオーストリアの民族学者ベルナツィークの調査紀行と比較すると、その変化の大きさがよくわかる。

ムラブリ族は、彼らの起源・分布、その移動経路などについて、自らこれといった説明をすることができず、また地理上の知識も非常に貧弱であるため、まだ謎が多い。また神話や伝説等の伝承も少ないといわれているが、この本では彼らの起源などについて、興味深い言い伝えを幾つか紹介している。

まずムラブリ族の種類については、ピートングルアン・カーラーイと、ピートングルアン・カーデーンの2種があったという。前者は、足首から上の全身にかけ入れ墨があり、凶暴で人の肉まで食べたといわれ、その凶暴性のために他の民族から殺され、今では完全にいなくなってしまった。一方、後者の方は、入れ墨はないかあってもほんの少しで、凶暴性はなく、そのためごく少数になってしまってはいるが、今まで残存できているという。

またその起源については、昔は森ではなく平野部にいたという伝承がある。ある話によれば、昔はラオスのルアンパバーン近くの平野部に住んでいたが、統治機関から納税を要求され、森に逃げ込んだという。そして多くのムラブリ族が、虎の餌食になってその数が激減していった。また別の話によれば、以前は平野部でカム族と一緒に住んでいたが、あるときモミと米を得、カム族はモミを得てそれを育てた。一方ムラブリ族は、米を得てそれを植えた。しかし育たずにアリや昆虫に食べられてしまい、このため食べ物を得るために森に入っていったという。

1919年、タイのチャイヤプーム県での発見をはじめ、その後もルーイ県、チェンライ県などでムラブリ族の発見が報告されている。しかしその多くが最終的に移動したのは、北タイのナーン県とプレー県の森の中である。そしてこれらの場所は、動物、野菜、果物など食料がたくさんあったこと及び共産主義ゲリラの砦になっていなかったところであったと推測されている。

同書では、更に奥深い山に、ムラブリ族と共に約15年も住んでいる米国人宣教師(Mr.Boonyun)の一家のことも紹介されている。この一家のことは、今ではタイの新聞などでも取り上げられているが、彼らは北タイ方言やムラブリ語にも精通し、食料や医療・薬などを提供するだけでなく、ムラブリ族にタイ語を教えている。

■注釈
ムラブリ族の呼称
ピー・トング・ルアング族(カー・トング・ルアング族)は、自称してユンブリ族と呼ぶと、ベルナツィークは報じたが、その後の調査で、この自称は確認されず、代わって『ムラブリ』という民族名が使われるようになっている。彼らの言葉で『密林の民』を意味する。自分たちは人間だとして一般的な呼称の「ピー・トング・ルアング」を好んでいない。ちなみに、ミャオ族(モン族)は彼らを「密林の精霊」の意である『マ・ク』と呼んでいる

ベルナツィークの調査旅行
オーストリアの民族学者ベルナツィークが1937~38年、インドシナの少数民族の探索調査を行っており、北タイ・ナーンにムラブリ族を探し、詳細な民族誌を調査紀行ととともに発表している。

著者参考文献
●「The analytical works on the hunting society of Phi Tong Luang tribe in Thailand」Surin Phukhajorn 著 (Associate Professor) Amarin Printing Group (Thailand, Bangkok) 1988年発行

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