コラム(江口久雄さん)「メコン仙人だより」第66話 「三韓の国々」

『魏志東夷伝』に出てくる対馬海峡の対岸、三韓の国々の国名を見ていくと・・・

コラム(江口久雄さん)「メコン仙人だより」第66話 「三韓の国々」

奴国の王シバコはタミル語のシヴァン・コーと読める、などと前回はずいぶん思い切ったことを書いたものです。僕は素人のクセに好奇心ばかり旺盛な少年ですから、こういうことを平気で書けるのですよ。だいたい新しい古墳が発掘されるたびにアカデミズムは右往左往するばかりではありませんか。連中はモノシリですが、たいしたビジョンは持っていない証拠です。『倭人伝』や『古事記』、『日本書紀』など、どしどし素人の発想で面白く読みましょう。

さて今回は同時代の『魏志東夷伝』に出ている対馬海峡の対岸、三韓の国々を見てみましょう。当然、国名は漢音で読みます。まずは洛東江を中心とする弁辰十二国があります。これらの国の中に、どうも倭語の名前ではないかと思われる国が三つあります。まず弁辰の最南端にある古資弥凍(コシビト)国、洛東江下流東方の弥離弥凍(ビリビト)国、洛東江上流東方の難弥離弥凍(ナンビリビト)国です。古資弥凍(コシビト)国は小伽耶国とも呼ばれて六伽耶国のひとつでした。「コシビト」という音からは、いやでも高志人、古志人、越人などが連想されてしまいますね。実際この国は北九州と盛んに通交していたようで、対馬海峡を横断する船を持っていたとすれば、それはもう西は済州島から東は出雲・高志へと船を通わせていたに違いありません。実に山陰から北陸にかけての日本海側の地方は、アカデミズムから郷土史家に至るまで、加羅や新羅の影響が濃厚であることを認めています。つまり多くの渡来人が来たということが公認されているのですね。

それでは山陰から北陸にかけての日本海側の地方から逆に加羅や新羅を見てみましょう。そういうビジョンに立ったとき、「コシビト」国がぐーんとクローズアップされて来るのですよ。「コシビト」国は現在の海に近い固城の街です。「固城」という名前がまたいいですね。まったくの中国風の名前です。中国人は南のチャンパ王国を「占(チェム)城」と呼びましたし、また西北のタルバガタイという蒙古人の街を「搭(ター)城」と呼びました。現地名の頭の音を一字の漢字に留めて、それに城を付ける命名法です。「固城」の固(コ)はコシビトのコではないでしょうか。みんなでワーッと固城に行って好き勝手にウロウロしていると何かが見えてくるかもしれませんね。

一方、ビリビト国とナンビリビト国は、コシビト国ほど明快なイメージが湧きません。三重県に名張(ナバリ)という地名が有りますが、昔の伊賀国の那婆理(ナバリ)です。ナンビリに近い音ですが、関係があるかどうかわかりません。和歌山県から三重県にかけては牟婁(ムロ)郡という地名があります。これは後に加羅の国から百済に割譲された四県のうちの牟婁県とまったく同じ字です。ビリビト国のビリ、ナンビリビト国のナンビリに対応する地名が、日本のどこかにあるかもしれません。なんたって五六二年に新羅が加羅を併合した際には、多くの加羅人が倭国に逃げてきたのですからね。

ところで『魏志東夷伝』に出ている三韓の国を追っているうちに、南流する澹津江の河口に楽奴(ラクド)国、西流する錦江の河口に臨素半(リンソハン)国というラ行音で始まる国名が見つかりました。ご承知のように日本語と韓国語にはラ行音で始まる言葉がありません。純日本語と純韓国語にラ行音の単語はないのです。すると楽奴(ラクド)国および臨素半(リンソハン)国は、日本語と韓国語の名ではないことになりますね。岡田英弘は、戦国時代の越が呉を滅ぼして呉越の地方から山東半島の沿岸部までの大国を築いた後、盛んに朝鮮半島に勢力を伸ばしたと言っています。越はタイ・ベトナム系の国ですから、楽奴(ラクド)とか、臨素半(リンソハン)の語は、タイ語かベトナム語で読めるかもしれません。ちなみに楽奴はタイ語ではラック・ドー(柱、高く立つ)と読めます。タイには女性を人柱として生き埋め、その上に国(街)の柱(ラック・ムアン)を建てる習慣がありました。また臨素半はランナー語でリン・ソ・ハーン(猿が尾をさがす)と読めます。まずは阿呆になって素直に読んでみました。答えというより問題提起です。

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