「メコン圏と日本との繋がり」第3回 「辻 政信(1902年~1961年失踪)

第3回 2000年3月下旬号掲載

メコン圏に関わった日本人歴史人物
1961年国会議員のままラオスで失踪した辻政信の3回にわたるメコン圏のかかわりとは?

昭和36年(1961)年、参議院議員・辻政信は、サイゴン、プノンペン、バンコクに立ち寄り、ビエンチャンに入るが、そこで消息を絶った。そののちラオ僧に姿を変え、ビエンチャンからルアンプラバンに向う国道13号線を徒歩で北上していたことがわかり、大騒ぎとなった。東西陣営の代理戦争たる様相を示していたラオス内戦の最中に、現職の国会議員が何をしにいったのか、またそこで何が起こったのかについては、彼の消息とともに今もってはっきりした事はわかっていない。

辻政信は、1902年石川県の奥深い山村の貧家で生まれるが、陸軍幼年学校から陸軍大学まで首席あるいはトップクラスの成績を修めた。1932年上海事変で活躍し、1936年には関東軍参謀部付として満州にわたる。その後はマレー作戦、シンガポール攻略の南方戦線の参謀、更にシナ派遣軍の参謀を務めている。

辻政信のメコン圏地域との関わりはこの後に始まり、以下の3期に分類できるであろう。
(1)まずは、1944年7月ビルマ派遣軍第33軍参謀としてビルマに赴任し、ラングーン陥落から1945年タイ国駐屯軍参謀として終戦を迎えるまでの期間。
(2)次は、10年後の祖国再建に備え、イギリス軍の戦犯追及の手を逃れての潜伏・潜行の日々。最初はタイの僧に変装し、バンコクの日本人納骨堂に潜伏。その後バンコクを脱出し、バンコク=ノンカイ=ヴィエンチャン=タケク=サヴァナケット=フエ=ハノイ=昆明と、メコン圏脱出行を敢行。昆明から重慶へと潜行し、その後は南京・上海から昭和23年(1948年)帰国。戦犯容疑が昭和25年(1950年)解かれた後、国会議員に選出されている。
(3)そして最後の第3期としては、冒頭に述べたベトナム・カンボジア・タイ経由でのラオス入国後、謎の失踪事件を迎えることになる。

辻政信については、自著以外に、多くの人が紹介し、また小説にも取り上げられている。

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