メコン圏の写真集・旅紀行・エッセイ 第20回「女ひとりアジア辺境240日の旅」(長谷川まり子 著)

メコン圏の写真集・旅紀行・エッセイ 第20回「女ひとりアジア辺境240日の旅」(長谷川まり子 著)

「女ひとりアジア辺境240日の旅」(長谷川まり子 著、双葉社、1999年4月発行)

〈著者紹介〉長谷川まりこ はせがわまりこ。
1965年岐阜県生まれ。フリーライター。「一生をかけて世界一周する」を目標に旅を続ける。魅せられた国には何度も通い、とくにインドへは渡航歴十数回を超える。その過程で、ネパールの少女人身売買、強制売春などを取材し、ライフワークとなる。NGO『マイティ・ジャパン』のディレクターとしても活躍。紀行ルポを旅行誌中心に執筆している。著書に、『インドへ行こう』『それ行けアジア』(共にスターツ出版)、共著に『マレー道途中下車の旅』『女ひとり旅読本』(双葉社)がある。 (本書紹介文より。本書発刊当時)

本書は、著者経歴にあるように、旅好きでアジアの旅に関する著書も少なくない女性フリーライターによるアジアの旅エッセイ。本書で取り上げられた旅は、1997年9月まずベトナムに入り、陸路でラオス、タイを旅し、バンコクから空路でビルマのヤンゴンに入り、ビルマ国内を旅した後、インド、ネパール、スリランカに滞在するという、240日もの長旅の記録。旅の最初の出発先はホーチミンで、第1章ではホーチミン、ハノイ、フエ、ダナン、ホイアンと、ベトナムの代表的な観光地を旅している。第1章に限らず、本書では旅先の観光地の紹介というより、移動や宿探し、食事といった話から、旅先で出会う現地の人々や他の旅行者との話などが中心だ。到着早々のホーチミンでは、早速シクロドライバーと料金をめぐるトラブルが起こっている。

 ベトナムの旅を終えた後は、陸路でラオスへ向かう予定で、ベトナム中部最大の商業都市ダナンでラオスのサワンナケート行きのチケットを予約購入したものの、出国地点変更の手続きが必要であった。著者のベトナムのビザには旅行社の手違いでカンボジアに抜ける出国地点”モックバイ”が記載されており、ラオスに抜ける出国地点”ラオバオ”に変更が必要であったが、イミグレーションオフィスでは高い手数料をとる旅行社へ行けというだけで手続きができなかったことにえらく憤慨する。床に大きな穴が開き、車内には異様な臭気が漂っている荷物満載で狭い座席にぎゅうぎゅう詰めのオンボロバスは、夜8時過ぎにダナンを発ちドンハを経由後、深夜2時、国境のラオバオに到着。イミグレの開く朝7時までバスの中で夜を明かすことになるが、確かに「イミグレーションの開く頃合を見計らって出発すればよさそうなものなのに」という著者には同感だ。そのうえ暗闇の中で著者に痴漢行為を働く者まで出る始末。ラオス側のイミグレや税関でも同乗のベトナム人たちは容易に通過できず、午後7時過ぎ、ようやくサワンナケートのバスターミナルに到着する。

 夜のサワンナケートでは60歳がらみのフランス国籍のラオス人男性に声をかけられ、寝込みを襲われそうになる始末。女性の一人旅はやはりなにかといろいろ大変だが、著者の反省の通り、「上手い話には裏があるのが常であり、知らないオジサンなんかについていっちゃいかん」ということだろう。サワンナケートからビエンチャン、ルアンパバーンと旅を続けたあと、ビエンチャンに戻る飛行機の隣席に偶々座ったドイツ人男性との会話から、引き続きしばらくラオスに滞在した後、タイでビルマのビザを取得しヤンゴンに向かう予定をしていた著者は急に予定を早め慌しい移動を開始することになる。9月半ば日本を発った著者は、もともと12月下旬までに仕事でネパール入りすることになっており、ベトナム、ラオス、タイ、ビルマ、インドからネパールに入るルートを予定していただけだったのだが、10月9日にラオスで聞くことになった「きみはぜひ10月14日までにインレー湖にたどり着くべきだ」というドイツ人の話を聞いてインレー湖での大きな祭りをどうしても見たくなってしまう。

 「アジア辺境240日の旅」と題し、約8ヶ月もの旅であるため、辺境の地をあちこち旅したのか、あるいはさぞやゆったりとした時間を過ごした旅かと思いきや、ヴェトナムからラオス・タイを経てビルマ出国までの時間は、それほど長くない。どうやらのんびりとしたバカンス気分の旅は第4章で登場するスリランカでの旅のようだ。ヴィエンチャン空港に到着後、ラオス国境の街タドゥア行きのバスが出るタラートサオに行き、そこからバスで約30分ほどでタドゥアに到着。イミグレーションで出国手続きを済ませ、メコン河にかかる友好橋を渡る乗合マイクロバスに乗り込みタイ側イミグレで入国手続きをした後、サムロでノンカイ駅に向かい、当日夜7時発の急行列車でバンコクへ。翌朝7時バンコクのファランボーン駅に到着後、バンコクのワット・チャナソンクラム周辺に宿をとり、宿に荷をおろして早々に、ビルマ大使館に向かいビルマへのビザの即日交付を受ける。そしてヤンゴン行きの飛行機のチケットを予約購入と、なかなか慌しい。尚、旅行者の吹き溜まりのような有名な安宿街カオサン通りは便利であるものの著者は苦手とのことで、カオサン通りのすぐ西に位置するも間を広い敷地を持つ寺院で隔てられ多分に静かな夜を過ごせるワット・チャナソンクラム周辺にバンコクでの宿をいつもとるそうだ。

 こうしてバンコクから空路で10月12日ヤンゴン入りし、翌日午後1時にヤンゴンを出発し10月14日の朝に終点のシュエニァゥンに到着するバスに、幸運にも一席だけ空きがあった。シュエニァゥンに到着後、そこからトラックバスで20分ほどの距離にある、インレー湖巡りの起点となる湖畔の街ニァゥンシュエに向かい宿をとる。せっかくラオスから慌しく駆けつけたのだが、祭が最も盛りを見せるのは4日後とのことで、それまでインレー湖周辺でビルマの魅力に浸りゆったりと過ごすことになる。ビルマの人々の間で筏祭りと呼ばれるシャン州きっての大イベントであるインレー湖の祭を堪能した後、マンダレー、ミングォン、メイミョ、パガン、ヤンゴンとビルマを旅する。最後に「想像していた以上に、ビルマはステキな国だった。」と著者は書いているが、著者がたびたび感じることとなったビルマの人々の優しさが随所で紹介されている。

 本書タイトルに「女ひとり・・の旅」とあるが、旅先で知り合う他の旅行者たちとも旅を共にしたりしていて、特にヤンゴンからインレー湖に向かう時にたまたま一緒になったポールという男性とはその後も長く旅を共にすることになる。自らをオールド・ヒッピーと称し、根っからの放浪態であるという彼自身もなかなか興味深い。感性豊かなうちに世界を巡ろうと計画を立てて会社を辞め、長旅を続けているニュージーランド人だ。旅の良さ・感動について旅好きならではの著者のいろいろな思いも本書には綴られているが、各地での痴漢騒ぎに始まっていろんな旅でのトラブルハプニングやエピソードにも事欠かない。また著者が非常にビール好きとあってアルコールの話も多い。本書のカバーデザインにもアジア各地のビールのラベルが裏にまで散りばめられている。

 最終章の第4章では、メコン圏地域ではないものの、インド、ネパール、スリランカの南インド地域の旅を書いている。インド、ネパールについては著者が何度も訪ねており今回も取材やNGO関係でのコーディネート任務があったとのことだが、著者自身インドへは何度も通い、その過程でネパールの少女人身売買、強制売春などを取材し、NGO[マイティ・ネパール」の活動支援に携わってきた経緯も紹介されている。最後に取り上げられているスリランカは、非常に長い時間、静かなビーチでのゆったりしたバカンスを楽しんだ旅となっており、優雅でもあるが、著者が知らないところで、在スリランカ大使館も巻き込んだ著者自身の失踪事件という騒ぎとその顛末が、この長旅の終りを締めくくっている。

本書の目次

第1章 ベトナム
●放浪態の私、再び旅にでる ●ソウル経由ベトナムへ ●恐るべし!手練主管のシクロドライバー ●ヤクザの親分に見初められる ●ホーチミンからハノイへ列車の旅 ●水上人形劇に魅せられる ●女二人のタフな旅の始まり ●ベトナムきっての景勝地ハロン湾へ ●雨期のフエ ●大洪水のなか40キロのサイクリング ●ベトナムのブタはあちこちで大活躍 ●トゥアンアンビーチの子供たち ●ベトナム戦争の跡地へ ●イミグレーション役人の小遣い稼ぎ? ●古都ホイアンでトゥボン川クルーズ ●ダナン・シルクでドレスを作る ●ホイアンの夜はアバンチュールがいっぱい ●コニーとの別れ

第2章 ラオス・タイ
●物資輸送車に揺られてラオスへ ●容易には通過できないラオスのイミグレ&税関 ●サワンナケートの恐ろしく汚い宿 ●危うし!現地オヤジに寝込みを襲われる! ●サワンナケートからビエンチャンへ ●ビエンチャンのお得なホテル ●逃避行中の国会議員秘書 ●ワイン天国ラオス ●ラオスの修行僧 ●オンボロプロペラ機白煙を噴く ●大食いまゆみ嬢との出会い ●メコン川をさかのぼってタムティン洞窟へ  ●少数民族の住む村へ ●美しい托鉢風景 ●なんとものどかな空港オフィス ●ドイツ男のアドバイスで5日間の大移動を決行 ●メコン川を越えてタイへ ●バンコク

第3章 ビルマ
●ビルマ入国 ●夜の早いビルマの首都 ●拷問バスでインレー湖へ ●湖畔の街ニァゥンシュエ ●湖上の宿の静かな夜 ●ボートで漕ぎ出す ●ラペッ・ワイン ●旅先の恋 ●農村青年、発情する ●インレー湖の筏祭 ●マンダレーへ ●心優しいビルマの人々 ●水壺 ●ミングォン ●メイミョ ●ピクニック ●エーヤワディー川を下ってバガンへ ●歌う自転車乗り ●日射病に倒れる ●ポールとの別れ ●ヤンゴンの眠れぬ夜 ●一期一会の優しさに癒される ●夜の街を満喫

第4章 インド・ネパール・スリランカ
●インドへ ●ポールとの再会 ●自炊生活 ●カトマンズのクリスマス ●マイティ・ネパールでボランティア ●無念、インド入国できず ●無念、再びインド入国できず ●苦難の入院生活 ●スリランカへ●キッチン付の宿を求めて ●南国風の一軒家に滞在 ●メーリッサ ●ホモ・ビーチ ●痴漢捕獲大作戦  ●小旅行に出かける ●失踪事件 ●最後の地コロンボ ●ああ無情、コロンボ国際空港

あとがき

旅のルート
第1章 ベトナム
・成田⇒ホーチミン(ソウル経由アシアナ航空)
ホーチミン ファングーラオ通り、ベンタイン市場、サイゴン川
・ホーチミン⇒ハノイ(列車)
ハノイ ホアンキエム湖、玉山祠、水上人形劇場、西湖
・ハノイ⇒ハロン湾⇒バイチャイ⇒ハノイ ハロン湾クルーズ
・ハノイ⇒フエ(列車)
フエ トゥアンアンビーチ、フォン川
非武装地帯ツアー ドンハ、ヒエンルオン橋、ベンハイ川、ビンモックトンネル、ロックパイル、ダクロン橋、ホーチミンルート、ケサン基地跡
・フエ⇒ダナン(バス)
ダナン
・ダナン⇒ホイアン(バス)
ホイアン チャンフー通り、バクダン通り、トゥボン川
・ホイアン⇒ダナン(バス)

第2章 ラオス・タイ
・ダナン⇒ラオバオ⇒サワンナケート(バス)ドンハ、アイラオ峠
サワンナケート
・サワンナケート⇒タケク⇒ビエンチャン (車)
ビエンチャン ワット・シェンニューン
・ビエンチャン⇒ルアンパバーン(飛行機)
ルアンパバーン タムティン洞窟、バン・パーノー(赤タイ族の村)、シアングモア村(ラオ族の村)、ロングラオ(モン族の村)、ワット・シェントーン、ワット・マイ・スワナ、プーンラーム、ワット・パバート
・ルアンパバーン⇒ビエンチャン(飛行機)
・ビエンチャン⇒タドゥア(バス)
・タドゥア⇒ノンカイ
ノンカイ ミーチャイ通り、リムコン通り
・ノンカイ⇒バンコク(列車)
バンコク ファランボーン駅、ワット・チャナソンクラム、カオサン通り

第3章 ビルマ
・バンコク⇒ヤンゴン(飛行機)
・ヤンゴン⇒シュエニァゥン(バス)
・シュエニァゥン⇒ニァゥンシュエ
ニァゥンシュエ
インレー湖
・ニァゥンシュエ⇒シュエニァゥン
・シュエニァゥン⇒マンダレー
マンダレー ゼェジョーマーケット
・マンダレー⇒ミングォン
ミングォン ミングォンパゴダ
・マンダレー⇒メイミョ
メイミョ
・メイミョ⇒マンダレー
・マンダレー⇒パガン(船)
パガン オールド・パガン、タラバー門、アーナンダ寺院、タビュニュ寺院、ナツラゥン寺院
・パガン⇒ヤンゴン(夜行バス)
ヤンゴン スーレーパゴダ、ボージョー・アウンサンマーケット、FMIセンター、ヤンゴン中央駅、マハーバンドゥーラ通

上海国際商廈

第4章 インド・ネパール・スリランカ
・ヤンゴン⇒カルカッタ⇒デリー
・カトマンズ
・カトマンズ⇒ムグリン⇒ナランガート⇒カトマンズ
・カトマンズ⇒デリー⇒コロンボ
・コロンボ マウント・ラビニヤ、ヒッカドゥワ、アンバランゴダ、ゴール、ウナワトゥナ、ウェリガマ、メーリッサ、キャンディ、文化三角地帯、ヌワラ・エリヤ、ポロンナルワ、シーギリヤ、タンブッラ

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