関連テーマ・ワード情報 「パンロン協定(1947年2月12日)」

「バンロン協定」(1947年2月12日)
少数民族への自治権が約され連邦制国家としてのビルマ独立方針決定

関連テーマ・ワード情報(歴史・国際関係、ビルマ) 2001年2月掲載

多民族国家ミャンマーで1948年の独立後現在に至るまで、連邦記念日(ピードゥンズ・ネ)として、国民の祝日となり歴代の政府によって盛大な祝賀が続けられている2月12日という日は、1947年2月12日に締結されたパンロン協定を記念してのものである。

1945年8月日本軍敗退後、インドのシムラに避難していて1945年10月ビルマに復帰したイギリス領ビルマ政庁を相手に、アウン・サン(1915年2月13日~1947年7月19日)を総裁とするパサパラ(反ファシスト人民自由連盟、AFPFL)が、ビルマの完全独立達成のために粘り強い交渉を続けた。1947年1月、アウン・サンを首席とするビルマ行政参事会代表団と英国政府との間で、アウン・サン=アトリー協定がロンドンにおいて締結され、ビルマ独立達成の方法が定められた。しかしながら、この協定においてはビルマ側代表団が求め続けてきた英連邦に加わらない「完全独立」が直接的には保障されず、英国側はできればビルマに自治領として英連邦に残って欲しいという期待を持っていた。

新生ビルマが英連邦の一部となるべきか否かという問題以外に、少数民族地区がどうなるかという問題があった。例えば、カレン族は、日本軍敗退後、カレン族の独立国家を望み、アウン・サンを首席とするビルマ行政参事会代表団とは別に、独自にカレン族指導者ソウ・バウジー氏率いる代表団を英国に派遣しカレンの独立を要求していた。アウン・サン=アトリー協定では、”辺境地区(高原・山岳地帯を中心とした地域で、英領ビルマ政庁による間接統治がなされていた行政区域)の少数民族については、彼らの自由な意思に基づいて管区ビルマ(平野部を中心とした地域で、英領ビルマ政庁が直接的に統治責任を負った行政区域)と、辺境地域との統合を認める。”と取り決められた。

ロンドンから帰国したアウン・サンは、1947年2月、シャン州の州都タウンジーのやや東方にあるピンロン(シャン語でパンロン)で、辺境地域(管区ビルマ外)の少数民族の代表らと会談する。この会議において、独立後少数民族に自治権を与えることを約し、辺境地域と管区ビルマを合わせた英領ビルマ全域を、連邦制国家として独立させる方向で合意が成立した。こうして1947年2月12日、23人の出席者全員が賛成するパンロン協定が調印された。調印者23名の内訳は、シャンの代表者は、各地の小藩の世襲的藩侯(”ソーブア”、シャン語で「サオパ」)をはじめとした14名と最も多く、カチンの代表者が5名、チンの代表者が3名、それにビルマ族代表のアウン・サンである。(シャン代表の一人には、1948年1月4日独立と同時に初代ビルマ大統領に就任するも1962年3月のクーデターで逮捕され後に獄死したニャウンシュエ藩サオパのサオ・シュエタイが加わっている)

しかしながら、調印者の内訳でもわかるように、このパンロン会議に出席して協定に調印した少数民族の代表は、シャン、カチン、チンの3民族に限られ、カヤー、カレン、モン、アラカンからの出席は、カヤーとカレンからの数名のオブザーバー以外なかった。この後、1947年4月の制憲会議選挙をカレン族がボイコットするなどもあり、カレン州の設置がないまま、ビルマ本州と少数民族州からなる連邦制民族国家が、1948年1月4日誕生する(独立後のビルマ連邦は、ビルマ本州のほか、シャン、カヤー、カチンの3自治州とチン特別区から構成され、カレン自治州は1951年になって設立された)。尚、1947年6月の制憲議会、1947年7月アウン・サン暗殺、1947年10月ヌ=アトリー協定、1947年12月英国両院でのビルマ独立法案可決を経ての1948年1月4日のビルマ独立は、英国王を国家元首とするコモンウェルス(英連邦)内の自治領としてではなく、独自の国家元首(大統領)を有する共和制国家としての完全独立であった。

一方、パンロン会議後に制定された1947年憲法で、シャン、カヤーについては独立後10年目以降の連邦からの離脱権を認める条項が加えられていたが、その後、パンロン協定で保障された諸民族の自治権も失われ、シャン、カレンニーに認められた連邦離脱権も剥奪されている。

主要参考文献
『The Shan Case rooting out the myth of the golden triangle』
(Shan Human Rights Foundation、1994年)
『アウン・サン』(根本敬 著、岩波書店、1996年)
『暮らしがわかるアジア読本 ビルマ』(河出書房新社、1997年)

THE PANGLONG AGREEMENT

Dated Panglong,the 12th.February 1947.

A conference haing been held at Panglong, attended by certain members of the Executive Council of the Governor of Burma,all Saohpas and representatives of the Shan States, the Kachin Hills and the Chin Hills:

The Members of the Conference, believing that freedom will be more speedily achieved by the Shans, the Kachins and the Chins by their immediate co-operation with the Interim Burmese Government:

The Members of the Conference have accordingly, and without dissentients, agreed as follows:-

1. A representative of the Hill Peoples, selected by the Governor on the recommendation of representatives of the Supreme Council of the United Hill Peoples (SCOUHP), shall be appointed a Counsellor to the Governor to deal with the Frontier Areas.

2. The said Counsellor shall also be appointed a Member of the Governor’s Executive Council, without portfolio, and the subject of Frontier Areas brought within the purview of the Executive Council by Constitutional Convention as in the case of Defence and External Affairs. The Counsellor for Frontier Areas shall be given executive authority by similar means.

3. The said Counsellor shall be assisted by two Deputy Counsellors representing races of which he is not a member. While the two Deputy Counsellors should deal in the first instance with the affairs of their respective areas and the Counsellor with all the remaining parts of the Frontier Areas, they should by Constitutional Convention act on the principle of joint responsibility.

4. While the Counsellor, in his capacity of Member of the Executive Council, will be the only representative of the Frontier Areas on the Council, the Deputy Counsellors shall be entitled to attend meetings of the Council when subjects pertaining to the Frontier Areas are discussed.

5. Though the Governor’s Executive Council will be augmented as agreed above, it will not operate in respect of the Frontier Areas in any manner which would deprive any portion of these Areas of the autonomy which it now enjoys in internal administration. Full autonomy in internal administration for the Frontier Areas is accepted in principle.

6. Though the question of demarcating and establishing a separate Kachin State within a Unified Burma is one which must be relegated for decision by the Constituent Assembly, it is agreed that such a State is desirable. As a first step towards this end, the Counsellor for Frontier Areas and the Deputy Counsellors shall be consulted in the administration of such areas in the Myitkyina and the Bhamo District as are Part ⅡScheduled Areas under the Governmnet of Burma Act of 1935.

7. Citizens of the Frontier Areas shall enjoy rights and privileges which are regarded as fundamental in democratic countries.

8. The arrangements accepted in this Agreement are without prejudice to the financial autonomy now vested in the Federated Shan States.

9. The arrangements accepted in this Agreement are without prejudice to the financial assistance which the Kachin Hills and the Chin Hills are entitled to receive from the revenues of Burma, and the Executive Council will examine with the Frontier Areas Counsellor and Deputy Counsellors the feasibility of adopting for the Kachin Hills and the Chin Hills financial arrangements similar to those between Burma and the Federated Shan States.

■パンロン協定の署名者

◆Shan Committee

・Sd. Hkun Pan Sein (Saohpalong of Tawngpeng State.)
・Sd. Sao Shwe Thaike (Saohpalong of Yawnghwe State.)
・Sd. Sao Hom Hpa (Saohpalong of North Hsenwi State.)
・Sd. Sao Num (Saohpalong of Laika State.)
・Sd. Sao Sam Htun (Saohpalong of Mongpawn State.)
・Sd. Sao Htun E (Saohpalong of Hasmonghkam State.)
・Sd. U Hpyu (Representative of Hsahtung Saohpalong.)
・Sd. Hkun Pung
・Sd. U Tin E
・Sd. U Kya Bu
・Sd. Sao Yape Hpa
・Sd. U Htun Myint
・Sd. Hkun Saw
・Sd. Hkun Htee

◆Kachin Committee

・Sd. Sinwa Naw, Myitkyina
・Sd. Zau Rip, Myitkyina
・Sd. Dinra Tang, Myitkyina
・Sd. Zau Lawn, Bhamo
・Sd. Labang Grong, Bhamo

◆Chin Committee

・Sd. Hlur Hmung, ATM,IDSM, B.E.M. Falam
・Sd. Thawng Za Hkup, ATM, Tiddim
・Sd. Kio Mang, ATM, Haka

◆Burmese Government

・Sd. Aung San (U Aung San )

12/2/47.

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