モーケン族の創世伝説

2001年6月掲載

メルグイ群島(ミャンマー南部)に暮す「海の漂泊民」モーケン族に伝わる創世・民族起源の民話

◆原母についての伝説

大層古いむかしに、全世界が丸焼けとなり、ただ1人の女だけが残された。そこでその女は、腰を東に向けて白人を生んだ。続いて北に向けると、ビルマ人が出現した。彼女が西へ向けるとインド人が生まれ、南に向けると中国人を生んだ。彼女が腰を南東に向けるとマライ人が現われ、北西に向けるとカラ(インド人の苦力)が、南西に向けると、ロンタ族またはオラング・ラウト族、北東に向けるとモーケン族が、それぞれ発生した。

人々はみんな一緒に、トーディという名の小島に住んでいた。その島はこんなに大勢の人々が暮らすにはあまりにも狭すぎた。その時突如として、ヤーという名の1人の巨人が島に姿を表わした。しかし彼は、人類と交雑することを望まなかったので、自分で筏を組んで海上に出て、筏の上で暮らした。筏舟が腐朽し始めた時、彼は水中から高くそびえる大きな山を作って島とした。この山の上に彼はいまも住んでいる。この様子を見たのが、原母とその子供たちであった。そして彼らは、自分たちが暮らせるようなこういう島をいくつかつくってくれるように、頼んだ。気のよい巨人はそれを叶えてやり、多くの人間のために世界を創造した。

◆モーケン族の起源

むかし、中国に1人の王女がいた。彼女は一匹の犬をもっていた。彼女が成長した時に、その犬と戯れて子供をはらんだ。王はこのことで大層立腹した。というのは、そのことは大変な醜聞であると考えられていたからである。彼は娘を舟に乗せて、その中に食糧を積みこんで大きい川へ南へ放流させた。舟は海まで流れつき、とある島にたどりついた。

ここでその姫君は1人の男の子を生んだ。彼女はその子を2日間養育すると、彼はもう大人になった。そこで母親は息子に向かっていった。「おまえは海岸沿いに島の向こう側に向かって歩きなさい。そこでおまえは自分の妻を見出すでしょう」

若者はでかけていった。すると、母親は若い娘に姿を変えて、息子とは違った向きで島の周りをまわった。若者は、彼女こそ例の娘であると思ったので、彼女を自分の妻とした。彼女はモーケン族の初代の先祖たちを生んだ。

◆モーケン族が島々に住む理由

むかしむかし、モーケン族は大陸に住んでいた。ところが、ある悪い精霊の娘が岩を海中に投げ込んだ。波は高まり、海は大陸を水浸しにし、動物たちは溺死してしまった。ただ島が一つだけ海上に頭をのぞかせていた。その時、モーケン族がある呪術を行うと、海は後退し始めた。しかし水は全く引いてしまった訳ではなく、その時以来モーケン族は、洪水によって島と化した土地の上に住まねばならなくなった。

◆オラング・ラウトは如何にして出現したか

モーケン族は海岸に数戸の小屋を建てた。それからある日、男たちは漁にでかけた。彼らはみんなで小舟にのって、海岸沿いに進んで行った。すると彼らは、一本の木が水中から真っすぐに伸びているのを見た。彼らは木の方へ舟を寄せて、その枝ごとにそれぞれ異なった果実の実っているのを見た。彼らは果実を集めようとして木に登っていった。すると、最初の男が、木の下の水中に美しい人魚のいるのを見つけた。彼は彼女を捕らえようとして水中に跳びこんだ。ところが、人魚は鮫に豹変して、その男をむさぼり喰ってしまった。その後、同様のことが第2の男の身の上にも起こり、彼らがみんな喰いつくされるに至るまで続いた。ただ1人の男だけが、人魚の姿を見なかったおかげで、難をのがれた。

彼は帰りたいと思ったが、鮫が小舟を破壊してしまっていた。そこで彼は精霊たちに助力を哀願すると、精霊たちが彼の中にはいり込んだ。いまや彼は海の魚どもを召集して、最初の魚の背の上に自分の片足をかけた。しかしその魚は沈んでいったので、次の魚の上に、そしてさらにその次の魚へと順々に足を移していったがみな同様に沈んだ。パケット(シュモク鮫)というただ一匹の魚だけが、彼を支えるに足るほど力強かった。その魚は、7日間彼を海岸にまで運び続けた。そしてそれから精霊たちは彼から離れた。そして彼は村にはいって行き、妻たちに一部始終を語って聞かせた。妻たちは大いに嘆き悲しんで、即刻に男たちが木を見た場所へ出かけていった。そこに彼女らは神殿を建立し、地中に数本の神聖なる柱を打ち込み、精霊たちに対して供物を献じた。彼女らがこれを行っている間に、彼女らはマライ人たちに不意打ちされ、引っぱって行かれて奴隷にされた。マライ人たちは彼女らに暴行を加え、彼女らの生んだ子供たちがオラング・ラウト族となった。

*原注:
数世紀もの間、未開な遊動民としてマライ半島の西岸に住んでいたモーケン族の多くが、マライ人に捕えられ、海岸地方の村落の近隣で奴隷として使役されていた。彼らの子孫たちはマライ人、中国人及びネグリートたちと通婚した。彼らは自己の文化を放棄し、一部はマライ語だけを話し、マライ人からオラング・ラウト(Orang Laut、海の人たち)と呼ばれる。モーケン族は彼らをオラング・ロンタ(Orang Lonta)と呼ぶ。マライ人は、オラング・ラウトなる表現を彼らばかりでなく、沿岸の全ての漁撈民にも適用している。

引用文献:『黄色い葉の精霊』(ベルナツィーク著、大林太良 訳、平凡社)

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