メコン圏に関する英語書籍 第12回「A Brief History of LANNA」(Hans Penth 著)  後編

メコン圏に関する英語書籍 第12回「A Brief History of LANNA」(Hans Penth 著)  後編


「A Brief History of LANNA」 Civilizations of North Thailand(Hans Penth 著、Silkworm Books社 発行(タイ・チェンマイ),2000年発行、Second Edition

本書は、北タイの歴史を専門とする文献歴史学者Dr. Hans Penthによる、北タイ地域の歴史に関する英文での入門概説書。全部で88頁(2nd edition)という厚くない書籍で、本のタイトルには「LAN NA(ランナー)」とあるが、いわゆるランナー王国時代だけをカバーするのではなく、北タイ地域の先史時代から現在までの歴史の流れがわかるようになっており、一般には広く知られていないだけに興味深い内容が十分詰まっている。

本書では8世紀から13世紀を「PROTOHISTORY」 としてモン族(Mon)がランプーンに興したハリプンチャイ王国時代を説明しているが、年代を特定できる石碑から、タイ族のランナー・タイ王国成立前のモン族の時代の後半の一部を「HISTORY」の中で説明している。本書ではこの期間(c.1200-c.1275)を、ランプーンのハリプンチャイ王国の黄金時代としている。戦争が無く宗教が擁護されたこの期間の著名な王の一人として、モン語碑文に明らかなサワティシット王(Savvadhisiddhi)の宗教活動が紹介されている。後のタイ族にも大きな影響を与えることになった陶器、仏像、通貨、文字などのモンのハリプンチャイ文化についても言及している。

モン(Mon)族の時代紹介の後に、いよいよランナーのタイ族時代紹介となる。ランナー王国の歴史の前に、タイ族の北タイへの移動についての記述があるが、北タイの先住民ラワ族(Lawa)との関係について触れている。22年間の荒廃無人化したチェンマイに、カーウィラ(Kawila)が1797年チェンマイ再入城の際の行列儀式でもラワ族が先導する形をとったという興味深い話が紹介されている。尚、タイ族の民族移動そのものについては、紀元前2000年頃からの中国からの民族移動について、本文とは別に注釈が付けられている。

チェンライを建設し、ハリプンチャイ王国のランプーンを占領し、1296年4月12日に”New City”チェンマイを建設したマンラーイ王(Mang Rai)に始まるランナー王国については、本書では建国時代(c.1300-c.1400)、黄金時代(c.1400-c.1525)、衰退と滅亡(独立の喪失)(c.1526-c.1558)と時代区分され、ビルマ支配時代のランナー(北タイ)の歴史については、”Fragmentation”(c.1558-c.1775)という章の中で、説明が加えられている。ランナーが黄金期に至り、北タイだけでなく、北西ラオス、北東ビルマの一部、南西中国の一部エリアなどの周辺地域に影響を及ぼし、現在でもこれらの地域に親和性が明らかな類似の文化が見られるとも書いている(”タム文字の文化地域”)。

ランナー王国時代では、ランナーの黄金時代の説明に多くの頁を割いている。こうして繁栄したランナー王国も、第11代ケーウ王が1526年に亡くなった後衰退していく。衰退の原因についてはいくつかの経済的要因も挙げられているが、本書巻末に付されているランナー王国マンラーイ朝の王に関する資料にも明らかなように、第12代以降は短期間で何人もの王の交代があり、更に貴族達の争いにより4年間の空位時代まで招いている。そして遂に1558年、ビルマの属領となってしまう。ビルマの支配下時代の章では、記録で確認できるチェンマイに初めてたどり着いた最初の西洋人、ロンドンの商人Ralph Fitchの文章の一部をはじめ、北タイと西洋との最初の頃のかかわりについても述べられている。

最後の章は、ビルマによるアユタヤ陥落後のタクシン王によるトンブリ朝のビルマ攻撃によりチェンマイをビルマから一旦は奪回する1775年以降の歴史を概説している。1775年に一旦はビルマから解放されたチェンマイであるが、その後ビルマの反撃にあり、その結果チェンマイの町は廃墟と化し、北タイとビルマとの闘いも29年間に及ぶ事になる。この章の説明は、チェンマイの再建から、ビルマの北タイでの最後の拠点であったチェンセーンを1804年に奪回するという、ビルマとの闘いで終わってはいない。この後に進められていったランナー・タイのタイ中央政府(チャクリ朝)への統合の過程についても説明が加えられている。

全般的に本書そのものの分量が多くなく、一つ一つのテーマについてすべてに詳細な説明がついているわけではないが、ランナータイがビルマ側につきアユタヤ朝と戦ったことなども書いてあり、タイの地方の一部という視点での記述でもなく、また政治変動の事件だけでなく、経済・交易・交通や文化・宗教などの点からの記述も多く、外国人がランナータイの先史から現代までの歴史の流れを知る上で良く出来た入門書ではなかろうか。

本書の目次 (2nd Edition)

Preface
Map of Lan Na
 Illustrations
Legendary  History
Prehistory c.1,000,000 before present.-C.A.D.750
Protohistory c.750 – c.1200
  The Mon Era of Lamphun  c.750 – c. 1200
History c. 1200 – present
  The Mon Era Continued   c. 1200 – c. 1300
  The Thai Era of Lan Na   c. 1250 – present
   Arrival of the Thais   c.1050 – c.1300
   The Making of Lan Na c.1300 – c. 1400
   The Golden Age of Lan Na  c. 1400 – c. 1525
   Decline and Loss of Independence  c. 1526 – 1558
   Fragmentation   1558 – c. 1775
   Renaissance and Integration as a Part of Siam/Thailand  c. 1775 – present
Appendix
Lan Na Rulers of the Mang Rai Dynasty

■ランナー王国マンラーイ朝の歴代の王(1263年~1578年)
【注】1558年ビルマの属領となるも、しばらくはマンラーイ朝の王が引き続き就任
*本書巻末の英文表記 ⇒関連ワード・テーマ参照

① Mang Rai
② Chai Songkhram
③ San Phu
④ Kham Fu
⑤ Pha Yu
⑥ Ku Na
⑦ San Muang Ma
⑧ Sam Fang Kan (Ma Nai)
⑨ Tilok(a Rat)
⑩ Yot Chiang Rai
⑪ (Phra Muang ) kao
⑫ Ket (1st time)
⑬ Thao Chai
⑭ Ket (2nd time)
⑮ Maha Thewi Jirap(r)apha
⑯ Upay(a)o
Vacant
⑰ Maku
⑱ Wisuttha Thewi

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