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- 北タイ・ユアン族のナーガ(龍)の”色と形” ②(岡崎信雄さん)
北タイ・ユアン族のナーガ(龍)の”色と形” ②(岡崎信雄さん)
- 2003/6/27
- メコン各地のナーガの”色と形”(岡崎信雄さん), 論考論文・探求活動記
論考 & フォトギャラリー:北タイ・ユアン族のナーガ(龍)の”色と形” ②(岡崎信雄さん)
2.2 チェンマイ、チェンセーン、メーサイのナーガ
前述したが、ビルマ族の北タイ支配は、約2世紀(1558~1774年)にわたり、北タイを拠点としたビルマ族とアユタヤ王国との抗争は、チェンマイの都市機能を荒廃させるにいたった。その間、ビルマ族のタウングー朝はコンバウン朝(1752~1885年)へと交代したが、1767年、コンバウン朝の遠征軍はアユタヤ王国を攻略、王都アユタヤは灰燼に帰し、アユタヤ国は崩壊した。その後、アユタヤ軍の生き残り、タークシン将軍が、トンブリー王国(1767~1782年)を再興したが、周辺諸国(ビルマ族、クメール族、ラオ族)との抗争に明け暮れ、王の暴政も災いし失脚、1782年、チャクリー将軍(ラーマ1世)によるラタナコーシン朝(シャム王国、その後タイ王国に国名を変更)がバンコクに誕生、1785年にはビルマ軍を撃退した。
長期間ビルマ族に占領されていた北タイを再びタイ族の手に取り戻し、チェンマイの本格的な復興が始まったのは、1796年である。19世紀に入り、チェンマイ周辺の北タイ各地、シャン高原からの人々の流入により都市機能を回復、木造建築の仏殿が再興されるようになった。その後、20世紀後半、老朽化した木造建築の仏殿に代わり、鉄筋レンガ積み、モルタル仕上げの仏殿へと、修築あるいは新築され、仏殿守護のナーガの造形も、鶏頭ナーガから象の鼻をモチーフとした、我々が北タイにおいて、よく見かける、現在の造形へと変化してきた。しかし造形の表情は鶏的であり、筆者は鶏頭ナーガのバリエーションととらえている。
北タイのナーガの造形を年代により大別すると、
(1)ランナータイ王国時代(1291~1556年)
前述した、ランパーンのワット・プラタート・ランパーン・ルアンのナーガに、その事例を見ることが出来る。図17,18は、チェンマイ市内のワット・チェディ・ルアン(Wat Chedi Luang)の仏塔(1441年建立)を守護するナーガである。近年修復されたとのことであるが、ナーガの造形がどの程度、正確に復元されているかは不明である。図19は、チェンマイ市内のワット・マナラ(Wat Manara)仏塔を守護するナーガである。両翼を有しており鶏としての特徴を残している。
(写真下:図17・図18 ワット・チェディ・ルアン仏塔のナーガ)
(写真下:図19 ワット・マナラ仏塔のナーガ)
(2)ビルマ族の支配を脱し、チェンマイの復興期にあたる1800年代
この事例としては、チェンマイのワット・プラ・シン(Wat Phra Singh)の聖堂(ubosot)(1820年代に建立、1929年修復)を守護するナーガと獅子の像がある(図20)。筆者は、この時期、ナーガ頭部の造形のモチーフが、鶏頭から象の鼻へ移行する過渡期ととらえている。頭部鶏冠の先端部に相当する部分が上方へ長く延び、象の鼻を象徴するようになったと考える(図21)。
図20・図21 ワット・プラ・シン聖堂のナーガ
(3)タイ王国の中央政府に編入され、中央タイと政治的に一体化した1900年代
中央タイとの政治的な一体化、中央タイよりの人々の流入により、チェンマイの民族的、文化的なマイグレションが進み、タイ・ユアン族は北タイ人への変質した。同時期、ナーガ頭部のモチーフも鶏から象へとトランスフォームしたようである。一見した所、鶏頭を想像するのは困難であるが、造形の表情は鶏的であり、鶏、象、獅子、蛇体の要素より構成される、鶏頭ナーガのバリエーションとして、筆者は認識している(図22、23、24、25、26、28,29,30)。仏殿を守護するナーガは、ナーガとマカラが一体化した造形で、両翼を認めれることは出来ないが、ワット・プラタート・ドイ・ステープ(Wat Phura That Doi Suthep)の棟飾りのナーガ(図27)はナーガ単独のため、両翼を認めることが出来る。
チェンマイのナーガ
図22・図23
ワット・プラ・シンのマカラとナーガ |
図24
ワット・ジェット・ヨートのマカラとナーガ |
図25・図26
ワット・プラタート・ドイステープのマカラとナーガ |
図27 ワット・プラタート・ドイステープの棟飾りのナーガ | ||
図28・図29
ワット・ブッパラムのマカラとナーガ |
図30
ワット・ドック・ユアンのマカラとナーガ |
チェーンセンのナーガ
象とナーガが仏殿を守護する。この事例は、象の鼻がナーガ造形の構成要素として取り入れら
れていることを良く示している。
図31
ワット・パーカオ・パーンのマカラとナーガ |
メーサイのナーガ
図32・図33・図34
ワット・プラタート・ドイ・ワーオのマカラとナーガ |