「CAMBO.DEAR (親愛なるカンボジア)」(youmeさん)第8回「 キノミキノママプロジェクト【3】」

「CAMBO.DEAR (親愛なるカンボジア)」(youmeさん)第8回「 キノミキノママプロジェクト【3】」

こうしてカンボジアの詩人が参加し、我々には次の課題が待っていた。

作品を預かるだけでは、このプロジェクトは単なる自己満足の活動で終ってしまう。素晴らしい作品だという自負だけでは、発表出来る媒体は皆無である。しかし、限られた時間に全身全意で作品を完成させてくれた彼らの姿を思うと、なんとかせねばと気ばかりが焦るのだった。すでに、私はウエブサイトを一つもっていた。このサイトも発表する場がないなら作ってしまおうという所からスタートしたサイトだった。

このコラボレーション作品を幅広く人々に鑑賞してもらうには、またウエブサイトという方法が一番だという結論に至った。今回はコラボレーションという性質でプロジェクトを動かしているので、私が一人で全部を担当するという事をなるべく避けたかった。それぞれの主要な作業を参加した人の中から、出来る人に担当してもらいたいという気持ちがあった。

そうして初代サイトが完成する。しかし、ここでも、オンラインだけで作業を進めて行く事の難しさを痛感した。 オフラインでも気持ちを同じくして事を進めて行くのは難しい。それがオンラインとなると尚更である。参加者が各所に散らばっているという性質上、オンライン上での活動が中心になっていた我々の活動は、この後、暫く停滞していたかに見えていたと思う。

しかし、実はそうではなかった。これがオンラインの落とし穴でもあると思うのだが、サイト更新がされなければ=活動停滞と受け取られてしまうのである。オンラインでしか繋がれない状況もあれば、オフラインでしか繋がれない関係もある。カンボジアの詩人との関係がそうである。カンボジアに行き再び詩人を訪ね、彼らとはオフラインで付き合いを重ねた。

年の暮れにボリン氏を訪ねた時に、彼が作詩した二作品をクメール独特の節回しで唄って聞かせてくれた時にはまた作品の奥行きを感じたものだった。メールで頻繁にやりとりを交わしてきた訳ではないのに、実際に訪問して彼らと過ごす時間から作品を通して真に繋がっていると感じるのだった。

 ロス氏に会った時には「作品は発表出来たのですか?」と尋ねられ、「かろうじてウエブサイトでは…」と答えるのが精一杯だった。何も言わず優しく笑って気持ちを返してくれる。詩人として、こういう状況は何度も経験しているからか、実りのない私からの報告を黙って受け入れてくれる優しさ。こうした人々の作品だからこそ、更に人々に伝えたいという気持ちが強くなるのだった。

インターネットやメールを使わない彼らにとっては、ウエブサイトでの発表というのはぴんと来ないはずだ。「発表するという事」は文芸だったら紙の上。尊敬する編集者の方から「本は一生残る」と以前聞いた事があった。

「いずれ自主文庫を作りたい」とまた新しい取り組みのアイデアが浮かぶのだった。停滞していたオンラインの活動を立てなおすべく、昨年7月にサイトをリニューアルした。全て自分でやってしまうという気持ちに抵抗を感じつつもやむを得なかった。作品の公開と、現地作家とのその後等、日々更新する楽しさは尽きない。

傍目には呆れられていたかも知れないけれども、何しろこのプロジェクトは自分の中で理想の境地。「理解者が全くいないんだろうか…」と時に悲しくなる事があっても、作品を見返す度に「そんなことはない」と勇気付けられる。サイトの更新だけでなく、助成の申請を考えたり、公募に応募したり…、なんとかもっとこのプロジェクトに陽が当たらないもんだろうかと試みを重ねる日々。

そんな中、次なる目的の「チベットの詩人探し」を本格的に考え出した9月。オンラインを散歩していると、ニフティ・ホームページグランプリ、ホームページコンテストのサイトを偶然見つけた。日本在住や日本に拠点を置く事を条件にしている助成や公募が多い中、このコンテストは非会員で海外からも応募出来ると参加条件にあった。早速、リニューアルして間も無いサイトを応募する事にした。

「路上の子の人生」を今回はご紹介します。


『路上の子の人生』

路上の子の人生に あてはなく
苦悩は山のように降り積もる
嵐や 雨にさらされて
稲妻や雷に打たれる時にも
彼らの人生はいつも孤独

昼夜ごみを集め プライドも捨てた
苦しみを受けるこの人生は 業のなすがままに
物乞いをすれど 与えるものはないと言われ
世間から外れたこの人生は いったい誰のせいなのか 

空腹ゆえに貧しさに勝てず
おかゆを飲むときもあれば
涙を飲むときもある

 闇夜の晩 軒先に身を預けて
瞳を閉じれば心が悲しい 

路上の子よ
使い物にされゴミの様に生きる命
悪い奴らに脅されて 生きることが強いられる
麻薬を嗅がされ 盗心持たされ
言われるがままに 盗みをしても殴られる 

路上の子の生きる現実に
いつか救いの日はくるのだろうか
心ある大人たちよ どうか僕のことを思ってください
僕は社会の心の奥深くに身を預けて生きているんだ  

(*カンボジア語詩を邦訳して公開しています。)

写真:youme.
詩:Kok Ros
翻訳:Channa, ワタナベシンゴ, youme.

 [2003年1月26日のキノミストの集いについて]

1月26日に開催された第1回キノミストの集いに参加して下さったみなさん、どうもありがとうございました。このメコンプラザを通して参加して下さった方が多く、当日内容が盛り沢山でみなさまとの交流の機会を逃してしまったのが残念でした。1回目を終えて、第2回開催もすでに念頭にあります。是非、またお会い出来る事を希望し、今後の作品創作過程をオンラインで随時公開していきますので、是非ご覧になって下さい。当日来られた方のフィードバックや集いの会前後の記録を現在キノミキノママサイトhttp://www.freewebs.com/kinomikinomama/)で公開しています。是非ご覧下さい。

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