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メコン圏を描く海外翻訳小説 第14回「バンコク・コネクションを追え」(R・F・ブリッセンデン 著、米山 菖子 訳)
- 2005/3/10
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メコン圏を描く海外翻訳小説 第14回「バンコク・コネクションを追え」(R・F・ブリッセンデン 著、米山 菖子 訳)
「バンコク・コネクションを追え」(R・F・ブリッセンデン 著、米山 菖子 訳、二見書房(二見文庫)、1989年2月)
<著者略歴> R・F・ブリッセンデン(R.F.Brissenden)
オーストラリアの著名な詩人。最近までオーストラリアン・ナショナル・ユニヴァーシティの英文学の助教授だった。キャンベラに在住。本書が処女長編である。(本書著者略歴より、本書発刊当時)
本書の原作は、オーストラリアの著名な詩人でオーストラリアの大学の英文学の助教授であったウィルバー・ライト氏(Wilbur Wright)の処女長編で、1987年刊行の『POOR BOY』。オーストラリアで麻薬が広まり、若者たちの間に中毒患者が急増していた問題を取り上げ、タイとオーストラリアを舞台に、オーストラリア人ジャーナリストによる巨悪への挑戦をテーマに書き上げられた冒険サスペンスだ。
物語の冒頭はベトナム戦争中の1968年の南ベトナムでのシーンから始まる。オーストラリア人ジャーナリストのトム・キャクストンは、サイゴンからブン・タウ基地へ向かう途中のオーストラリア軍の3台のランドローバーの1台に同乗していた。<戦いに疲れたオーストラリア兵がかつてはなやかだった海辺のリゾート、サン・ジャック岬で休息と安楽の時を楽しんでいる>写真を添えてブン・タウ基地ではなく町に関する記事を書こうと考えていたところ、オーストラリア軍の3台の車はブン・タウへの途中でベトコンの待ち伏せ攻撃に遭う。必死の応戦で危地を脱するが、それを機に、ジャーナリストのトム・キャクストンとオーストラリア軍人、ディック・ロバートスン(ロビィ)、ジミィ・ジョーンズの3人の間に強い友情の絆が生じることになる。
そして物語の本編はそれから10年後の話となる。海外特派員として海外で働くオーストラリア人ジャーナリストのキャクストンが、ロンドンでポーカーに勝ち、10年ぶりにバンコクに立ち寄ちそれからシドニーに戻って休暇を楽しもうとしていた。バンコクでは、ベトナム戦争当時、共に死線をくぐった友人のロビイがシーロム通りでバーを営んでいた。しかし、バンコクのドン・ムアン空港で、タイの警察幹部が海外に飛び立とうとしていた2人の乗客を逮捕する現場を偶然撮影して以来、キャクストンは何者かに命を狙われることになる。
空港で逮捕された2人は、香港に出国しようとしていたパッポン2でバーを経営していたオーストラリア人男性とその女であったが、警察の捜査に協力するため車でチェンマイに連れて行かれる途中ですぐに何者かに射殺されてしまう。しかも再会したロビイの身辺にも謎が渦巻いていた。キャクストンは調査にのりだすが、その行手にはタイとオーストラリアを結ぶ巨大麻薬組織の罠が待ち受けていた・・・。
本書ストーリーの主たる舞台は、タイとオーストラリア(タスマニア島のホーバート、シドニー)で、訳者あとがきにも記されているが、大都会バンコクの喧騒だけでなく、川や運河でつながるデルタ地帯の農村、マングローブ林や塩田の風景、水陸一体となったタイの人々の暮らしぶりがいかにも詩人らしい精密な観察眼で描き出されている。ロビィがほとんど住んでいたのはバンコクではなく、バンコクの南西、約30キロにあるサムットサコン港の近くの村で、以下のような文章で本書に登場するサムット・サコンは、本書ストーリー展開上、重要や役割を担っている。
”サムット・サコンは清潔で小ぎれいな、繁栄している町だ。バンコクのスモッグの後では、空気はうっとりするほどすがすがしく澄みきっており、海の近さを思わせる潮の香りがした。タ・チン川が日差しにきらめいている。河口に向かって広くなってはいるが、その川幅は泥色のチャオ・プラヤ川とは比べものにならないほど狭い。土地の主な産業は漁業と造船らしい。造船所、桟橋、缶詰工場、冷凍食品工場が川の両側に並び、ところどころに家やヤシの木、赤屋根に白い壁の寺が見えた。船舶のほとんどは大きな、明るい色に塗ったトロール船だ。多くは繋留所に停まって、忙しそうな乗組員が、夜の間に浅い湾内で漁をした船を水で洗ったり、網を広げて干したりしていた。川を上り下りしている船もある。特色のある、当世風の船で、中国のジャンクをレース用にしたような形だが、野暮ったい感じは少しもない。・・・・「きれいな町だな」・・・バンコクとはずいぶん違う」・・・「子どもの頃、サムット・サコンヘ来るのが大好きでした」・・・・”
本書の本編ストーリー展開の時代については、明確に特定の年代記載はないものの、タイでクーデターが起こり軍人のクリエンサク・チャマナン将軍が首相になったばかりとあり、1977年末から1978年初とわかる。本書にも何度か名前が登場するクリエンサク・チャマナンについては、1977年10月20日、タイではサガット国防相を議長とする革命団によるクーデターで、ターニン内閣を倒し、この軍部の再クーデターで革命団によってクリアンサック国軍最高司令官が首相に任命され、1977年11月クリアンサック内閣が発足した(1977年~1980年)。尚、本書の主要人物のオーストラリア人たちがベトナム戦争で接点を持つきっかけとしては、1968年時では、派兵規模で、オーストラリアはアメリカ、韓国に次ぐベトナム戦争参戦国であったということがある。(1968年時点ではオーストラリアの派兵規模は約7,500人。1969年以降はタイの派兵規模がオーストラリアを上回る)
関連テーマ
●サムット・サコン
●オーストラリアのベトナム戦争参戦
●クリエンサク・チャマナン首相ストーリー展開時代
・1968年 ・1977年~1978年ストーリー展開場所
・バンコク ・サムット・サコン ・南ベトナム(ブンタウ)・オーストラリア(シドニー、タスマニア島)
主な登場人物たち
・トム・キャクストン(UPAの海外特派員)
・ディック・ロバートスン(ロビイ)(クラブ・チョーク・ディの経営者)
・ダララスミ・チンダナ[ダウ](ロビイの妻、タイ人女性、シャム協会図書館の司書で教師)
・チャーリイ・チャラエン(クラブ・チョーク・ディの共同経営者、サムペン生れの中国系タイ人。シェラトン・グループで5年間勤務)
・クリス・カーモディ(バンコク在住のオーストラリア人)
・フィル・ハリスン(UPAバンコク支局長)
・ダイチャ・スリチャイ(タイの警視正。麻薬特別班のリーダー)
・サリット(ダイチャの仲間)
・レイ・ファレル(パッポン2でバー兼安食堂経営のオーストラリア人男性)
・デン(ファレルと一緒にいた女性)
・クラブ・チョーク・ディのバーテン
・クリス・カーモディのタイ人女性秘書
・モントリー(ロビィとダウの息子)
・ダウの両親
・ポーンチャイ(ダウの弟。シカゴ大学で学位を取った経済学者で国連食糧農業機関に勤務)
・チャウ・クーン老師
・アンデルセン(オリエンタルホテルの副支配人の一人)
・ドクター・サワート(医者)
・ジョン・フォーブス(ロンドンーバンコク・チャータード銀行)
・ピムサイ・ラチャドン警察長官(タイ麻薬取締局ONCBの局長)
・スラポン(タイ警察庁麻薬抑制センターPNSCの警視正)
・UPAバンコク支局のタイ人助手
・ジミイ・ジョーンズ(オーストラリアの不動産業界の大物)
・キャル・ウエスト
・チャイナ・ローク
・サル・トルトリコ(イタリア系アメリカ人)
・ヴィクトル・ティブルジ(ティビイ)(アクイレア運送会社の経営者、アルバニア人)
・ハーヴェイ
・ジョウ・トラヴァーズ(銀行の重役)
・トニイ・バレッティ(ジョーンズの会計士)
・ハリイ・メタクサス(ニュー・サウス・ウェイルズ警察麻薬捜査班の一員)
・アームストロング(メタクサスの同僚)
・ドクター・ネイサン・ホロウィッツ(ニュー・サウス・ウェイルズ大学地理学科。東南アジアの農産物専門)
・スー(ホロウィッツのタイ人妻)
・メアリ・ロビンズ(ティビイの秘書)
・ジーニィ(キャクストンの離婚した元妻のアメリカ人女性)