メコン圏関連の図録・報告書・資料文献 第6回「TAIZO」(編集・写真提供:中島多圭子、発行:映画TAIZO制作委員会)


「TAIZO」(編集・写真提供:中島多圭子、発行:映画TAIZO制作委員会、2003年11月)

<監督>中島 多圭子
1971年、福岡県出身。[本名]行實(ゆきざね)多圭子。大学2年の時に、週刊朝日「女子大生シリーズ」の表紙モデルになったのをきっかけに、英国留学を経てキャスターを目指す。大学4年からTBS「関口宏のサンデーモーニング」レポーターやテレビ朝日「やじうまワイド」キャスターなど、フリーアナウンサーとして幅広く活動する。1999年、かねてから興味のあった写真の勉強をするため、写真学校にて技術を習得。その後、一ノ瀬泰造の足跡を追いカンボジア取材へ向う。2000年、レバノン南部のパレスチナ難民キャンプで中東問題について取材開始。雑誌「週刊プレイボーイ」などで発表。その後、2001年4月より映画『TAIZO』の製作を始める。〔本書パンフレットより:発行当時〕

フリーの報道写真家として1971年1月から約2年間、バングラデシュ、インド、カンボジア、ベトナムの激動地帯を駆け抜け、「うまく地雷を踏んだらサヨウナラ!」そういい残してアンコールワットを目指し、戦火のカンボジア・アンコールワットで26歳の若さで殉じた1人の戦場カメラマン、一ノ瀬泰造(1947年生まれ)一ノ瀬泰造は、1973年11月、解放勢力側が支配していたアンコールワットへ単独潜行したまま消息を断ち、長らく生死の確認がなかったが、1982年2月1日カンボジアのアンコールワット北東10キロのプラダック村にて遺骨が発見され両親によってその死亡が確認された。

 一ノ瀬泰造が消息を断って以来、救出嘆願の活動が始まる一方、わが子を待つご両親のもとに一ノ瀬泰造が撮ったフィルムや、日記、書簡、レポートなどが集められ、1978年、講談社より一ノ瀬泰造の書簡・写真集『地雷を踏んだらサヨウナラ』が出版された(講談社より文庫版が1985年に出版)。この本を原作に、浅野忠信主演の映画「地雷を踏んだらサヨウナラ」が、1999年公開、ロングラン上映された。

そして2003年11月、映画『地雷を踏んだらサヨウナラ』をプロデュースした奥山和由氏が製作、監督は中島多圭子氏による一ノ瀬泰造を描いたドキュメンタリー映画『TAIZO』が、一ノ瀬泰造30周忌記念として公開された。監督の中島多圭子氏は、この映画で、初めて映画の世界に携わり、初監督を果たしているが、同氏の「一ノ瀬泰造」との最初の出会いは、1998年7月22日、映画『地雷を踏んだらサヨウナラ』の制作発表を伝える新聞記事に掲載された1枚のモノクロ写真だったのこと。それまでキャスターとしてテレビに出演していた自分に疑問を感じ、目指すべき道を見失いかけていた頃で、「自分の追い求めるものにひたすら突き進んでいった泰造の生き様が眩しく」、その後テレビを辞め、自分で、一ノ瀬泰造の足跡を追って、写真を撮りながら取材活動を始める。

 一方、映画「地雷を踏んだらサヨウナラ」で語りきれていない大事な何かがある、どうしても残しておかなくてはいけないことがある、と感じていた奥山和由氏は、映画「地雷を踏んだらサヨウナラ」の公開直前に出会っていた中島多圭子氏に、やがて「一ノ瀬泰造のドキュメンタリーを撮ってみない?」と誘うことになる。こうしたドキュメンタリー映画『TAIZO』ができあがるいきさつや両氏の思いは、映画「TAIZO」のパンフレットである本書に綴られているが、中島多圭子氏の”あの写真を見た時からずっと泰造さんの存在は、夢を諦めず道を歩いていくための私の心の拠り所となっていた。どうしても彼のことを、もっともっと知りたかったのだ。・・・”という言葉に、多くの一ノ瀬泰造ファンも似た思いを見出すのではなかろうか。

ドキュメンタリー映画は、映画「地雷を踏んだらサヨウナラ」を部分使用で織り交ぜながら、泰造の友人・知人、仕事をともにした仲間へのインタビューや、一ノ瀬泰造が愛したカンボジアの人々・風景、そして泰造の残した2万コマのフィルムを焼きつづけてきた母信子さんの姿を映し出し、一ノ瀬泰造の実像に迫っていくが、一ノ瀬泰造の書簡・写真集『地雷を踏んだらサヨウナラ』に登場してくる人たちが、約30年の時を経て生の映像でインタビューに応え一ノ瀬泰造を語ってくれているのは、貴重な映像だ。尚、、このドキュメンタリー映画に、坂口憲二が一ノ瀬泰造の役に、川津祐介が泰造の父の役(映画「地雷を踏んだらサヨウナラ」でも泰造の父親役として出演)として、声の出演をしている。

 ドキュメンタリー映画「TAIZO」の製作は、母信子さんの写真集を作る過程と時を重ね、この様子は、本書パンフレットでも、「暗室日記」”写真集”と”映画”完成までの道のり~として、2001年1月1日に始まり、2003年5月23日まで日記形式で紹介されている。ちなみに、この写真集は、『もうみんな家に買ろー! 26歳という写真家・一ノ瀬泰造』(編者・一ノ瀬信子)で、2003年6月、窓社から刊行された。

 また、本書パンフレットは40数頁の分量であるが、後半の半分(19頁~43頁)は、「TAIZO’S PHOTOS 1972~1973」と題して、一ノ瀬泰造が1972年から73年にかけて撮った写真約30点が掲載されている。本書パンフレットにある、”泰造、アンコールワットへの道」は、カンボジア・ベトナム全域、シェムリアップ広域、シェムリアップ市街の地図が用意され、一ノ瀬泰造ゆかりの地が示されているが、同じ情報が、映画TAIZO公式サイトでも、「一ノ瀬泰造の足跡を辿る」として、アニメーションマップで紹介されている。

目次

introduction
02   ただ早くアンコールワットが撮りたいだけ・・・
03   中島多圭子〔監督〕
04   坂口憲二〔声の出演・一ノ瀬泰造〕、川津祐介〔声の出演・泰造の父〕
05   interviewee  一ノ瀬信子/赤津孝夫/井川一久/小森義久/米津孝/横木安良夫
06   interviewee  チュム・ロッ/チョムラーン・チャムラビー/チョムラーン・チャムラボッ/チョムラーン・ソシバン/チア・キム・リァン/ホーン・バン・クーン/トランチ・トゥエット/ムエン・スワン・ラム
07   奥山和由〔製作〕
08   深町 純〔音楽〕
09   夢を追って・・・ 〔一ノ瀬信子〕
10   暗室日記
16   泰造、アンコールワットへの道〔一ノ瀬信子〕
19   TAIZO’S PHOTOS
44   profile 一ノ瀬泰造
表   staff cas

   <製作> 奥山 和由  1953年12月4日、東京都出身。
20代後半からプロデューサーを務め、『ハチ公物語』『遠き落日』『226』などで興行収入40億を超える大ヒットを収めた。一方、北野武、竹中直人、坂東玉三郎それぞれを新人監督としてデビューさせる。また今村昌平監督で製作した『うなぎ』では、第50回カンヌ国際映画祭パルムドール賞を受賞した。1994年には江戸川乱歩生誕100周年記念映画『RAMPO』を初監督、1998年チームオクヤマ設立後第一弾の『地雷を踏んだらサヨウナラ』は、ロングラン記録を樹立した。本年(2003年)、自身でもドキュメンタリー映画『クラッシュ』を初監督する。スクリーン・インターナショナル紙の映画100周年記念号において、日本人では唯一「世界の映画人実力者100人」のなかに選ばれる。日本アカデミー賞優秀監督賞・優秀脚本賞、日本映画テレビプロデューサー協会賞、Genesis Award(米国)他多数受賞。〔本書パンフレットより:発行当時〕

<音楽>深町 純 1946年5月、東京都出身。
1971年のデビュー以来、独自の音楽観と確かな音楽センス、巧みなテクニックに支えられ、日本の音楽シーンを担ってきた。アーティストのアルバム制作のみならず、ミュージカル、ドラマ、映画、CMの音楽制作まで幅広く活動。最近では小柳ゆき、Baby Booなど若手アーティストのサポートを行う。洗足学園大学で日本初のシンセサイザー専攻科を設立するなど、シンセサイザーの権威でもある。近年のライブ活動は、即興のピアノ演奏がメイン。日本が世界に誇れる「日本の音楽」の創造を目指して、真摯な演奏活動を続けている。〔本書パンフレットより:発行当時〕

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