メコン圏関連の図録・報告書・資料文献 第10回 映画パンフレット「トオイと正人」(発行:Days Photo Film))

メコン圏関連の図録・報告書・資料文献 第10回 映画パンフレット「トオイと正人」(発行:Days Photo Film)

映画パンフレット「トオイと正人」(2023年3月発行、発行:Days photo Film

本書は、1996年「Silent Mode: SETO Masato」「部屋 Living Room, Tokyo」で第21回木村伊兵衛写真賞を受賞している写真家・瀬戸正人氏の自伝エッセイ「トオイと正人」(著者:瀬戸 正人、朝日新聞社、1998年9月発行)を、同じく写真家で作家としても活動するアジアを多く旅した作品で知られる小林紀晴氏が、初監督作として映画化し2023年一般公開されたドキュメンタリー映画「トオイと正人」の公式パンフレット。⇒ドキュメンタリー映画「トオイと正人」の公式サイト

映画の原作「トオイと正人」は、写真家、瀬戸正人氏による1998年発表の自伝エッセイで、1999年、第12回新潮学芸賞も受賞。原作の著者、瀬戸正人氏は、1953年、タイ国のウドーンタニで、残留日本兵の父とベトナム系タイ人の母との間に生まれ、トオイと名付けられた著者、瀬戸正人 氏(日本に帰国後に日本名として正人と名付けられる)は、1961年、これまで暮らしてきたウドンタニを離れることを決意した父に連れられ妹とともに父の故郷・福島に渡り、実家を継いでいた父の弟の家に住み、2年遅れで父の実家の地元の小学校に編入。1965年春には父がベトナム系タイ人の母と弟、妹を連れて福島に本帰国し、家を隣町に新築し家族全員で福島での生活が再開。父はウドンタニ同様、福島でも写真館を経営することになる。

その後、著者の瀬戸正夫 氏は、福島での高校を卒業後、1973年、20歳で東京の写真学校入学のため上京し、写真家の道を歩むことになり、東京で写真家のアシスタントを卒業し写真家として独立し1982年には、20年ぶりにバンコク、ウドンタニを訪ね、さらに1983年にはベトナム系タイ人の母を連れ、約20年前にウドンタニからハノイに移り住んでいた親戚と再会する旅に出る。原作「トオイと正人」の書籍紹介は本サイト内でも掲載しているが、このバンコク・ハノイを訪れて撮影した写真集『Bangkok, Hanoi≫ 1982-1987 』が1989年に発表された瀬戸正夫氏のデビュー作で、1990年の日本写真協会新人賞を受賞。本パンフレットでも、写真集『Bangkok, Hanoi≫ 1982-1987 』から一部作品が掲載。

まず、本パンフレットは最初に、ドキュメンタリー映画「トオイと正人」の監督・脚本・撮影を務めた小林紀晴 氏による”「不在」を探して”と題する文章が綴られ、小林紀晴氏が、最初に、原作を手にした時の驚きや感じた疑問と謎について述べられ、更に、不思議なことに、映画など撮ったこともなければ、撮りたいと思ったことも、それ以前にはなかったのに、書籍「トオイと正人」を読み終わったときには、これを映画に撮りたいと強く思っていたと述懐している。なぜそう思ったのかについても説明が加えられ、その後、映画化の経緯やロケ時の事などが紹介されている。

小林紀晴氏による文章以外にも、作家の堀江敏幸氏による”もうひとりの自分を呼び覚ます ー『トオイと正人』”、原作者であり、ドキュメンタリー映画「トオイと正人」にも出演している瀬戸正人氏による”「アジア国」を歩く”と題した文章が寄せられている。文章以外では、瀬戸武治・瀬戸正人父子のそれぞれの年譜の資料もまとめられているが、やはり、この映画パンフレットは、ウドンタニと福島で写真店を経営した瀬戸正人氏の父・瀬戸武治氏と、瀬戸正人氏、小林紀晴氏の3人の写真家による写真がふんだんに収録されていることが特筆されるだろう。

ドキュメンタリー映画本編で撮影された画像だけでなく、なにより貴重なのは、小林紀晴氏が瀬戸正人氏から預かった大量の写真で、その中には瀬戸の父が1950年代にタイのウドンタニで撮影した古い写真も多数含まれていたとのことで、この映画パンフレットでは、”瀬戸家のアルバムより”として、瀬戸正人氏が福島の小学校に編入した頃の写真などと合わせ、これらの写真が並んでいることだ。瀬戸正人氏の父方の祖母が、戦死したと思っていた瀬戸武治氏が終戦後12年経ってタイのウドンタニで生きているという手紙をもらって、和服姿で福島からウドンタニを訪ねた話が原作で書かれていたが、この時の写真も写真画像で確認できる。ドキュメンタリー映画「トオイと正人」の物語を、更にたくさんの古い写真画像で更に深めることができるし、また、原作「トオイと正人」を先に読んでいた人にとっては、この映画パンフレットに収められた”瀬戸家のアルバムより”のたくさんの古い写真のお陰で、原作をより深く刻むことができるはずだ。

「不在」を探して      小林紀晴 監督・脚本・撮影
原作・出演 瀬戸正人
(せと・まさと) 監督・脚本・撮影 小林紀晴(こばやし・きせい)
Location diary   Kobayashi kisei
もうひとりの自分を呼び覚ます ー『トオイと正人』 堀江敏幸 作家
Portrait of a Japanese soldier who died in the war     Seto Takeji
父・瀬戸武治  息子・瀬戸正人   
(*各人の年譜)
瀬戸家のアルバムより
「アジア国」を歩く  瀬戸正人
≪Bangkok, Hanoi≫ 1982-1987   Seto Masato
ナレーション 鶴田真由
(つるた・まゆ) 音楽 いろのみ


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