メコン圏関連の図録・報告書・資料文献 第4回「東南アジアの古陶磁(9)」-ミャンマーとその周辺ー」(富山市佐藤記念美術館)

メコン圏関連の図録・報告書・資料文献 第4回「東南アジアの古陶磁(9)」-ミャンマーとその周辺ー」(富山市佐藤記念美術館)


r特別展『「東南アジアの古陶磁(9)」-ミャンマーとその周辺ー』図録(編集:富山市佐藤記念美術館、発行: 富山市教育委員会、2004年9月)

本書は、富山市佐藤記念美術館(所在地:富山県富山市本丸1-33)が2004年に開催した特別展「東南アジア古陶磁展(9)-ミャンマーとその周辺ー」に際し、制作・発行された図録。1961年に開館された(財)佐藤美術館が、(財)富山美術館、(財)富山佐藤美術館と改称後、富山市に寄贈され、2002年より、富山市佐藤記念美術館となっている。同美術館では、1989年、特別展「クメール王国の古陶」を開催し、その後、第1回の1994年(平成6年)から、特別展「東南アジア古陶磁」を毎回出陳作品を新たにして定期的に継続開催しているが、2004年開催の特別展は、同「東南アジア古陶磁シリーズ」の第9回目にあたり、ミャンマーとタイ北部のやきものを中心に展示する企画となった。

ミャンマーの陶磁については、右記の本書あいさつ文に記されているように、古くから陶磁器を生産していたことがわかっているものの、これまで比較的脚光を浴びることが少なく、またその実態がよくわかっていなかったが、それでも近年、現地の民間研究者の熱心な努力や、数はまだ少ないもののいくつかの窯跡の発掘調査で、次第に明らかとなってきている。こうしたミャンマー陶磁については、東南アジア陶磁史研究家・津田武徳氏による『ミャンマー陶磁とその周辺について ~最近の発掘例を中心に~』と題した文章が、本書に掲載されていて、詳しく解説されている。

まず、ミャンマー陶磁の概要については、イブン・バットゥータ(1304年~1368年)の『大旅行記』にも、航海の際、しょうが・胡椒・果物の塩詰めを入れて船積みされたことが言及されている黒釉大壺「マルタバン・ジャー」の話から始まり、青磁、白釉・緑釉・白釉緑彩陶、焼締陶などと、紹介解説が続くが、どの項目も専門的な解説だけでなく、いろんな余談めいた興味深い話が盛り込まれている。モンの文化とは異なる古代から独自の文化を持ち、かつては独立国であったアラカン地方の陶磁についての紹介があるのも嬉しい。

17世紀東南アジアにおけるパイプの2大産地がミャンマーとラオスとのことで、ラオス製とミャンマー製の陶製タバコ喫煙パイプの解説にも、興味をそそられる。ちなみにミャンマーでのパイプのかつての産地は、マンダレーから近い古都インワ(アワ)に近接するセーオーポーという村。また、何百年にもわたり生産され日本でも出土しているマルタバン・ジャーを焼いた古窯跡が今まで発見されていないということも謎めいていて、今後の発見が楽しみだ。

 津田武徳氏による解説では、2002年3月から4月にかけて、津田氏が考古局と共同で行ったヤンゴン郊外のトワンテ地区のパヤジーという村の青磁窯跡1基の発掘報告が主題で、このトワンテの青磁窯3基目にあたる窯跡の発掘については、窯や発掘製品についてたくさんのカラー写真とともに詳細な報告が掲載されている。トルコ青、孔雀緑釉とも呼ばれる青緑色の低火度釉陶までが出土しており、輸入陶磁ではなく、この窯場で焼かれたものらしい。津田氏の文章の最後のまとめは、ミャンマー陶磁の、北タイのパーンや中部タイのスパンブリなど他の地域とのかかわりや、ミャンマー青磁における貿易陶磁の流れについて書かれているが、中国陶磁の変遷と東南アジア陶磁の全盛期との関係、グローバルネットワークにおける陶磁のグローバルスタンダードと発信地、という視点は面白い。

 本図録には、同展に出品された陶磁器136点の陶磁器の写真図版が写真はすべてカラー版で掲載されている(図版掲載の陶磁器136点の詳細はこちら)。青磁については、トワンテ窯と思われる青磁については10点ほど出品されているが、その中には、本図録の表紙に大きく写っている、以前はタイ北方のパーン窯で焼成されたものと見ていた青磁劃花筋文皿も含まれている。焼成地がトワンテ窯以外と考えられる青磁の一群(N0.3-No.10)もあり、その他、青磁については、タイ北方のパーン、パヤオ、ワンヌアのものも(N0.109-No.134)出品され掲載紹介されている。

 また1984年に、タイとミャンマーの国境付近のタークおよびメソトの周辺の山岳地帯の墓葬遺跡から、中国陶磁やタイ陶磁とともに大量に出土発見された白釉緑彩陶は、それまで目にすることなく、タイ製品なのか、別の産地なのかわからず大きな関心が寄せられたが、その後の研究で、これらの白釉緑絵陶とその類品がミャンマー産であることがほぼ確定。この白釉緑絵陶も、同展で出品され、No.19-No.35でミャンマー産として掲載紹介されている。しかしこの白釉緑絵陶の焼成地も、いまだ発見されておらず、ミャンマー陶磁については、まだまだこれからの発掘調査や研究の成果から目が離せない。

 目 次

ごあいさつ
ミャンマー陶磁とその周辺について  ー最近の発掘例を中心にー 津田武徳
図版
実測図
作品解説
出品目録
関係地図
年表

◆富山市佐藤記念美術館特別展
東南アジアの古陶磁(9) -ミャンマーとその周辺ー
会期:・2004年9月18日~11月14日
講演会:「ミャンマーの古陶-最新の発掘成果を中心にー」講師:津田武徳 氏、2004年10月23日、富山市佐藤記念美術館講堂 

ごあいさつ(本図録掲載文章全文引用)
東南アジア古陶磁シリーズの第9回目は、ミャンマーとタイ北部のやきものを中心に展示いたします。

ミャンマーの陶磁については、タイやベトナムに比べて、その実態がよくわかっていませんでした。しかし、近年になって、ミャンマー内でいくつかの窯跡が発掘調査され、出土資料も紹介されるようになって、その輪郭が徐々に明らかとなってきました。ヤンゴンの近くのトワンテでは、青磁窯の調査が進み、生産の実態が判明しつつあります。その製品は、形態的にはタイの北方青磁との影響関係をうかがうことができますが、中東地域の発掘調査で大量に出土しており、イスラム圏へ多く流通していたことがわかりました。

また、今から20年前、ミャンマー国境に近いタイのメソットで出土して話題を呼んだ白釉緑彩陶も、窯跡は発見されてはいないものの、現在ではミャンマーで焼成されたと考えられています。白釉緑彩陶に用いられた独特の錫鉛釉は、東アジアの陶器に使われたほとんど唯一の例で、この釉法がさかんにつかわれたイスラム陶器との関連を起想させるものです。

このように、東西交易の接点ともいえるミャンマーとその周辺のやきものによって、東西交易のロマンを楽しむ機会になればと思います。

最後になりましたが、本展を開催するにあたり、貴重な御作品の出品を御快諾くださいました、東南アジア陶磁館、國分孝雄氏をはじめとする御所蔵者のかたがた、ならびに関係者の皆様の御協力に対し、心から感謝申し上げます。

平成16年9月
富山市教育委員会、富山市佐藤記念美術館

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