北東インド旅行記 ~「辺境」の地を訪ねて~ 第2回 ナガランド編(2)(中園琢也さん)

北東インド旅行記 ~「辺境」の地を訪ねて~ (中園琢也さん)
第2回 ナガランド編(2)

中園琢也:
都内在住の一般企業勤務。学生時代よりアジア各地を旅行。旅先での関心領域は食文化を中心とした生活文化全般、ポップカルチャー、釣りなど。

<第1回 ナガランド編(1)>
1.はじめに

(1)北東インド7姉妹州(セブンシスターズ)
(2)旅程

2.ナガランド州
(1)基礎情報
(2)ナガランド州と周辺地域の地図情報
(3)ナガランド州概要
①ナガの人々 ②言語 
③宗教 ④歴史 ⑤文化 ⑥食 ⑦産業 ⑧観光業 ⑨自然環境 ⑩その他
<第2回 ナガランド編(2)>
(4)ナガランドの玄関口 ディマプル

(4)ナガランドの玄関口ディマプル

ディマプルはナガランド州で最大かつ唯一の平地にある街である。ナガランドの玄関口としてアッサム州に三方を囲まれるように突き出たこの都市は、鉄道駅と空港があり、交通の要衝として隣接するアッサム州、そしてインド本土との玄関口となっている。

デリー到着の翌朝、ディマプルへのフライトに搭乗するべく、インディラ・ガンディー国際空港の国内線ターミナルの搭乗ゲートに向かった。搭乗ゲートに辿り着き、ふと周りを見渡すと、デリーで大半を占めるアーリア系の顔立ちの人はほとんどおらず、我々によく似た顔立ちのモンゴロイド系の人々ばかり。例えていうと、香港や台湾、中国南部あたりの顔立ちやモンゴル、チベットあたりの顔立ち、昭和の日本人みたいな顔立ちで親近感を覚えた。まるでインドとは異なる雰囲気で、いよいよ未知なる別世界へ旅立つのだと胸が高鳴った。

離陸に向けて滑走路を走る機内から見えるデリーの街並みは、光化学スモッグに加えて焼畑の煙害による大気汚染が酷く、まるで黄色い砂嵐の中にいるみたいで建物が霞んで見えないほどだった。そして、せっかくはるばるデリーまでやって来たのに、東に戻る形で3時間弱の移動。

空港建物内で荷物をピックアップした後、警察の外国人登録カウンター(FRO: Foreigner Registration Office )にて入域手続き。ナガランド州は、2010年から外国人旅行者が許可なく入域できるようになったのだが、それでも外国人は入域時に登録の義務があるため、FROのカウンターで全ての滞在先名と住所、電話番号を用紙に書き込んで提出した。

空港から街の中心までは7kmほどの距離。オートリクシャー(三輪タクシー)でメイン通りを20分ほど。空港周囲はのどかな田園地帯だったが、街に近づくにつれビルが出現し、車のクラクションがあちこちで鳴り響く喧噪が聞こえてきた。ディマプルの街は、州最大の人口12万人余を抱え、交通の要所というだけに、想像以上に大きな街であった。他地域への玄関口かつ最大の人口を抱えるだけあって、街を行きかう人々の顔立ちは確かにモンゴロイド系が多いものの、ベンガル系など様々である。宗教も多様で、街には教会だけでなくモスクやヒンドゥー寺院も見られた。

ディマプル到着後、早速のトラブル。全く土地勘が無い街なので、事前にGoogle Mapで吟味した中級ホテルを公式サイトの予約フォームから申し込みし、返信された自動メールを予約証明として受付で見せたのだが、従業員がどうも予約を見落としていたらしい。予約が入っておらず、満室と言われてしまった。「ここしか宿を知らないので、他に行き先が分からない。同じ程度のホテルを教えて欲しい」と訴え出たところ、従業員に近所のホテルに連れて行ってもらい、無事なんとか部屋を確保できた。宿の名前はCEDAR HOTEL。街の中心地近くメイン通り沿い。宿泊費はエアコン無しで1泊1200ルピー程度(2200円程度)。思ったより清潔でなかなか快適だった。

荷物を置いた後、早速、街の探索。街の中心地に向かうと、駅の東側には、大きな市場が広がっていた。ディマプル最大のモスクであるジャマ・マスジド(Jama Masjid)に隣接するこのニューマーケットは、交通の要所である利点を生かして各地から様々な食材、衣料品や食器などの雑貨類といった様々な物資が集まっており、眺めているだけでも楽しい。特に生鮮エリアが興味深かった。青果類は、野菜は細長かったり巨大だったり形は異なるものの、我々が普段馴染みある野菜類が多かった。鮮魚は、コイの仲間が中心。東南アジアの市場でよく目にするナマズの仲間は少なく、ウナギ、ライギョ、珍しいものでは南米原産でピラニアの仲間で草食魚のペグーなども見かけた。あとは、驚いたのは鶏肉店の横で養鶏場のようなスペースがあったこと。籠などの中に生きた鶏がいるのは各地でよく目にするが本格的に飼育しているような雰囲気で驚いた。鳥インフルエンザが流行したら大変なことになりそうだ。市場の売り手は、商売のため周辺地域から移り住んだのかインド・アーリア系の人ばかり、逆に客層は昔から地元に住んでいるモンゴロイド系といった感じで対照的な様子が興味深かった。

市場をブラブラ探索していると16時頃には空は日没前の雰囲気。すっかり暗くなってしまったため、急ぎ宿に戻った。

写真:ディマプル空港。北東部の近隣都市、インド主要都市と国内線で繋ぐ。第二次大戦中に英国により建設、インパール作戦では英国軍の重要な補給基地となった。

写真:ディマプル駅。ナガランドとインド本土を繋ぐ物流の要。

 写真:ディマプルの街を東西に走る幹線道路、駅西側に広がる市場に沿った一番賑やかなエリア。

 写真:イスラム教寺院(モスク)ジャマ・マスジド(Jama Masjid)。ディマプル最大の市場ニューマーケットの一角を占める。

写真:ニューマーケット

 写真:ニューマーケット

写真:ニューマーケット

 写真:コイの仲間。

 写真:ペグー(南米原産のピラニアの仲間の草食魚)

 写真:ナマズの仲間

写真:魚の干物

 写真:鶏肉屋。お店の横では鶏を飼育している。

ナガランド最初の食事となった夕食について。そもそも外国人旅行者はあまり来ない地域であるが、国内外の多くの旅行者はディマプル空港到着後に、この街には滞在することなく車で一気にコヒマまで行くそうで、旅行者向けの飲食店はほとんどなさそうだった。ネットでいろいろ調べたが情報が出てこなかったので、Google Mapで検索し、宿の近く、レビュー点数と件数からこの街で2番目に評判が良さそうなナガ料理レストランを選んだ。お店の名前は「Naga Bowl Express」。後で分かったのだが、ナガランド州最大の街で近隣では二番目に評判がいいお店ということで、ナガランド州で食べたお店の中では最もメニューの種類が多く、高級なレストランだった。

初めてのナガ料理で、どの料理も興味深く、好奇心の赴くままいろいろと頼んでしまった。注文したのは、Smoked Pork With Axone Thali(燻製豚肉と納豆の煮込み定食:360ルピー)、アラカルトでPork Bamboo Shoot(豚肉とタケノコの煮込み:140ルピー)、Smoked Pork Nuoshi(豚肉と発酵したヤムイモの葉のパテの煮込み:170ルピー)、飲み物は、緑茶(50ルピー)、コーラとスプライト(各70ルピー)で合計860ルピー(約1550円)。ターリーセット(定食)には、米とともに、トマトチャツネ、大きな唐辛子のピクルス、ゴーヤの漬物、ニラの漬物、茹で野菜、スープなどが付く。

前述の通り、ナガランドはいわゆるインドとは異なる文化圏で豚肉がポピュラー、牛肉や犬肉、野生動物や昆虫なども食べる。かつてハバネロを超えて世界一辛い唐辛子だったブート・ジュロキアの産地だけに、唐辛子を多用している。煮込み料理は非常に辛くカレーのようだが、他の地域のカレーと異なるのは、複数のスパイスによる多重的多様な風味ではなく、シンプルに真っすぐ辛く、それに発酵による旨味が乗っているところである。

料理は美味しかったといえば美味しかったが、豚肉の獣臭と筍や野菜の漬物みたいな発酵臭、納豆臭が結構強く、苦手な人も多いかもしれない。悪く例えれば、動物園で、漬物樽と納豆の香りを交互に嗅ぎながらインドカレーセットを食べるような感じである。なお、飲み物については、ナガランドは禁酒州でお酒が飲めないため、コーラとスプライトと熱い緑茶を飲んだ。

レストランからの帰り道、ドブロクを提供する屋台があるとの情報を目にしたエリアがあったが、20時前にもかかわらず深夜みたいに真っ暗で人通りがなく治安に不安を感じたことに加えて、旅のはじめに腹を壊したら台無しになると思い、諦めて宿に戻った。翌日はコヒマへの移動だったため、早めの就寝。

 写真:Naga Bowl Express店内、6席ほどのこぢんまりとした店内

写真:ナガ料理のターリーセット(定食)。ナガランドで食べた料理ではどこでも茹で野菜(今回は瓜とキャベツ)が付いたが、激辛料理で舌を鎮めるのにちょうどよかった。


写真:Pork Bamboo Shoot(豚肉とタケノコの煮込み)。唐辛子のシンプルで鋭い辛味が強烈。

写真:Smoked Pork With Axone (燻製豚肉と納豆の煮込み)。豆の粒はあまりないが、しっかり納豆の臭いがする。

 写真:赤米。モソモソした軽い食感だが、意外と充実していてお腹に貯まる。インディカ米とジャポニカ米の良いところを兼ね備えて美味しかった。

 写真:Smoked Pork Nuoshi(燻製豚肉と発酵したヤムイモの葉のパテの煮込み)。少し味噌っぽいが、何か植物を発酵させたような匂いを感じる。匂いがマイルドな分、豚肉の獣臭が目立つ。

 写真:薄いダル(豆カレー)のようだが、極小さな発芽した種のようなものが入っている。

写真:泊まったホテル。エアコン無しで1200ルピー程度。

 写真:宿の部屋。ファンが回っているし、気温は20度少し程度だったので、快適だった。

 写真:トイレとシャワーは清潔。

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