論考「遥かなるメコンを越えて ナーンの旅、そしてプーミン寺壁画」①

論考「遥かなるメコンを越えて ナーンの旅、そしてプーミン寺壁画」

(蔵屋敷滋生 くらやしき・しげお 投稿時:出版社役員,59歳、千葉県柏市在住)

序章 はじめに

私の遺伝子の刷り込みに「蜘蛛よりも蛇が嫌い」「小言は好き。だが人から何も言われたくない」「南よりも北が好き」「コストパーフォーマンスをまず考える」「言ったそばから気が変わる」があるらしい。別にそれで苦労しているわけではない。なぜなら奥さんと遺伝子に文句がいえないからだ。だからボクの文章が「傲慢」「不遜」「独断」と映っても、本心からではなく、遠いご先祖様から授かった遺伝子のせいだとご理解いただきたい。

  だが折角の旅に出ても一カ所に落ち着けない性癖だけは、そろそろ肉体的にきつくなっている。始終、新しいものを発見していないと、なにか損をした気になるのだ。が、最近は「新たな体験など妄想するほどにはない」と諦めることにした。それでも一人旅にも拘わらずタイムスケジュールから外れると不機嫌になる、という勝手な性格だけは直らない。かわいそうなのはボクの旅に同行する運転手だが、彼は田舎道を走行中でも道端の蛇を目聡く見つけ「クラさん、スネーク!」と言って嫌がらせをするので、お合いこだ。

  なにかもっと楽な旅の仕方はないかと自問自答していたら、自分で答えをみつけた。

①目的地は一つにしぼる、
②旅程管理は同行の運転手に任せる
③彼を信じ決して口に出して文句は言わない
④目的地に着いたら帰国日以外の時間を気にしない

である。残念ながらボクの人間性に関わる本質である「謙虚」だとか「配慮」だとか「思いやり」とかの言葉は思い出せなかった。

ただこれでは誰が旅をしているのか分からなくなるので、「旅の計画書」だけは運転手に渡すことにした。彼に「今回の旅はこの計画通りに行くように」と厳しく注文するわけだ。これでいい。私の旅に文句を言わせない。で、北タイは東のはずれチャンワット・ナーン(ナーン県)への旅を計画し日本を出発した。

   ここからナーンの旅の話でも書こうとしたら気が変わって、いきなりバンチェーン遺跡について書いておこうと思い出し、キーをたたいていた。どうせ書くのは自分なのだから、感性のままに進めることにする。なにせ人になにか言われるのが嫌いなのだ。

(写真上:ナーン西郊の山からナーンの街を展望する)

  そして、またまた気が変わってしまった。いきなり「タイ族」のルーツを探る、というとんでもないことを思いついた。そりぁ~よく分かっております。サラリーマンのボクに出来ることではないことぐらいは。だが何回となく北タイはナーンを訪れていると「タイ族ってなんだ」を知りたくなったのだ。バンコクでもチェンマイでもそんな気にならなかったが、ナーンの人達は「ほかのタイ人と違う」と感じているのだ。ちょうど京都人が東京をあまり意識していないように、あるいは大阪人が東京を腹の底では相手にしたくないと思っているように(間違っていたらごめんなさい)、独自の文化を造りあげてきた自信がもたらす一種の孤高の気高さを感じるのだ。

  「タイ族のルーツ」といったって、むろんフィールドワークをしたわけでも、するわけではないから、書籍、参考書、教科書、小説、人の話(講義ではむろんない)、インターネットのホームページからの知識にとどまる。したがって新たな発見を紹介するわけではなく、言ってみれば「これまでのまとめ程度のモノ」とご理解いただきたい。その「まとめ方」に間違いもあるかもしれない、いやきっとある。その節はご容赦願いたい。

関連記事

おすすめ記事

  1. メコン圏現地作家による文学 第11回「メナムの残照」(トムヤンティ 著、西野 順治郎 訳)

    メコン圏現地作家による文学 第11回「メナムの残照」(トムヤンティ 著、西野 順治郎 訳) 「…
  2. 雲南省・西双版納 タイ・ルー族のナーガ(龍)の”色と形” ①(岡崎信雄さん)

    論考:雲南省・西双版納 タイ・ルー族のナーガ(龍)の”色と形” ①(岡崎信雄さん) 中国雲南省西双…
  3. メコン圏を舞台とする小説 第41回「インドラネット」(桐野夏生 著)

    メコン圏を舞台とする小説 第41回「インドラネット」(桐野夏生 著) 「インドラネット」(桐野…
  4. メコン圏が登場するコミック 第17回「リトル・ロータス」(著者: 西浦キオ)

    メコン圏が登場するコミック 第17回「リトル・ロータス」(著者:西浦キオ) 「リトル・ロー…
  5. メコン圏題材のノンフィクション・ルポルタージュ 第24回 「激動の河・メコン」(NHK取材班 著)

    メコン圏題材のノンフィクション・ルポルタージュ 第24回 「激動の河・メコン」(NHK取材班 著) …
  6. 調査探求記「ひょうたん笛の”古調”を追い求めて」①(伊藤悟)

    「ひょうたん笛の”古調”を追い求めて」①(伊藤悟)第1章 雲南を離れてどれくらいたったか。…
  7. メコン圏対象の調査研究書 第26回「クメールの彫像」(J・ボワルエ著、石澤良昭・中島節子 訳)

    メコン圏対象の調査研究書 第26回「クメールの彫像」(J・ボワルエ著、石澤良昭・中島節子 訳) …
  8. メコン圏の写真集・旅紀行・エッセイ 第19回「貴州旅情」中国貴州少数民族を訪ねて(宮城の団十郎 著)

    メコン圏の写真集・旅紀行・エッセイ 第19回「貴州旅情」中国貴州少数民族を訪ねて(宮城の団十郎 著)…
  9. メコン圏に関する中国語書籍 第4回「腾冲史话」(谢 本书 著,云南人民出版社)

    メコン圏に関する中国語書籍 第4回「腾冲史话」(谢 本书 著,云南人民出版社 ) 云南名城史话…
  10. メコン圏を描く海外翻訳小説 第15回「アップ・カントリー 兵士の帰還」(上・下)(ネルソン・デミル 著、白石 朗 訳)

    メコン圏を描く海外翻訳小説 第15回「アップ・カントリー 兵士の帰還」(ネルソン・デミル 著、白石 …
ページ上部へ戻る