メコン圏に関する英語書籍 第14回「People of Esarn」(Pira Sudham 著)

メコン圏に関する英語書籍 第14回「People of Esarn」(Pira Sudham 著)


「People of Esarn」 (Pira Sudham 著、Shire Books 発行(Bangkok)、1994年 第7版)

本書『People of Esarn』は、タイの現代作家ピラ・スダム(Pira Sudham)氏による英語で書かれた短編集。イサーン(東北タイ)出身のピラ・スダム氏(本名ピラカマン・スダム)は、1942年、ブリラム県Napo村の農家に生まれ、14歳で見習い僧としてバンコクで寺に入り苦学の末、ニュージーランド政府の奨学制度で英文学を学びに海外留学を果たし海外で英語での文筆活動を始めた作家。ピラ・スダム氏の最初の作品は、1983年に刊行された英文短編集『Siamese Drama』であるが、本書『People of Esarn』はピラ・スダム氏の2作目の英文による短編集。この初版は1987年、Siam Media Internationalより刊行され、翌1988年よりShire Booksより版を重ね、本書は初版より新しい短編も付け加えられて1994年に刊行された第7版。

 尚、ピラ・スダム氏の英文で書かれた2つの短編集『People of Esarn』(1987年刊)と『Siamese Drama』(1983年刊)を邦訳編集した日本語書籍『ピラ・スダム短編集』(ピラ・スダム著、杵淵信雄・訳)が、弥生書房から1993年1月に刊行されている。また、英語によるウェッブサイト「Pira Sudham -The voice from the grossroots of Thailand」を運営しており、このサイトで作品の紹介や著者の詳細なプロフィールが掲載され作品はオンラインでも購入可能になっている。

 サイトのサブタイトルにもあるようにタイ、特にイサーン(東北タイ)のいろんな環境に置かれた庶民の人生・生活に焦点をあてた短編が中心で、非常に簡潔でわかりやすい英語で1人称での語りによってストーリーを展開させており、タイの庶民たちが朴とつと人生を語っているかのような文体でもある。本書に掲載されている最初の作品は「A novice」で著者の実体験に近い話で、貧しさもあって10歳で親と離れ地方の村からバンコクの仏教寺院に見習い僧として入る少年の話だ。著者の経歴そのものと思われる「A writer」という作品も収められており、東北タイのブリラム県の小村に生まれた少年が作家となる経歴などが語られる。

 「A farmer and his wife」は、近代化の波を受けて社会と生活が変わり行く中で、村を離れバンコクや海外に行ってしまった子供の帰郷を農地を守りながら待つ老夫婦の話で、寄り添って生きる老夫婦がそれぞれ自分の人生や家族のことを語っている。「A food vendor and a taxi driver」もなかなか味わい深い作品で、地方の農村から大都会バンコクに出て働くイサーン出身の人々を描く。夫に去られ残された子供と親のためにウボンの田舎で頑張っていたが、その後バンコクに一人で出稼ぎにでて高層ビルの建築現場で働いた後、中国人経営のヌードルショップで働く女性がまず登場する。やがて彼女はヌードルショップに立ち寄るタクシー運転手と知り合いになる。イサーンのヤソトン出身で彼女と同じラオであるタクシー運転手は、彼女がバンコクの町と生活に疲れラオの人々が住む故郷の村に帰りたがっていると思い、彼の運転する車で彼女をウボンに連れていこうと申し出る。ウボンに帰るもバンコクにすぐに戻ることになった女性は、バンコクでガイヤーンやソムタムを売る屋台を始め、大都会で新たな生活を再開していく。

 「A Thai woman in Germany」は、かつて、ベトナム戦争時、タクリー、ウドン、ウボン、ウタパオで働き、その後パタヤに移って働いていた元売春婦が、ドイツ人と結婚し移り住んだドイツで、パタヤの高級ホテルでマネージャーとして以前働いていたタイ人男性相手に、自分の半生を語る話だ。「A hired gunman」は第7版で新たに加えられた作品の一つで、森林局から裕福で有力な政治家の妻に広大な森林が払い下げられることに抗議活動をしていた教師を殺害した雇われ殺し屋が自らを語るという作品。イサーンのマハサラカム出身の彼には、資本家たちによる工業用塩の生産で土地の田や川から米や魚が採れなくなり、移り住んだカンボジアと国境を接するブリラム県南部では、パルプ製紙工場への供給用のユーカリ植林事業の認可を受けた資本家により土地を追われることになったが立ち退きを拒否した結果、家を焼かれ妻子や親を殺されるという過去があった。

 この本(第7版)は、Nid Chaiwannaに捧げると巻頭に書いてあるが、「A hired gunman」の話は、チェンマイのBaan Huay Kaew校教師で、森林局から裕福で有力な政治家の妻に広大な森林が払い下げられることに抗議活動をしていて1989年12月15日に殺し屋に殺されたMr.Nid Chaiwannaの事件が題材だ。本書の後半部の「An Esarn Notebook」では、この殺し屋の問題や、森林破壊と森林保護の問題、子供の売買、河川汚濁、塩田による土壌悪化など、タイ社会の不正義や現代のさまざまな社会問題そのものを、イサーンなどのタイ地方部の人々の生活に深く関わる問題として、1人称で語らせるという前半部の短編ストーリーとは異なる文体で取り上げている。

■目次
・Foreword
・Esarn
・A novice
・A farmer and his wife
・A food vendor and a taxi driver
・An impersonator 
・A Thai woman in Germany
・A hired gunman
・A writer
・Epilogue
・Selling Children
◆An Esarn Notebook
・Blood-stained names
・Thailand’s disappearing forest
・Wanted dead or alive
・The Child Trade
・The Dying Rivers
・The Dying Earth
・Increasing Tensions
・A New Leg for Charuwan
・Paddy Fields for Somjit
・Food from the dying earth
・Remembering the massacres

Pira Sudham
A voice from the grassroots  of Thailand《本書の裏表紙》より

Pira Sudham was born in a small remote village in Esarn, Northeast Thailand. He spent his early years in the rice fields helping his parents and tending a herd of buffaloes until he went to Bangkok to be a servant to Buddhist monks in a temple where he was admitted to a school. To support himself, he sold souvenirs to tourists in the streets of Bangkok until he won a scholarship from the New Zealand Government to study English language and literature at Auckland University and Victoria University.

In New Zealand he began writing short stories in English which were published in Landfall, a leading literary quarterly and in various publications in Australia and U.S.A.

 His first book, Siamese Drama, a collection of short stories, was published in 1983, followed by People of Esarn in 1987.

He has lived for over ten years in Hong Kong, Australia and in England where he wrote his novel, Monsoon Country. Now he divides his time between living in England and in Bangkok and a village life in a district of Napo, where he was born.

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