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メコン圏が登場するコミック 第14回「暁の息子」(樹なつみ 著)
- 2006/3/10
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メコン圏が登場するコミック 第14回「暁の息子」(樹なつみ 著)
「暁の息子」(【アフタヌーンKC234】著者:樹なつみ、2000年2月発行、講談社)
「暁の息子」(The Son of The Dawn)は、講談社の月刊男性コミック誌「アフタヌーン」(1986年創刊)に、1999年10月号から2000年2月号まで5回連載された女性漫画家による作品で、ミャンマーのシャン州が主たるストーリーの展開場所となっている。本書タイトル「暁の息子」とは、本書の主人公でカバー表紙にも描かれている16歳の青年。定住地を持たない流浪民族で部族の男全てが兵で他の少数民族の軍に兵力を売っているという「カラトラ族」の言葉で「暁の息子」と言う意味の「シャン・パ・ルー」という名を持っているという設定だ。
本作品のストーリー展開時代は1992年。この年、ミャンマーの軍事政権に対し反政府ゲリラ活動を続けているミャンマー領シャン州での少数民族「トマ族」を取材するために、中国系タイ人の貿易商で潮州人シンジケートのボスの手配で、日本人ジャーナリスト・是枝たちが、ミャンマー領内の「トマ族」軍隊の支配区にタイ領から潜入する。是枝は、トマ族と協力関係にあるカラトラ族の取材も狙っていたが、その取材の目的には、是枝に関わる10年来の個人的な事情が絡んでいた。
その事情とは、10年前の1982年、シャン州のタイ国境近くで、是枝の兄とその息子が消息を絶っていたが、カラトラ族が昔シャン州国境近くで子供を拾ったという情報を3年前に是枝の友人から得ていて、その子が是枝の甥ではないかと探しに来たというものだった。是枝の兄は、麻薬王クンサーに対してインタビューを取りに行く途中、1982年のタイ軍による麻薬王クンサーに対する大攻勢に巻き込まれ、以来、行方不明となっていたが、是枝の兄は、当時、妻が急死して精神的におかしくなっており、そのような危険なところに6歳だった長男の柊成を連れて行っていた。兄の状態が普通でないのはわかっていたが繁多な毎日に流され気がつけば兄は長男を連れて出かけてしまっていて、是枝は、自分が見殺しにしたも同然だと自分を責め続けていた。
ミャンマー少数民族反政府ゲリラルポという企画を日本の新聞社に認めてもらい、ようやくカラトラ族が傭兵となっているトマ族の支配区への潜入にこぎつけた是枝であったが、精霊のおつげで住み家を替える流浪民族であるカラトラ族の下、「戦場」が仕事という環境で育ってきた甥と無事再会でき日本に連れ戻すことができるのか?是枝が向かったトマ軍支配区はクンサーの私兵のシャン同盟軍と戦闘状態にあり、トマ軍の傭兵となっているカラトラ族は勇猛で、そのうえ潮州人麻薬シンジケートなどの影がちらつくなど、最初からストーリーは波乱含みだ。更に是枝の高校停学中の娘・草乃実までが、親に内緒でトマ族の支配区に向かってしまう。
ミャンマーの軍事政権に抵抗する少数民族トマ族、民族解放を目的とするトマ独立機構、シャン州の州内州トマ州などと、本書では、ミャンマー領内の幻の民族「カラトラ族」という設定とともに、架空の民族名・民族州などが使われてはいるものの、軍事政権に抵抗するミャンマー(ビルマ)の少数民族をめぐるミャンマー(ビルマ)の政情などが、ストーリーの背景として色濃く反映されている。他にもアウン・サン・スー・チー、クンサー、タイへのアヘン・ルート、カレン族、シャン州、旧国民党残党、ビルマ共産党軍、麻薬シンジケートや、ミャンマーへの日本のODA,精霊信仰、シャーマンなどの事項も織り交ぜられている。本書巻末には、参考写真及び文献協力として、『ビルマの大いなる幻影』(1996年5月発行、山本宗補 著、社会評論社)の1冊だけが記されている。<山本宗補氏のホームページはこちら>
樹なつみ氏の作品だけあって、主人公のシャン・パ・ルーだけでなく、彼のカラトラ族の仲間のタイ・ミ・ランなど、超美男子たちが紙面をにぎわすが、シャン・パ・ルーの婚約者でタイ・ミ・ランの妹のノゥ・ミァンという超美少女も登場してくる。シャン・パ・ルーとは同じ年のいとこにあたる女子高校生の草乃実(そのみ)の存在は面白く、現代日本の若者文化から遠く離れたシャン・パ・ルーとのずれた会話もなかなか楽しいが、ストーリー中盤から終盤にかけ、緊迫したストーリー展開に転じ、なかなかシリアスで深いセリフや人物描写が続き、いろんな見せ場が用意されている。是枝の兄や義姉、是枝と離婚した妻の間の事情もストーリーの合間に織り込まれている。尚、巻末には、この作品ができるまでの経緯がマンガで掲載されているが、これによると、当初はトルコを舞台としていたが、途中でミャンマーに変更されたとのこと。著者によれば「プロローグしか描いてないけど いつかまた体力ができたら続きを描きたいス」とある。
◆主な登場人物等
・是枝(ジャーナリスト)
・是枝草乃実(そのみ)(高校生の娘)
・目加田(東京日報社)
・岩田
・是枝の兄
・是枝の元妻・蒼子
・朴慶瑞(中国系タイ人の貿易商)
・華(母親がトマ人で、朴のボス)
・馬(朴の側近)
・パ・タイー総司令(トマ独立機構)
・ノ・ニー(トマ独立機構の連絡員)
・ト・カンパ(カラトラ族族長)
・ソゥ・コー(カラトラ族長老)
・シャン・パ・ルー(日本人)
・タイ・ミ・ラン(カラトラ族男性)
・ソン・ツー (カラトラ族男性)
・カラトラ族のこどもたち
・ムン・ローとその部下達 (麻薬シンジケート)
・ナウ・ウー(ミャンマー国軍中佐)
・スティーブン・バーキン アメリカ麻薬取締局(DEA)タイ支局部局長
・アメリカ最大の製薬会社アーチャード・コーポレ-ションの部長◆ストーリー展開場所
・ミャンマー(ビルマ)・タイ
◆ストーリー展開時代
1992年、1982年