佐久「性病・プール」事件

「ジャパゆきさんが泳ぎに来る県営プールに行くと性病がうつる」というデマが長野県佐久市で広まった事件(1984年)

1984年夏、長野県佐久市で、「夜の街で働いている東南アジアからの出稼ぎ女性、ジャパゆきさんが泳ぎに来る県営プールに行くと性病がうつる」というデマが全市を席捲し利用者が急減した事件が起こった。このようなデマが、佐久市の県営駒場公園プールや市のふろ付き福祉会館をめぐって、市民などの間に広がり、この問題については、1984年9月11日、佐久市の9月定例市議会一般質問でも議会でも取り上げられた。

1984年9月12日『信濃毎日新聞』で第1社会面8段に掲載された事件についての記事では、”・・・市、佐久保健所は「根拠のない話」とカンカンだが、デマの背景には売春まがいの行為をしている東南アジアなどからの女性が依然として(長野)県内にも目立つ現実と、この女性たちを性病に結びつけてしまう差別意識もあるとみられる。”と報じている。

テニスコート・武道館、屋内・屋外のふたつのプールを持つ総合運動施設場として1983年7月にオープンした県立駒場公園の管理事務所に、「プールに入ると失明するという噂が流れているが本当なのか」という最初の問い合わせが1984年6月初旬に入った。最初の噂は「駒場公園のプールに行った子どもが眼病にかかった」という噂が、「子どもが失明した」と拡大解釈されながら市内各地に広まっていく過程で、「眼病」が「性病」にすり代わってしまい、さらに7月下旬になると、噂は完全に、「プールに入ると性病にかかる」というものだけに固定されてしまい、東南アジアから来たホステスと「性病」が結び付けられて流言パニックが起こった。

この事件は、さらに1984年9月13日の『朝日新聞』でも「強い東南アへの蔑視」という見出しで報道され、「われわれが依然東南アジアに対する蔑視、差別意識を持っている事実を示した」と、ここではデマの原因がはっきりと断定されている。朝日新聞では翌1984年9月14日の天声人語でも、この事件を取り上げている。尚、こうした新聞記事が掲載された直後から、管理事務所への問い合わせが急激に減り、県営プール(温水プール)の利用者数は、その年の10月には既に前年度並みに回復したとのことだ。

参考文献:「ジャパゆきさん物語」【別冊宝島54】(JICC出版局、1986年7月刊行)

関連記事

おすすめ記事

  1. メコン圏と大東亜戦争関連書籍 第8回「神本利男とマレーのハリマオ マレーシアに独立の種をまいた日本人」(土生良樹 著)

    メコン圏と大東亜戦争関連書籍 第8回「神本利男とマレーのハリマオ マレーシアに独立の種をまいた日本人…
  2. メコン圏の写真集・旅紀行・エッセイ 第31回「メコン川物語 ー かわりゆくインドシナから ー 」(川口 敏彦 著)

    メコン圏の写真集・旅紀行・エッセイ 第31回「メコン川物語 ー かわりゆくインドシナから ー 」(川…
  3. メコン圏関連の趣味実用・カルチャー書 第10回「ベトナム雑貨と暮らす Vietnamese Style」(石井 良佳 著)

    メコン圏関連の趣味実用・カルチャー書 第10回「ベトナム雑貨と暮らすVietnamese Style…
  4. メコン圏を描く海外翻訳小説 第18回「ヴェトナム戦場の殺人」(ディヴィッド・K・ハーフォード 著、松本剛史 訳)

    メコン圏を描く海外翻訳小説 第18回「ヴェトナム戦場の殺人」(ディヴィッド・K・ハーフォード 著、松…
  5. メコン圏現地作家による文学 第16回「田舎の教師」(カムマーン・コンカイ 著、冨田竹二郎 訳)

    メコン圏現地作家による文学 第16回「田舎の教師」(カムマーン・コンカイ 著、冨田 竹二郎 訳) …
  6. メコン圏が登場するコミック 第23回「密林少年 ~Jungle Boy ~」(著者:深谷 陽)

    メコン圏が登場するコミック 第23回「密林少年 ~Jungle Boy ~」 (著者:深谷 陽) …
  7. メコン圏題材のノンフィクション・ルポルタージュ 第31回 「アキラの地雷博物館とこどもたち」(アキ・ラー 編著)

    メコン圏題材のノンフィクション・ルポルタージュ 第31回 「アキラの地雷博物館とこどもたち」(アキ・…
  8. メコン圏対象の調査研究書 第29回「日本をめざしたベトナムの英雄と皇子 ー ファン・ボイ・チャウとクオン・デ」(白石昌也 著)

    メコン圏対象の調査研究書 第29回「日本をめざしたベトナムの英雄と皇子 ー ファン・ボイ・チャウとク…
  9. メコン圏を舞台とする小説 第50回「バンコク喪服支店」(深田祐介 著)

    メコン圏を舞台とする小説 第50回「バンコク喪服支店」(深田祐介 著) 「バンコク喪服支店」(…
ページ上部へ戻る