馬 登雲

2001年9月掲載

昆明の回族出身の革命活動家。1927年に共産党に入党し19歳で刑死  (1910~29年)▼回族

馬 登雲 1910年~1929年

雲南・昆明の回族出身の革命活動家。1927年5月、雲南回民の中で最も早い共産党員となるが、1929年、19歳の若さで刑死。

(中国共産党は、1917年のロシア革命と1919年の五・四運動の強い影響を受け、レーニンの指導するコミンテルンの援助のもとに、既に陳独秀、李大釗、毛沢東、薫必武らが各地で結成していた共産主義小組、研究会を糾合する形で、1921年7月、最高指導者を陳独秀として上海で結成された)

馬登雲は、1910年、雲南省昆明東寺街の普通の回族の家庭に生れる。幼少の頃、祖父の馬敏齋から、19世紀半ば雲南の回族の蜂起を主導し、16年間に及ぶ雲南・大理に独立政権を打ちたてた杜文秀(1823年~1873年)の故事を良く聞かされていたという。

1923年、雲南省立第一小学を卒業するが、家庭の経済状況が厳しく、中学への進学ができず、印刷を学び、半年間、印刷工場で印刷工として働く。1924年、成徳中学に入学するが、学費を負担できず、2年目に公費待遇の雲南省連合師範学校(1924年に新設された初級師範学校で、学生は昆明、昆陽、富民、武定など8県から選ばれた農村青年で、卒業後各県に戻っての小学教師を養成)に転入する。馬登雲は他の学生と違って、他県からの学生とも等しく付き合い、品性・学業とも優れていたため、連合師範学生会主席に選ばれる。(当時、連合師範学校と成徳中学は隣りあわせで校長も一人が兼任と言う関係であったため、馬登雲は、成徳中学の学生会主席にも成った)

馬登雲は、正課の学習もしっかり行なっていたが、『新青年』『向導』などの当時の新思想を伝えるものや、文芸出版物を読むのを好み、早くから政治意識も高かった。1925年、5・30事件(1925年2月の上海日系紡績労働者のストに端を発し、ストは5月に再燃。5月15日、日系内外棉の工場で中国人労働者が日本人に射殺される。共産党の影響が強い上海学連は抗議を開始。5月30日、学生と市民が租界警察と衝突し、13名が射殺された。)発生後、反帝民族運動が全国に拡大。雲南・昆明の学生も町に出て抗議宣伝活動にあたり、愛国民主運動を展開したが、馬登雲も当時、連合師範学校と成徳中学の代表として、学生連合会の活動に参加する。1926年7月から国民革命軍は北洋軍閥打倒、全国統一を目標に北伐を展開し、労働運動、農民運動も高揚していく中で、馬登雲は、連合師範学校の一部の学生と「青年読書協進会」を組織し、更に当時の雲南共青団の外郭団体である青年努力会に参加し、続いて共青団に加入した。(共青団は、中国共産主義青年団の略で、中国共産党の青年組織。1920年8月、上海社会主義青年団が設立され、北京、武漢、長沙、広州などでも社会主義青年団が作られ、1925年1月、第3回全国大会において中国共産主義青年団に改称)

1927年1月、馬登雲は、雲南省連合師範学校を卒業するが、少数の同級生とともに、学校宿舎に留まり、共青団と学生会を通じて、共産党の活動に関わった。当時中共雲南省特別委員会(1926年11月正式に成立)は、書記・李鑫(1898年~1929年。雲南竜陵県生まれ雲南蒙自県で刑死)と省特別委員・吴澄(1900年~1930年。女性革命活動家。昆明で生まれ昆明で刑死)の指導の下、雲南軍閥・唐継堯(1882年~1927年。雲南省会沢出身。1917年孫文の広東軍政府に参加。大雲南主義を唱えて西南軍閥の雄となる)の独裁統治を覆す策動工作を積極的に進めていた。雲南軍閥・唐継堯傘下の龍雲(1884年~1962年。雲南省昭通県出身。唐継堯の雲南独裁を打倒後、雲南省主席となり、雲南の支配を確立)を始めとする四鎮守使は、1927年2月6日、唐継堯の独裁統治を覆し(”二六”政変)、その後、一部の人民団体の代表も列席させて宜良(現・昆明市東郊)で会議を開くが、馬登雲は、学生連合会代表と言う立場で、この会議に参加し、唐継堯に代る新しい統治者に、唐継堯の反動政策を破棄し、各界人民の民主権利を保護し、学生が民主運動に携わる権利を保障することを要求した。

1927年5月に馬登雲は中国共産党に入党。この時、嵩明(現・昆明市東北郊外)などで農民運動が活発で、嵩明中学校長の地下党員・李少竹が嵩明県の農民運動を指導していたが、中国共産党は、馬登雲を嵩明に派遣し、農村での活動展開に当たらせた。しかしながら1927年7月には第1次国共合作(1924年1月~1927年7月)が崩壊し、急進的民衆運動は弾圧されていったが、1927年冬には、雲南新軍閥も共産主義者弾圧を開始し、馬登雲も、1927年12月、昆明に戻ったところを、威遠街付近で、特務に逮捕され、銭局街の監獄に1年以上収監される。

馬登雲は、1929年初、出獄することができたが、出獄後も昆明市回族清真公会が運営する明徳小学校長を務めながら、革命活動に引き続き従事する。雲南では1927年2月の”二六”政変で雲南軍閥・唐継堯政権は倒壊したが、新たに登場した軍閥間で1927年6月争いが起こり、1927年8月には龍雲が最初の勝利を収めていたが、新軍閥間内部の混戦は続いていた。この軍閥間の争いから、1929年7月11日には、火薬大爆発事件が起こり、昆明の一般人民に大災害をもたらすことになったが、被災民の慰問ということで、1929年9月下旬、蒋介石は、国民党中央委員・王柏齢を雲南に派遣する。しかし各界の人が集まって昆明で開いた被災民慰問大会での王柏齢の演説が妨害され、大会会場が混乱する騒ぎが起こった。大会後、軍警が直ちに出動し、明徳小学執務室で新聞を読んでいた馬登雲を始め、計8名の革命運動家が相前後して逮捕された。逮捕の2日後、馬登雲ら8名の革命運動家は、王柏齢の意を受けた龍雲によって、急ぎ昆明で処刑された。

主要引用参考文献
『雲南革命英烈』(雲南人民出版社、1987年3月)

■回族(Huizu)

中国でイスラームを信仰する10の少数民族の一つ。中国各地に分布し、シナ・チベット語族シナ語派に属し、中国語(漢語)を話し容貌も漢族と大差ないが、イスラームを信奉し独自の習俗を保持することから、少数民族として認定されている。人口860万2978人(1990年)。かつては、回回、回民などと称された。

唐・宋代に中国に渡来したアラブ人やペルシャ人がその最初の起源とされる。明代に入ると、馬など漢族の姓を名のり、漢語を話し、かつ漢族と婚姻を取り結ぶなど、西方のムスリムは次第に中国社会に土着化し、今日の回族社会の原型が出来上がった。

17~18世紀に入ると、甘粛、寧夏を中心とする中国西北地区に中央アジアから帰国した聖者たちによってスーフィズム(イスラーム神秘主義)が伝えられ、回族社会の中にジェフリア派やカーディリー派など種々のスーフィー教団(門宦)が形成された。18~19世紀にかけて、ジェフリアなどの門宦勢力は清朝政府の宗教抑圧政策に抗し、しばしば激しい反乱を引き起こした。

清朝崩壊以降、回族は”回教”を信仰する中国人として扱われてきたが、延安時代の中国共産党は、1940年4月、民族工作を担当していた西北工作委員会を通じて「回民問題に関する綱領」を発表し、その中で<回族人民の宗教を信仰する自由>を確認するとともに、回族を独自民族として認定する政策を打ち出した。建国後も、民族区域自治政策を回族に適用し、回族の集居区に自治権を与え寧夏回族自治区(1958年)、臨夏回族自治州(1956年)などを成立させた。

引用文献
『岩波現代中国事典』(岩波書店、1999年5月)

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