栗田工業創設者殺人事件

2002年12月掲載

1981年8月8日、波乱万丈の異色実業家である栗田工業創設者がバンコクの自宅で刺殺される

1981年8月8日昼前、「サイアム・スイコー(水処理業)」社長、栗田春生(くりた・はるお)さん(62歳)が、タイ・バンコク市内の自宅で、左胸と背中などを包丁で刺されて倒れているのが訪ねてきた通いのタイ人庭師の少年が見つけ、警察に届け出た。背中の傷は心臓に達しており、病院に運ばれた時にはすでに死亡していた。栗田さんの自宅はスクンビット通りから約100メートル入った住宅街の中にある2階建ての家出、1階の台所の前の食堂で倒れていた。

犯行時間は、8月8日午前9時ごろとみられ、事件後、栗田さん宅に住み込み働き出したばかりのタイ人の庭師の少年(16歳)が、「栗田さんに大きな声で怒られたので刺し殺した。田舎に行く」という置手紙を残して姿を消していた。警察はこの少年の行方を追っていたが、8月8日夕方、この少年の出身地である東北タイ・ヤソートーン県ムアン地区にある自宅近くで逮捕され、8月9日夜、バンコクのトンロー警察に護送された。

8月10日午後6時過ぎ、借金を断られたのを怒ったあげくの犯行であることを自供する。トンロー警察の調べでは、犯行のあった8月8日朝、栗田さんに、農繁期なので故郷に帰りたいと、休暇願いと交通費200バーツ(当時の換算レートで約2千円)の借金を申し出て断られ、すでに働いた6日分の給料を払うよう要求を変えた。しかし栗田さんから「まだ1ヶ月も働いていないのにだめだ」と、これも断られ、犯行に及んだという。

別の人の証言では、1981年始め、栗田さんはこの少年を1ヶ月半ほど雇ったが、盗癖があったため、3月に辞めさせた。しかし、その後第1発見者となったタイ人少年のとりなしでこの事件の約1週間前に再び雇ったばかりだったという。

栗田春生さんは、大正8年(1919年)生まれ、福岡県出身の波乱万丈の一生を送った異色実業家。昭和15年(1940年)海軍機関学校卒業後、機関大尉となり、戦後は貨物船千歳丸の機関長として引き揚げに従事。昭和24年(1949年)、30歳の若さで、海軍機関学校時代の仲間達と一緒に、神戸のパチンコ屋の2階に小さな会社を作り、初代社長に就任する。機関学校で覚えたタンクの洗浄などの技術を生かした新商売で、この小さな会社がのちに総合水処理大手として東証一部上場会社となる栗田工業である。

当時、日本各地にいた進駐軍のドラムかんの水洗作業がうまくあたり、その後だれも手をつけていなかった水処理技術に目をつけ、この技術で数々の特許をとり、栗田工業は急成長していった。栗田さんの見事な成功ぶりは小説のモデルとなり、作家・城山三郎 氏の小説『打出小槌一番地』にも描かれている。

しかし、地方自治体向けのし尿処理プラント受注で大がかりな贈賄事件を起こし、さらに脱税や26億円の粉飾決算を行っていた事が明るみに出、会長を退任。昭和44年(1969年)大阪地裁で証券取引法、商法違反で有罪判決を受けたのを機に、昭和47年(1972年)家族を残してバンコクに移った。水処理プラント建設工事と関連薬品を販売する栗田工業の子会社「クリタ・タイ国有限公司(クリタ・タイランド)」の社長となったが、同社も昭和52年(1977年)から経営難に陥り、多額の不渡り手形を出して約1年間タイの刑務所に拘留された。その後は、水処理関係の個人会社「サイアム・スイコー」を経営していたが、こちらの経営もうまくいっておらず、庭で日本料理店用に野菜作りを行なっていた。

参考引用資料:*1981年8月の「読売新聞」など

●栗田工業株式会社
創立:昭和24年7月
東証1部上場会社
総合水処理最大手
現在の本社所在地
(東京都新宿区西新宿)
http://www.kurita.co.jp

◆本事件が起った時の栗田工業の社長は、佐川明 氏。

この事件の起こる2ヶ月前の1981年6月、パリの日本人留学生が同じ大学に学ぶオランダ人女性を殺害、死体をバラバラにして森に捨て、体の一部を食べていたというショッキングな事件が明るみになった。この事件で逮捕・起訴されたパリ第3大学生、佐川一政(32)の父親が、当時の栗田工業社長、佐川明 氏(66)で、1981年6月24日、翌日の株主総会の前に、大阪市東区の本社で記者会見を行い、「世間を騒がせた」として辞意を表明、8月末に辞任することになっていた。

●1981年、タイで日本人が殺人事件の被害者となったのは、この事件で3件目
◆1981年1月
バンコク市内の路上で、タイ農業省の招きで技術指導に訪れていた名古屋市内のコンサルタント会社員、佐藤雅保さん(36)が射殺された。
◆1981年4月
カンボジア国境近くの町アランヤプラテートで、難民救済のボランティア活動をしていた日本奉仕センター(JVC)の西崎憲司さん(30)が強盗に撃たれて死亡。

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