メコン圏対象の調査研究書 第13回「倭人」の源流を求めて ー東南・アッサム山岳民族踏査行ー(森田勇造 著)

メコン圏対象の調査研究書 第13回「倭人」の源流を求めて ー東南・アッサム山岳民族踏査行ー(森田勇造 著)


「倭人」の源流を求めて ー東南・アッサム山岳民族踏査行ー(森田勇造 著)

本書は、1970年代末から80年代初にかけて、中国雲南地方からタイ・ビルマ・インドのナガ高地に至る雲南・アッサムの山地に日本文化のルーツを求めた民族探検の記録である。本書の著者は、日本人の源流を求めての民族踏査行をライフワークとし、日本の文化的、民族的な源流を探ることは、日本の未来を考えるためにも必要なことであるという考えから、1964年以来、内陸アジアの自然発生的な「人の道」の周辺に住む人々と日本人とのかかわりを求めながら、各地で民族踏査を続けてきた方だ。

 

  著者が、本書の「はじめに」で述べているが、著者自身、江上波夫氏が唱えた「騎馬民族日本征服王朝説」に魅せられ、1971年以来、中央アジアから東に住む、騎馬民族の末裔とされているアルタイ系牧畜民のツルクメン、カザク、キルギス、モンゴルなどの諸民族を踏査し、更に1976年からは、騎馬民族で牧畜民文化が強く、しかも半農であるチベット、ヒマラヤ地方のラダク、ネパール、シッキム、ブータンに住む諸民族を踏査している。そしてヒマラヤ南麓に住む人々の生活文化を見聞きするにつれ、その東方に広がる稲作農耕文化や発酵食品文化の発祥の地といわれる雲南山岳地帯、そしてそこに住む諸民族に心ひかれるようになったとのことだ。

 

 中国・雲南省の雲南高原だけでなく、ベトナム北西部、ラオス西部、タイ北西部からビルマ東北部、更にはインド・アッサム地方まで含む広範囲な地帯としての雲南山岳地帯は、今でこそ一部地域を除き、外国人が旅をすることも可能であるが、本書刊行時では非常に困難であった。著者は1976年以来、中国雲南省探訪の計画をたてて何度も中国と交渉するが、雲南への道は遠く、本書に掲載されているシーサンパンナ・タイ族自治州訪問も、まさに外国人が正式に入城できるようになった日、1980年4月11日に実現している。またビルマのシャン族の中心地ケントン(チェントン)は、当時外国人立入禁止で、どうしてもいくことができず、タイ族と同系で雲南高原の一民族としてのシャン族の風習を見聞したかったため、ビルマ・シャン地方のタウンジの町を1977年、80年、82年と訪ねている。

 

 本書では雲南系諸民族として、主に中国のイ族とタイ族、タイのアカ族、ビルマのシャン族、インドのナガ高地南部のアンガミ族とチャカサン族を取り上げている。外国人としての探訪が今ほど容易でなかったことに加え、世界各地を長年にわたり探訪し、多くの人々と出会い、いろいろな歴史や民族性を知る著者だけあって、その取り上げ方が貪欲なまでに広く深く、内容盛りだくさんな本になっている。各所に解説や歴史的背景などの説明が加えられているだけでなく、全ページの最上段はすべて写真(一部、地図)が配されている。

 

 高床式住居、千木・かつお木、鳥居、いれずみと断髪、歌垣、アニミズム、山岳信仰、赤米と穀霊信仰、そして農具や木・竹・わらの道具、数々の発酵食品などの稲作複合文化・・・・と、「倭人」の源流を求めてというこの本のタイトルからも伺えるように、著者は、雲南・アッサムの山岳少数民族の生活風俗と古代日本のそれとの共通項をもとに、両者のミッシング・リンクを埋める興味深い仮説を展開する。中国の江南地方に住んでいた倭人(江南人)と雲南山岳地帯の雲貴高原に住んでいた人々、そして日本列島の倭人と、古代の東アジア世界を

思い描くことは、ワクワクさせられて本当に楽しいものだ。サニ族のタイマツ祭り、雲南省のワ族の人身御供の風習、アカ族のブランコ、アカ族の歌垣、景洪のタイ族に伝えられた伝説で王子が孔雀の娘と結婚する話、ジノー族やアカ族の「若者宿」、雲南地方でなぜ発酵食品が多いのか、などと他にも実にいろいろと興味深い話がたくさん紹介されている。

 

 本書の更に特筆すべき点は、雲南山岳地帯を、雲南省の雲南高原だけでなく、さらにインド・アッサム地方のナガ高地人を訪ねたことであろう。雲南山岳地帯の西南部から支脈となって続く、インド東北部、アッサム地方のナガ高地の探索記録は大変貴重だ。ナガランドについては、当時も訪問は難しかったようで、ナガランド州選出の国会議員ラノ・シャイザ女史の協力で、当時のデサイ首相に直訴することで、1978年、著者はやっと滞在許可を得ている。モンゴロイドでシナ・チベット語族、チベット・ビルマ語派に属するナガ族(いくつかの部族の総称)は、インド領内ではあるものの、長らく独自の文化を保持し、かつて首狩り儀式の風習があり、今尚独立闘争を訴えつづけている。このナガ族の居住する地域も照葉樹林帯で、本書でも納豆、どぶろくなどの発酵食品、赤米、若者宿と夜ばいなどについて触れている。尚、同じ著者・森田勇造氏による『秘境ナガ高地探険記』が、東京新聞出版局より1984年に刊行されている。

 

             本書の目次

 

 はじめに

 

 第1章   常春の雲南高原の人々

 

   石林にサニ族を訪ねて

      昆明の春/雲南人の興亡/五棵村のサニ族

      竹と木とわらの道具/米飯とみそと漬物

      青年たちの歌と踊り/雲南人から倭人へ

 

   景洪盆地のタイ族

      シーサンパンナへ/旱タイと水タイ/タイ暦1342年正月

      雲南諸民族の踊り/魅惑的な娘たち/稲の道と発酵食品の道

      高床式入母屋造りの家/ランツァン川の竜船祭り

      マンチン村の水かけ祭り

 

 

 第2章   タイ・ビルマ北部の高地人

 

   タイのアカ族・サンチャイカオ村

      鳥居のある村/神の依り代と穀倉/村の掟とタブー

      豊年祈願祭と収穫祭/焼畑農業と自然破壊

      最初に雨の降った朝/歌垣の夜/犬と豚と鶏と人間

 

   ビルマにシャン族を訪ねる

      シャン高原のシャン族とタイ族/保存食と発酵食品文化

 

 

 第3章   インド・ナガ高地の旅

 

   ナガランドの自然と人々

      ナガ高地人/長寿者の村と辛い食物

      納豆の元祖とライス・ビア/若者宿とよばい

      ふるまいと権威/稲作と祭り

 

   

 あとがき

      

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