メコン圏対象の調査研究書 第5回「インド東南アジア古寺巡礼」(伊東照司 著)

メコン圏対象の調査研究書 第5回「インド東南アジア古寺巡礼」(伊東照司 著)


「インド東南アジア古寺巡礼」(伊東照司 著、雄山閣出版、1995年発行)

本書は、主に上座部仏教の寺院や遺跡、計112ヶ所について後述の目次内容の通り、目録風に紹介する巡礼への誘いの書である。紹介されている国は、ミャンマー、タイ、ラオス、カンボジア、インド、スリランカ、インドネシアの7カ国に及んでいる。現在インドネシアは主に回教であり、インドはヒンドゥー教か回教となっているが、ベトナム・中国以外のメコン圏地域は、スリランカに源を発しそこから伝えられた上座部仏教の信仰が今も息づいている。

これらの地域には数多くの寺院・遺跡があるが、どこを訪れたらいいのか、また訪れるべき場所各所について詳細な説明が為されており、計108ヶ所の写真(中にはアユタヤ・モンコンボーピット仏堂のように1936年の古写真もあり)や地図(国や町、さらには寺構内といった様々な地図)も添えられている。

釈尊の遺骨(仏舎利)や遺品を安置する仏塔(ストゥーパ)の縁起については、別ページに引用整理したが、他に釈尊に関連するものとして、釈尊の足跡(仏足跡)が有り、この聖地としてタイ・サラブリのワット・プラ・プッタバーッ寺が紹介されている。石灰岩の岩山の上に建つお堂に仏足石がまつられているが、この仏足跡は、アユタヤー王朝の第21代目の王、ソン・タム王(在位1610~1628年)の時代に発見された。当時、「ブン」という猟師がいて、鹿を追って山中に入ったところ、深い藪のなかに、長さ約2mも有り、表面に円形の法輪と108種の吉祥文様が描かれていた仏足跡を見出したとされている。

各古寺の説明には、歴史的な時代説明や古寺にまつわるエピソードも付け加えられ、理解を深めることができる。更に見逃せない仏像や本生図や仏伝図などの仏画という仏教美術の傑作の個所も紹介があり、古寺巡礼の機会には、是非鑑賞したいものだ。またミャンマー・ぺグーのシュエサルヤン横臥仏は、全長54m、高さ16mもある巨大な仏像で有名だが、どこに向けて手をあわし合掌したらよいかとか、数千もの仏塔・仏寺が建ち残るミャンマーのパガンではどの寺院に最初に行きそこで最初に何をしたらよいかといった類のアドバイスまで盛り込まれている。

巻末には、「若き旅人へ」と題した著者からのあとがきがある。著者は「巡礼には、ぜひとも聖なる本を一冊もって歩くとよいだろう。・・・たとえば、釈尊の言葉をあつめた「ダンマ・パダ」(法句経)や、「スッタニ・パータ」は実に身にしみる。・・・」とも述べられている。なかなか一般の人にとって誰でもできることではなかろうが、少なくとも、心を静めきよめるという心の旅・巡礼をするには、上っ面の慌しいあるいはわいわいがやがやの観光では、せっかくの古寺訪問が活かされないであろう。限度のない各種欲望に突き動かされたり、いたずらに周囲にあおられ、無意味な焦燥感や空虚な虚脱感におそわれ自己を見失いがちになりかねない現代世相の下では、確かに著者が言われるように「上座部仏教の世界から、日本人はまだ学ぶものが多いと信じる」ことができるのではなかろうか?

本書 『インド東南アジア古寺巡礼』の目次


旅のはじめに
第1章 インド
中インド ボードガヤー/サールナート/サーンチー/アジャンター石窟
アウランガーバード近郊 エローラ石窟/アウランガーバード石窟
ボンベイ近郊 カールラー石窟/カンヘーリ石窟

第2章 スリランカ
スリ・パダ 仏足山
ミヒンタレー カンタカ・セティヤ仏塔/マハーツーパ仏塔
ボンベイ近郊 カールラー石窟/カンヘーリ石窟

第3章 ミャンマー
ヤンゴン
シュウェダゴン仏塔/スレ仏塔
ぺグー
シュエモードー仏塔/シウェサルヤン横臥仏/チャイプン四体仏
パガン
ワット・シームアーン寺/ワット・オン・テ寺/ワット・チャン寺/ ワット・オプムオン寺
マンダレー
クトードー仏塔/マハームニ寺院/シュエ・ナンダウ寺/ チャウトウジー寺院/セチャティハ寺院
アマラプラ
チャウトウジー寺院/パトゥドージー仏塔
アヴァ
マハ・アウンミエ・ボンザン寺院
サガイン
カウン・フムードー仏塔

第4章 タイ
ナコーン・パトム
プラ・パトム・チェディー大塔
ピマーイ
プラーサート・ヒン・ピマーイ
スコータイ
ワット・マハータート寺
チェンマイ
ワット・チェンマン寺/ワット・チェディー・ルアン寺/ワット・プラ・シン寺/ ワット・チェット・ヨート寺/ワット・スワン・ドーク寺/ワット・ドーイ・ステープ寺
ランプーン
ワット・プラタート・ハリプンチャイ寺
サラブリー
ワット・プラ・プッタバーッ寺
アユタヤー
ワット・パナンチューン寺/モンコンボーピット仏堂/ワット・ナー・プラメーン寺
バンコック
ワット・プラ・ケオ寺/ワット・ポー寺/ワット・ベンチャマボーピット寺/ ワット・サケート寺/ワット・スタット寺

第5章 ラオス
ルアン・プラバン
ワット・シェントーン寺/ワット・ウィシューン寺/ワット・アハン寺/ ワット・マイ寺/ワット・マノーロム寺/ワット・タート・ルアン寺/パクー・オー窟
ヴィエンチャン
プラ・タート・ルアン仏塔/ワット・プラ・ケオ寺/ワット・シーサケット寺/ ワット・シームアーン寺/ワット・オン・テ寺/ワット・チャン寺/ ワット・オプムオン寺

第6章 カンボジア
プノン・ペン
ワット・プレア・ケオ寺/ワット・プノン寺/ワット・ウナロン寺/ ワット・マハー・モントリー寺
シヤムリヤップ
アンコール・ワット/バイヨン/バイヨンの本尊仏/テップ・プラナムの大仏/ プリヤ・カン/ニヤック・ポアン/プノン・クロム
ロルーオス
バコン/ロレイ
トンレ・バティ
タ・プローム

第7章 インドネシア
ボドブドール、プランバナン、バリ島

釈迦・釈尊とブッダ(仏陀)
仏教の開祖個人をブッダ(仏陀)と呼ぶことも古くから行われているが、「ブッダ」の語は、もともと「悟った人」の尊称。仏教の開祖個人は、俗名ゴータマ・シッダールタで、ゴータマ・ブッダあるいは釈迦族出身の聖者の意であるシャーキャムニ(釈迦、釈迦牟尼)と称される。釈尊は、シャーキャムニ・ブッダ(釈迦牟尼世尊)という敬称を略したものである。

●釈尊の「四大聖地」
釈尊の誕生の地  ルンビニー
インド国境に近い現ネパール南部のルンミンディ。1896年、インド考古局のフューラーによって、アショーカ王石柱が発見され、ブラーフミー文字によって刻まれた碑文によって、この地が釈尊生誕の場所であることが確認された。
釈尊の成道の地  ボードガヤー
中インドのガヤー市の南、約10kmの地点。釈尊が6年間の苦行の後、35歳でこの地のピッパラ樹(菩提樹)の下で、悟りを開く
釈尊の初転法輪の地  サールナート(鹿野苑)
釈尊最初の説法(初転法輪)の地 。5比丘に説いた最初の説法は、「法の輪(ダルマ・チャクラ)が初めて転じられたとの意から「初転法輪」と呼ばれ、インド・ヴァーラーナシーの北方、約6kmの地点。サールナートは今日の地名で、本来の名前は「ムリガダーヴァ」(鹿野苑)。グプタ期(4~5世紀)のダーメーク塔が聳え、附近一帯は遺跡として整備されている
釈尊の入滅の地  クシーナーガラ
この4聖地に、ラージュギル、サヘート・マヘート(祇園精舎と舎衛城)、サーンカーシャ(降臨伝説の地)、ヴァイシャーリーを加えて、8大聖地となる。

ジャータカ(本生譚)
アショーカ王の強力な外護や各部派の熱心な伝道活動などによって、仏教は飛躍的に発展する。それとともに教祖・釈迦のイメージは次第に偉大さを増していき、超人化していく。「輪廻転生」の観念で生まれ変わる地獄・餓鬼・畜生・阿修羅・人間・天の6種の世界(六道)から解脱を果たした存在こそ仏陀であると考えられ、この世で解脱を果たし仏陀となった釈迦も、前世では何度もいろいろな世に生まれ変わっているはずであり、そのそれぞれの世で厳しい修行を積みつづけてきたからこそ、この世で尊い悟りを開くことができたという考えが成立した。この考えにもとづいて作られたおびただしい数の説話が『ジャータカ』(本生譚)である。

法句経(ダンマパダ)
『パーリ語三蔵』に含まれる経典で、日常の思いがテーマの韻文詩を集成したもの

スッタニパータ
『パーリ語三蔵』の中に含まれ、原始仏教の経典の中でも最古のものとされる。統一されたテーマがなく、雑多な経を集成した教典で、純朴で素朴な仏教の教理を説く
<主たる参考書籍『釈迦の本』(学研、1994年)>

ヤンゴンの主要古寺
シュウェダゴン仏塔(ヤンゴン)
ミャンマーを象徴する大仏塔。高さ約100mの頂点に傘型の飾りをもつ典型的なビルマ式の仏塔。1362年この地にあったハンサワディー国のピンヤ・ウ王が従来の仏塔を増築。15世紀、当時ぺグーに君臨したシンサウブ王妃(在位1453~1472)が仏塔を増築。ダンマセティ王(在位1472~1492)が黄金を仏塔に寄進。アラウンパヤー王朝のスィンビューシン王(在位1763~1776)、ミンドゥン王(在位1853~1878)の時(1871年)、傘蓋ティが付け替えられた。大仏塔の東側には、ダンマセティ王による碑文あり(1485年、モン語・ビルマ語で記された)

ルアンパバンの主要古寺
ワット・シェントーン寺(ルアンパバン)
王家の即位もここで行われてきた「王室寺院」。1560年セタティラート王により建立。本堂脇の東側のお堂に安置されたラオス独特の横臥仏(全長約1mの青銅仏)は、1911年パリ博に陳列されたが、なかなかラオスに返されず、1932年にようやく故国ラオスに戻された。1962年に建てられたお堂の中には、シーサワンウォング王の遺体を載せた葬儀用の御車がおさめられている。1958年、ラオス第一の彫刻師ティタンの手による傑作
ワット・ウィシューン寺(ルアンパバン)
ウィスンナラート王(在位1500~1520)により1503年建てられ翌年完成。現在王宮博物館に安置されているプラ・バーン仏をもともと安置する目的で建立された。創建当時の木造の本堂は、1887年雲南省のポー軍の侵略により焼失し、1898年再建
ワット・アハン寺(ルアンパバン)
1818年、マンタトゥラート王により建立。
ワット・タート・ルアン寺(ルアンパバン)
本堂は、1818年マンタトゥラート王(在位1817~1836)によって建立。本堂の前には、シーサワンウォング王(在位1904~1954)の遺骨をおさめた仏塔が建つ。
ワット・マノーロム寺(ルアンパバン)
1372年鋳造のスコタイ様式の仏像安置
ワット・マイ寺(ルアンパバン)
1796年アヌルッダ王(在位1791~1817)によって建立。本堂の入口正面の壁面に「ヴエンサンタラ本生図」あり。

プノンペンの主要古寺
ワット・プレア・ケオ寺(プノンペン)
王宮の南東にある王宮寺院。本堂は銀のタイルで敷き詰められた床であることから「銀寺」と呼ばれる。1892年ノロドム王(在位1859~1904)によって木造で建立。現在の銀寺は1962年に再建。回廊には「ラーマヤナ」物語の壁画あり。また寺院内には、銀寺以外に、ノロドム王像、ノロドム王仏塔、アン・ドン王仏塔、スラマリット王仏塔、経蔵、仏足石堂がある。
ワット・プノン寺(プノンペン)
建立については、ペン婦人にまつわる縁起があり。1372年建立と言われ、その後数回再建されてきた。本堂内面には10種類のジャータカが描かれている。お堂の裏側の仏塔には、ポンニャ・ヤット王(在位1405~1467)の遺骨がおさめられているといわれ、その仏塔の脇には、ペン婦人の肖像といわれる石像がまつられている。
ワット・ウナロン寺(プノンペン)
カンボジア仏教僧伽の中心的寺院。1443年に建立されたといわれるが、その後何度も再建されている。本堂3階の内部の壁面には、仏伝図が描かれている。
ワット・マハーモントリー寺(プノンペン)
モニヴォン王(在位1927~1941)の大臣、チャクリー・ポン候によって建立。1970年に再建された本堂内部には、釈尊の生涯をあらわす仏伝図が描かれている。

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