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メコン圏を舞台とする小説 第6回「俘虜偽装殺人事件」(草野唯雄 著)
- 2000/4/10
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メコン圏を舞台とする小説 第6回「俘虜偽装殺人事件」(草野唯雄 著)
「俘虜偽装殺人事件」著者:草野唯雄(そうの・ただお)角川文庫、1990年初版
(本作品は、1973年6月に『明日知れぬ命』と題して産報より新書版で刊行)
援蒋ルートというと、どのルートを思い浮かべるであろうか?ビルマから雲南省に抜けるルートも有名であるが、北部ベトナムから中国南部に抜けるルートも重要だ。本書は、まさにこちらの援蒋ルートをめぐって日中間の戦いが展開された中国南部が舞台であり、時は1939年(昭和14年)の年末から翌年にかけてである。
中国との戦争が泥沼化しており、打開を図るべく、大本営参謀本部が援蒋ルートの最重要拠点である広西省の省都である南寧攻略作戦を立てた。仏印(仏領インドシナ、現ベトナム)=南寧=桂林=長沙の援蒋ルート(重慶を拠点とする蒋介石国民党政権を援助するルート)を通じて中国軍に流れ込む米、英、仏の武器弾薬や物資の補給を、南寧を占領することによってぶった切ろうと考えたわけだ。具体的には、南支派遣軍がこの作戦を担当し、欽州湾に上陸した後、欽州(欽県)から南寧に至る欽寧公路の兵站線を確保しながら、南寧を占領するという作戦だ。
本書のストーリーは、この新たな作戦とそれに付随する陽動作戦が展開される中で、中国人のスパイ行為が発覚し、日本軍の中に中国側へ情報を提供している何者かがいることが分かる事から始まる。そして憲兵隊の曹長が、その正体をつきとめようとし、一方疑われた軍人が所属する部隊の上層部は、保身のために事件を穏便に終わらせようと画策しながら、話は展開していく。
中国軍のスパイではないが、日本の帝国主義侵略戦争には、イデオロギー的にも反対の立場をとり、究極的には日本の敗北必至という歴史観を隠れ持った反戦主義者の日本軍人に加え、本書では、実在した中国軍内の日本兵捕虜による反戦同盟の活動に触れている。
この中国軍内の日本人による反戦運動というテーマも興味深いが、広西チワン族自治区という地域の各時代状況における地政的なポジション、南中国における日本軍の作戦展開というテーマも詳しく見ておきたい。
作者の草野唯雄氏は、自ら1938年から40年にかけて、南支派遣軍久納兵団野溝部隊中村隊の一兵士として、広東省から広西省にかけて転戦していたとのことで、戦場や軍隊内部、さらに当時の中国南部の様子の描写は実にこまやかである。
同書関連ワード
南中国関係
珠江、石岐、中山県、欽州湾、広西省南寧、欽寧公路、広九鉄道、南寧河(邑江)、武鳴平野、竜州、中山大学、翁源、蛋民(水上生活者)、南寧飛行場、嶺南丘陵地帯、大嶺山脈、従化、仏岡、英徳、五嶺山系、虎門砲台、ファンシー水道、雷州半島、海南島、海南海峡、西洋江、平果、軍事情勢
軍票(日本軍が現地で物品を購入するために使用する証票)
参謀総長・陳誠大将、白崇禧将軍、李宗仁将軍、張発圭大将、
南支派遣軍第21軍、広島第5師団、
国民党軍、共産八路軍、広西軍、遊撃隊、蒋介石直系中央軍
バイワス湾上陸、飛行連隊、海軍水上飛行隊、
座金上り(幹部候補生出身将校)、宣憮班、チェコ機銃、
漢奸(中国人でありながら日本軍のためにスパイ活動をしているもの)
ストーリー展開場所
広州(広東)、欽州(欽県)、南寧、従化ストーリー展開時代
1939年11月~1940年1月登場人物たち
資宗高志曹長(現役志願兵から憲兵曹長にまで叩き上げた男で広東憲兵隊本部
村上伍長(資宗の部下の憲兵班長)
大森伍長(資宗の部下の憲兵班長)
吉田兵長(補助憲兵)
台湾人通訳
長谷川副官(師団司令部)
西大尉(南寧の奪回を目指す蒋直系軍を牽制するための陽動作戦・翁源作戦担当の山本師団野口連隊第1大隊第2中隊長)
日野少尉(反戦主義者で西中隊の第2小隊長)
馬場軍曹(日野小隊の分隊長)
室准尉(西中隊の第3小隊長)
原軍曹(室小隊の分隊長)
李里(日本陸軍病院の看護婦助手)
潘(中国軍のスパイ容疑者)
李参謀(中国軍司令部)
森山隆(日本人民反戦同盟西南支部特別工作隊)
富永作戦部長(大本営作戦主任参謀)
安藤利吉・南支派遣軍第21軍司令官
滝田勇中将(南寧作戦担当の師団長)
玉井大佐(参謀長)
松木大佐(歩兵連隊長)
梅本定吉少将(南寧作戦担当の台湾混成旅団長)
森義夫大佐(梅本旅団傘下の連隊長)