クーハーピムック寺

2000年8月掲載

シュリービジャヤ時代の変った寝釈迦仏やミニ博物館がある
▼ヤラー県(南タイ)の歴史的ポジション

クーハーピムック寺は、ヤラー県のムアン郡ナータム区にある南タイ3大宗教聖地(他2ヶ所は、スラータニ県・チャイヤー、ナコンシタマラート県にある)の一つである。

変った様式の寝釈迦仏
同寺はワット・タム山の麓に建つが、寺のすぐ後ろには大きな洞窟があkuhapimuk.JPG (202820 バイト)り、約1300年前のシュリーヴィジャヤ時代のものといわれる長さ81フィート1インチの大きな寝釈迦仏がある。タイの他の地で見かける寝釈迦仏と著しく異なるのは、ナーガ像が仏像の上半身部分い覆い被さっていることだ。このため、この寝釈迦仏は、もともとはシュリービィジャヤ王国の下で栄えた大乗仏教の菩薩像であったが、その後小乗仏教がこの地に普及するにつれ、セイロン様式の小乗仏教の仏像として改められたものと見られている。

クーハーピムック寺と博物館
クーハーピムック寺の上のプラノーン洞窟の入り口のところにシュリービジャヤ文化館と呼ばれるミニ博物館がある。8代目の現住職のピタックタムスントーン師僧(1929年生まれの地元出身)は、貴重な考古品の分散消失を恐れ、1957年から地元出土の考古品の収集と共に、発掘して個人の財産にしていた村人に寄進を呼びかけ、博物館を作った。この博物館には、地元の洞窟から出土されたシュリービジャヤ時代の仏像等が展示されている。

同寺そのものは、1847年に寺の建設が始まり、初代住職をソンクラー県サティンプラ郡の寺から招聘している。ラーマ4世に任命された当時のヤラー県知事が心が広くムスリム・タイであろうと仏教徒タイであろうと共に寛容的であったため、近隣の県から人が移り住み、多くの新しい村ができていった。このうちの一つに、ヤリング(現パッタニー県)の町から10家族がナータム村に家を建てようとした時、近くの山洞に寝釈迦仏を発見したことも、この仏教徒の人々が県知事の許可を得て、寝釈迦仏のある山の麓に寺を建てたことに始まる。(元の名前は、ナータム寺であったが、ピブン・ソンクラーム元帥が首相在任時、現在の寺の名前に改称)

ワット・タム山のシン洞窟壁画
クーハーピムック寺がある同じ山のワット・タム山ではあるが、寺から南に約15kmの位置に暗い洞窟があり、1925年、この洞窟から仏像の一部とともに、岩窟に描かれた壁画が発見された。この壁画は、シュリービジャヤ時代末期の14世紀初期の作品と推定されている。3人の女性が描かれた壁画があり、シュリービジャヤ芸術では女性がよく描かれるが、これに対し初期のタイ芸術(西暦13~16世紀)では女性がほとんど描かれていない。また仏像坐像の壁画では、胴体が長く、頭部が丸く、変った形の光輪が描かれている。(但し、この洞窟の方は、99年7月時には、一般公開されていなかった)

●ヤラー県(南タイ)
ヤラー県は、南部がマレーシアに接する県で、住民の多くがマライ系である。錫、鉛、タングステン、ゴムなどを産する。ラーマ一世時にパッタニー国を征した時、この土地もタイ領となった。ヤラーの町はもとヤラー山の近くにあったのでこの名がある。
マレーシアのぺラ州と接する国境の町・ヤラー県バトン郡からヤラー県のタンター郡、バンナンサター郡、ムアンヤラーを経てパッタニー川がマレー半島東部のタイ湾に流れ込んでいる。このパッタニー川流域からは多くの考古品が出土している。
中でも特にムアンヤラーから西に5~8kmの地域一帯は、ヤラー県ムアン郡ターサーブ区・ナータム区であるが、地元の人たちはトゥングカーローと呼び、昔繁栄していた地域と見られる。同地域では、1929年中国人の遺体を埋めるために穴を掘っていたところ、仏像や神像が発見された。更に1957年ターサーブ空港建設のため、整地作業が行われ、この折ヴィシュヌ神像や多数の仏像が発見されたらしい。しかし作業者たちの手で出土品が持ち去られ、更にこの空港建設工事で、昔の町の遺構の址が壊されてしまったようだ。
このヤラーの町周辺の地帯は、シュリービジャヤ王国の重要拠点の一つであったマレー半島西岸・マラッカ海峡東側のクダー(現マレーシア・クダー州)と、マレー半島東岸の南タイ・パッタニー(3世紀に始まる伝承を持ち、6世紀を中心に中国に朝貢していたランカスカ国の中心地がパッタニーに比定されている)を結ぶマレー半島陸路横断の一つの交易路にあったはずだ。

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