華南における日本軍の戦線展開(1)

2000年4月掲載

広州湾上陸・広東攻略から海南島攻略

昭和12年(1937年)7月7日の盧溝橋事件が発端となった日中戦争(日本政府ははじめこの戦争を「北支事変」と呼び、戦闘が拡大した1937年9月2日「支那事変」と言い換えた、宣戦布告のなかった戦争)が拡大していく中、自由貿易港としての英領・香港を中継とする華南地区補給路は当時、実施中の大陸沿岸封鎖の網をくぐる最大のものであった。香港を経由する中国の輸入量は1937年から激増し、1938年10月頃には、海外補給総量の約8割に達すると見込まれるに至り、また香港、広東等の援蒋補給路の基地は同時に列強の援蒋策謀の源泉地ともなった。

大本営は、この香港ルートを遮断すべく、1938年(昭和13年)秋、武漢作戦と時を同じくして広東(広州)を攻略することとし、1938年9月19日、大陸命第200号をもって第21軍および第4飛行団の戦闘序列及び編成を令すると同時に、同時大陸命第201号をもって広東の攻略を命じた。

広東の攻略

1938年(昭和13年)10月12日、海軍(塩沢幸一海軍中将の指揮する第5、第9戦隊基幹)に支援された第21軍(古荘幹郎中将指揮)の主力(広東攻略を命じられた第21軍の主力部隊は、第18師団(久納誠一中将指揮)と第104師団(三宅俊雄中将指揮))が、およそ100隻の輸送船に分乗し、白耶士(バイヤス)湾に奇襲上陸。10月13日には第21軍司令部も上陸し、広東攻略戦が開始された。

恵州ー増城に沿う地区を途中国民政府軍を撃破しつつ、一挙に10月21日広東(広州)に入城。占領翌日の22日には珠湾を封鎖し、外国船の出入りを禁止した。また第21軍を構成したもう一つの師団である第5師団は、海軍陸戦隊と協同して虎門要塞を攻略し、珠江を遡行して仏山(11月2日)附近に進出した。こうして日本軍は10月12日の上陸以来、早くも11月初頭には広東附近の要域を制圧占拠した。

広東防衛にあたって蒋介石総統は、この方面を守備する第4戦区長官に李済探将軍を、また張発奎将軍を南支防衛総司令に任じたが、広東陥落後は、第4戦区の中心を広西省に移し、張発奎将軍を戦区長官とし、また広東北方韶関附近を中心とする前敵総司令に余漢謀将軍を任命した。

海南島の攻略

日本軍による広東攻略作戦は、香港・広東ルートを遮断し、その後、中国の海外補給路は仏印公路、ビルマ公路或いは西北輸送路等にたよることになる。

海南島攻撃が特に海軍の強い要求により、1939年1月13日の御前会議(平沼内閣)で決定。2月10日に決行し、2月14日には作戦(甲・乙作戦)完了、島の南、北岸の要域(三亜、海口)を制圧・占領した。海南島南西岸に産出する豊富な鉱物資源の開発或いは南シナ海の封鎖基地としての必要性もあったが、海南島南岸・三亜の海空基地としての対南方価値はきわめて大なるものがあった。

1939年6月には汕頭を第104師団後藤支隊が攻略。1939年9月には、支那派遣軍が設立され、第21軍はその配下に入った。1939年10月16日大陸命第375号により、大本営は、ベトナムからの仏印援蒋ルートを遮断すべく、広西省の南寧=龍州道の遮断を命ずる。そして南寧、龍州を攻略するため、第21軍は1939年11月15日欽州湾に上陸する。

(続く)

主たる参考図書:
『戦史叢書 1号作戦<3> 廣西の会戦』(防衛庁防衛研修所戦史室、朝雲新聞社、1969年)
『写真記録 日中戦争3 拡大する日中戦争』(鈴木亮・笠原十九司 編、ほるぷ出版、1995年)

●武漢作戦
南京陥落(1937年12月13日)後、中国国民政府は、首都を武漢に移しており、大本営は、1938年8月22日武漢攻略命令(大陸命第188号)を発し、30万の兵力を動員して1938年8月下旬から戦闘を開始。国民党軍は、1937年11月20日、重慶に首都を移し、日本軍との抗戦を続け、農村地帯では、共産党の抗日ゲリラが抵抗していた。

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