メコン圏関連の趣味実用・カルチャー書 第8回「映画で読むタイランド」 「王様と私」から「ザ・ビーチ」まで(原川順男 著)

メコン圏関連の趣味実用・カルチャー書 第8回「映画で読むタイランド」 「王様と私」から「ザ・ビーチ」まで(原川順男 著)

「映画で読むタイランド」 「王様と私」から「ザ・ビーチ」まで(原川順男 著、2001年11月発行)<本書は、デジタルパブリッシングサービスの「万能Web出版」により刊行された個人出版作品>

<著者略歴>原川 順男(はらかわ・まさお)
1938年静岡市生まれ。1962年東京外国語大学タイ科卒業と同時に、大正(現・三井)海上火災保険に入社、1968年から1972年までのバンコク駐在をはじめ、その他の海外駐在、本部外国部門勤務を経て、1993年退社。1993年より8年間日本サルヴェージに勤務ののち、現在はフリー。(本書著者紹介より:発行当時) 

タイを舞台にした映画、タイと関わりの深い映画という切り口から、タイの歴史、王制、宗教、文化など、タイおよびタイ人についての理解を深めることができる本書は、過去50年以上にわたって見続けてきた映画歴に、タイに長らくかかわり続けてきた著者の経験をベースに書かれた個人出版作品。著者は本書”はじめに”で、「日本はタイと密接な関係にありながら、タイに駐在、あるいは長期滞在しながら目は常に日本の方向に向けていかざるを得ないビジネスマン、つかの間の旅をエンジョイしていっぱしのタイ通を自任する旅行者、旅行の穴場探し、安宿めぐり、うまい料理行脚などに焦点をあてた書籍のはんらんなどを目にするにつけ、一国の異文化を吸収し理解しようとする姿勢の欠如を感じざるをえません。」と述べているが、著者のタイに対する深い理解と熱い思いは本書の随所に感じることができる。加えて時に辛辣で遠慮のない率直な著者の意見・感想も大変印象的だ。

 本書副題に、「王様と私」から「ザ・ビーチ」までとあるように、まず第1章で、タイを舞台にした外国映画で最も有名と思われる『王様と私』に関連する話が取り上げられている。タイを舞台にした外国映画は過去相当な数に上っているが、「概して外国人の目を通して一方的にタイを描いているので、現地の感情を無視した無神経な描写が多く,タイの歴史をゆがめて描いた映画もあった」と、本書”はじめに”でも書かれているが、「Shall We Dance」でも有名で世界的に大ヒットした1956年アメリカで製作のミュージカル映画『王様と私』が、どうしてタイでずっと上映禁止なのか説明がなされている。

 1862年、チュラロンコン皇太子の家庭教師としてシンガポールからシャム国に赴任したイギリス人女性アンナ・レオノーエンズ(1831~1914年)が1870年に書いた「シャム宮廷のイギリス人家庭教師」なる手記を、バンコクに在住した宣教師夫人のマーガレット・ランドンが1944年に小説として刊行。『王様と私』は、この小説を映画化したものであるが、1946年製作の映画『アンナとシャム王』に次ぐ2度目の映画化作品。「私」は皇太子の女性家庭教師アンナであり、「王様」とは後のラーマ5世となるチュラロンコン皇太子の父であるラーマ4世モンクット王(在位1851~1868年)。そして1999年にアメリカで製作された3度目の映画化作品『アンナと王様』も、映画は映画で史実とは別物の一つの娯楽なのに、タイでのロケが認められなかっただけでなく、タイでの上映が禁止されているが、この作品についても論評が加えられている。3本の映画に共通して出てきた側女タプティムのことや、『アンナと王様』に登場するアラク将軍の反乱事件についての解説も興味深い。

 本書第5章で紹介されている、本書副題タイトルに書かれたもう一つの映画『ザ・ビーチ』の方は、世界中で大ヒットした映画『タイタニック』で人気絶頂となったレオナルド・ディカプリオを主演とした2000年製作の現代のタイを舞台としたアメリカ映画。この映画は、冒頭のカオサン通りのシーンはクラビで、ジャングル内のシーンはカオヤイ国立公園、そして肝心のビーチのシーンはアンダマン海のピピ・レ島(ピピ島の小さい方の島)にあるマヤ・ビーチと、タイで撮影された。ちなみに映画の中では、楽園とされる小さな島はタイ湾に浮かぶ島という設定になっている。ところがこの映画のマヤ・ビーチでの撮影ロケに関しては環境破壊の問題で大きく騒がれることになり(問題を報じる1999年2月7日付の日本経済新聞記事参照)、ハリウッド映画会社20世紀フォックス,タイ森林局、自然保護団体をめぐる騒動を取り上げている。映画『ザ・ビーチ』の内容そのものについても著者は酷評している。本書第5章では、他にも、日本を含む多くの映画がタイで撮影されたことに触れ、大いに観光宣伝に貢献した007シリーズの第9作『黄金銃を持つ男』や、タイがロケ地に選ばれたベトナム戦争やカンボジア動乱などを描いた映画作品の事が紹介されている。

 タイを舞台とした外国映画で世界的に大ヒットした有名な作品に『戦場にかける橋』があり、この映画の主題曲「クワイ河マーチ」は広く知られている。太平洋戦争中、日本軍が連合軍捕虜を駆り出しタイ=ビルマ間に敷設を決定した泰緬鉄道の建設を進めるという日本軍の行為を通じて、日本人でも知らない戦争の重大な局面を描き出した映画ではあるが、鉄道建設にあたって最大数の人数が動員され、最大数の死者を出したアジア人労務者については映画では描かれていない。この映画で有名になったカンチャナブリの町や橋、日本製の機関車のその後など泰緬鉄道などにまつわる話もいろいろと紹介されている。生き残った連合軍捕虜でまだ労働に耐えられると判断されたものは日本に送られたという後日談が、『戦場にかける橋2 クワイ河からの生還』という作品に映画化されていることは知らなかった。『戦場にかける橋』の原作を書き『猿の惑星』の原作者でもあるフランス人ピエール・ブール(1912-94)は、太平洋戦争中、対日抵抗運動の連絡員として活動中にマレーで日本軍に捕らえられ強制労働に駆り出されている。

 タイを舞台にした外国映画については、他に1章を設け、タイにおいて麻薬所持で逮捕される若い外国人女性たちを描く『ブロークダウン・パレス』、『囚われた女』という2本の作品を取り上げている。本書ではタイを舞台にした既に映画化された作品を取り上げ、映画についての論評や題材の背景解説を行っているが、著者が”タイとマレーシアにまたがるアジア最大のミステリー”という1967年に起こったジム・トンプソン失踪事件がまだ一度も映画化されていないことを取り上げ、「ジム・トンプソンの人生と失踪の謎」を是非映画化してほしいと切に望んでいる。

 また本書ではタイを舞台にした外国映画については著者の辛らつな意見が目立つが、好意的な意見を寄せている映画作品も紹介されている。タイの女性作家トムヤンティが1969年に発表した小説『クーカム』(邦訳本タイトルは『メナムの残照)』)を原作としたタイ映画の1995年版だ。太平洋戦争中タイに駐留した日本軍人「コボリ」を主人公にした作品であるが、そこに描かれたコボリの人間像をタイ人が創作したことが非常に興味深いと著者は語っているが、全く同感だ。テレビドラマ化された続編『クーカム2』やタイ人の間でのコボリ伝説の話も面白い。最終章の第7章では、タイ国産の映画の歴史や変貌するタイの映画事情についてもふれ、第5章ともあわせ、日本映画を含むタイでロケされてきた外国映画作品を数多く紹介している。

 

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