メコン圏が登場するコミック 第12回「ゴルゴ13・二十年目の毒」(さいとう・たかを 著)

メコン圏が登場するコミック 第12回「ゴルゴ13・二十年目の毒」(さいとう・たかを 著)


「ゴルゴ 13 二十年目の毒」(【SPコミックス・シリーズ79「スーパー・スターの共演」】著者 さいとう・たかを、リイド社)

本作品『二十年目の毒』は、世界をまたにかけて活躍する狙撃のプロフェッショナル、ゴルゴ13(サーティーン)のSPコミックシリーズ第79巻「スーパー・スターの共演」(計3作品収納)に収められている1987年8月作品。本書ストーリーの主たる舞台は1987年のオーストラリアという設定であるが、本作品でのゴルゴ13への依頼者は、ベトナム戦争中にアメリカ特殊部隊の村民虐殺事件で妻子を殺されたベトナム政府高官で、死期間際の病床にある依頼者に会いに、ゴルゴがベトナム民主共和国ホーチミン市を訪れている。

 本作品の書き出しは、オーストラリアのシドニーで、1人の男が2人組の男に追い詰められ射殺される場面となっており、何らかの軍の機密や情報を持って脱走した元兵士を追いかけているアメリカ軍情報部の特別プロジェクトチームが登場する。たんなる脱走者の捜査チームではなく、持ち逃げされた軍の機密や情報を証するモノを取り返すことを使命としているが、ワシントンのアメリカ軍情報部にオーストラリア情報部から、米国への里帰りのためパスポートを申請していたオーストラリアに住む42歳の米国人ウエスト・パーカーに不審な点がありとして、オーストラリア海軍が申請を取り消し逮捕したという情報が入る。アメリカ軍情報部で調べた結果、その男は20年前のベトナム脱走兵のウイリアム・ブーン一等兵と判明した。

 彼は、20年前のベトナム戦争当時米海兵隊の特殊部隊に所属し、2年間従軍して戦っており、休暇を利用してオーストラリアに来て、そのまま二度と戦場へ戻らず、オーストラリア女性と結婚し、永住権を取得して幸せな家庭を持っている実業家で、オーストラリアで名士となっていたが、単なるベトナム脱走兵ではなく、米国にとって重大な”脱走兵”であった。そして、オーストラリアに飛んだアメリカ軍情報部の特別プロジェクトチームメンバーは、ホーチミンでゴルゴ13に依頼をするオーストラリア海軍に拘束されているパーカーの周辺を何かモノを必死に探し回る。

 この気になるパーカーの正体については、ホーチミンでゴルゴ13の依頼者たるベトナム政府高官の口から明らかになる。1965年の米海兵隊による”ソンミ村事件”で、一夜にして7百人以上の村民が、ベトコンと称されて殺りくされたが、依頼者の両親と妻、それに幼い2人の娘も、この虐殺事件の犠牲者となっていた。本書では、この虐殺は、伝えられているように銃火器による射殺ではなく、海兵隊の特殊部隊が実験的に使用した新型の化学細菌の兵器による殺りくだったが、その秘密作戦を行った時の様子を克明に納めたフィルムを持って国外に脱走した2人の男の1人であった。

 ベトナム高官のゴルゴ13に対する依頼は、両親と妻と娘たちを殺した人間の1人であるウィリアム・ブーンの抹殺と、忌わしい事件を納めたというフィルムの焼却というもので、本作品の後半の見所は、ゴルゴ13が、ウィリアム・ブーンをどのようにして狙撃するかということと、アメリカ軍情報部が必死に手を尽くしてもなかなか探せないフィルムをどのようにして焼却するかということになる。また、本作品のラストの章のタイトルが「花に埋まった老医師」となっているが、このタイトルに関係して、ゴルゴ13が吐いたシャレたセリフが、一番最後のラストシーンに描かれている。

 尚、本書では、1965年の米海兵隊による”ソンミ村”事件という設定になっているが、国際社会を震撼させた実際のソンミ村事件は、ベトナム戦争下の1968年3月16日の早朝、ベトナム中部、クアンガイ省ソンミ村で起こっており、米陸軍のカリー中尉率いる部隊が、当時の南ベトナム・クアンガイ省のソンミ村を襲撃、女性や子供を含む無抵抗の村民504人を殺害した事件だ。このベトナム戦争で最大級の虐殺事件を、アメリカ政府やサイゴン政府は、覆い隠そうとし、事件が国際社会に明るみにでたのは、翌年1969年。

 SPコミックシリーズ 『ゴルゴ13シリーズ(79)・スーパー・スターの共演』 目次
■「スーパー・スターの共演」  <1988年8月作品>
■「二十年目の毒」  <1987年8月作品>
■「ペルソナ・ノン・グラータ」  <1988年2月作品> 

「二十年目の毒」目次
・PART 1   逮捕された脱走兵
・PART 2   世論の裏で
・PART 3   パーカー氏の正体
・PART 4   最後の望み
・PART 5   スポークスマンの発表
・PART 6   町角に立つ男
・PART 7   追われる”例のモノ”
・PART 8   遭遇
・PART 9   盗聴された盗聴者
・PART 10  ”標的”移動
・PART 11   花に埋まった老医師

本書収録作品の主な登場人物
・ゴルゴ 13
・アメリカ軍情報部特別プロジェクトチーム
・ウエスト・パーカー
・パトリシア(ウエストの妻)
・ジョン(ウエストの息子)
・メリー(ウエストの娘)
・マーク・スケルトン(ベトナム脱走兵)
・オーストラリアのTVメディア関係者
・パーカーの友人・知人
・ベトナム政府高官
・パトリシアの父
・グラハム弁護士
・医者

本書収録作品の主なストーリー展開場所
・ベトナム民主共和国   ホーチミン
アメリカ  シントン
・オーストラリア  シドニー、キャンベラ  

本書収録作品のストーリー展開時代
・1987年 ・1965年(回想)

関連記事

おすすめ記事

  1. メコン圏が登場するコミック 第17回「リトル・ロータス」(著者: 西浦キオ)

    メコン圏が登場するコミック 第17回「リトル・ロータス」(著者:西浦キオ) 「リトル・ロー…
  2. メコン圏の写真集・旅紀行・エッセイ 第19回「貴州旅情」中国貴州少数民族を訪ねて(宮城の団十郎 著)

    メコン圏の写真集・旅紀行・エッセイ 第19回「貴州旅情」中国貴州少数民族を訪ねて(宮城の団十郎 著)…
  3. メコン圏を描く海外翻訳小説 第15回「アップ・カントリー 兵士の帰還」(上・下)(ネルソン・デミル 著、白石 朗 訳)

    メコン圏を描く海外翻訳小説 第15回「アップ・カントリー 兵士の帰還」(ネルソン・デミル 著、白石 …
  4. メコン圏に関する中国語書籍 第4回「腾冲史话」(谢 本书 著,云南人民出版社)

    メコン圏に関する中国語書籍 第4回「腾冲史话」(谢 本书 著,云南人民出版社 ) 云南名城史话…
  5. 調査探求記「ひょうたん笛の”古調”を追い求めて」①(伊藤悟)

    「ひょうたん笛の”古調”を追い求めて」①(伊藤悟)第1章 雲南を離れてどれくらいたったか。…
  6. メコン圏を舞台とする小説 第41回「インドラネット」(桐野夏生 著)

    メコン圏を舞台とする小説 第41回「インドラネット」(桐野夏生 著) 「インドラネット」(桐野…
  7. 雲南省・西双版納 タイ・ルー族のナーガ(龍)の”色と形” ①(岡崎信雄さん)

    論考:雲南省・西双版納 タイ・ルー族のナーガ(龍)の”色と形” ①(岡崎信雄さん) 中国雲南省西双…
  8. メコン圏題材のノンフィクション・ルポルタージュ 第24回 「激動の河・メコン」(NHK取材班 著)

    メコン圏題材のノンフィクション・ルポルタージュ 第24回 「激動の河・メコン」(NHK取材班 著) …
  9. メコン圏対象の調査研究書 第26回「クメールの彫像」(J・ボワルエ著、石澤良昭・中島節子 訳)

    メコン圏対象の調査研究書 第26回「クメールの彫像」(J・ボワルエ著、石澤良昭・中島節子 訳) …
  10. メコン圏現地作家による文学 第11回「メナムの残照」(トムヤンティ 著、西野 順治郎 訳)

    メコン圏現地作家による文学 第11回「メナムの残照」(トムヤンティ 著、西野 順治郎 訳) 「…
ページ上部へ戻る