メコン圏が登場するコミック 第21回「アキオ無宿ベトナム」 (著者:深谷 陽)


「アキオ無宿ベトナム VOL.1」 (著者:深谷陽、発行:講談社<モーニングKC-1170>、1996年8月発行》(*1996年のモーニング13号から20号に掲載された作品を収録)

「アキオ無宿ベトナム VOL.2」 (著者:深谷陽、発行:講談社<モーニングKC-1172>、1996年9月発行》(*1996年のモーニング21/22合併号から29号に掲載された作品を収録)

本作品の著者・深谷 陽 (ふかや・あきら)氏は、1967年生まれで、福島県石川郡石川町出身。元特殊メイクアーティストの経歴を持つ漫画家。1994年、講談社の漫画新人賞「ちばてつや賞・一般部門」(第26回)で、「神様の島の愛ある食卓」が入選し漫画家デビュー。以降、デビュー作をはじめ、数多くのアジアを舞台とした作品多く、アジア漫画の作風も多様で、アジア漫画の漫画家としても有名ながら、アジア漫画に限らず、歴史時代物なども数多く手がけている。、漫画家の深谷かほる氏(1962年~)は姉で、1987年の『毎日が日曜日』で漫画家デビューし、「エデンの東北」や、テレビドラマ化もされた「ハガネの女」「カンナさーん」などが代表作で、「夜廻り猫」も話題の人気作で第21回手塚治虫文化賞短編賞を受賞。他に第5回ブクログ大賞のマンガ部門大賞を受賞。

深谷 陽 氏の本作品『アキオ無宿ベトナム』は、インドネシア・バリ島の著者自身の旅行体験をベースとしたデビュー作品の単行本『アキオ紀行バリ』(1995年12月刊行の講談社モーニングKC-444単行本)の続編にあたり、1996年の講談社モーニング13号から20号、21・22合併号から29号に掲載された作品を単行本2冊に収録し、1996年8月、9月に刊行されたもの。著者自身の1995年夏のベトナム南部ホーチミン及びメコンデルタ周辺の旅行体験をベースに書かれた作品で、1990年代トラベラーコミックの代表作の一つ。

ストーリーは、著者自身とも思える主人公アキオが、1995年夏のベトナム南部ホーチミン及びメコンデルタ周辺の旅行体験を柱として展開。作品の終わりで、主人公アキオは、インドネシアのバリからベトナムに入ったことが分るが、本作品の終わりで、ベトナムからバリに戻り、それからシンガポールへと移動している。この主人公の日本人アキオは、日本で雑誌に絵を描いていて、東京で1人暮らしの26歳の独身男性。ベトナムへの旅は、ベトナム南部のサイゴン(ホーチミン)のブイ ビエン通りのゲストハウスを根城とするが、ホーチミンのブイ ビエン通りは、ホーチミン市1区の9月23日公園付近にあり、安宿ゲストハウス、カフェ、レストラン・食堂、雑貨ショップ、ツアーデスク、ナイトスポットなどで昼も夜も賑わい、バックパッカーの外国人安宿旅行者たちにも有名な通り。

うぶで純朴そうな主人公アキオのベトナムでの旅を脇で彩るのが、女性好きで派手好きで遊びまくってチャラそうな感じながら、憎めず愛すべきタカハシという若き貿易商といいながら不思議で正体不明な感じの日本人青年。日本人青年タカハシは、商売ヌキの気楽な旅がしたくて中国からベトナムに入ってずっと南下してきてサイゴン(ホーチミン)で、アキオと偶然会い、「何の得にもならない」それでいて「警戒しなくてもいい」ってな相手と少し一緒に旅するのもいいかなと思ううちに、普通の道を歩いていても何かというと立ちどまるアキオに、次第に、そうやって人の中に入っていくのが面白くなり、歩き方で道の長さも奥行きも全然違ってくるんだと、タカハシが述懐するシーンも良い。また、「この世から売春なんかなくなればいいと思うんですよ」と、売春なんかしなくても誰もがちゃんと生きていける世の中になればいいと、タカハシがつぶやくシーンも印象的。

アジア安宿の旅という話によく登場するのが、安宿ゲストハウスのスタッフ、近くにたむろするドライバー兼ガイド、カフェや屋台・レストランのスタッフなどで、これらの人達は、外国人旅行者と良く顔を合わせることもあり、人と人との距離が近く、怪しそうな人もいるにはいるが、フレンドリーな現地の人達が、この作品でも登場してくる。まずは、ホーチミンのゲストハウスの21歳の英語のうまい受付嬢・ハンちゃんで、ベトナム語からベトナム若者事情、ダンス事情、など、彼女から色々教えてもらう。また、ゲストハウス近くにたむろする、シクロー(輪タク)の運転手・オッも、いろんな店や人を紹介し、彼を媒体として現地の人達との関わりが広がる。アキラもタカハシも、ホーチミンの街に活気を感じ、東京もヒトが多いが、ホーチミンの方が人間を生々しく感じるとも語っているが、旅を通して、生々しいベトナムの街のいろんな面や、いろんなベトナムの人達が描かれていく。

また、ベトナムの多様な食文化もふんだんに登場するが、主人公アキラは26歳の日本人独身若者で、著者自身も28歳頃という若くて冒険も楽しい年齢でのベトナム旅であり、旅先の現地で出会う商売の女性たちも含め、魅力的な現地の女性たちも作品の魅力の一つ。中でも、アキラが最初に仲良くなったシクロー(輪タク)の運転手オッのおばさんの女友達のアンとの、アキラの男女関係の展開には、ドキドキワクワクが止まらない。アンは、2人の男の子がいるが、5年前に夫が亡くなった37歳の美しいベトナム人女性で、仕事はマーケティング関係で英語ができる。巻末には、」”ベトナム女性は応答に美しいか”と題した著者の補足も付いているが、著者が見た中でのミス・ベトナムは、カントー市の本屋で働く20歳のアン嬢で、本書での重要な年上美女のアンの名前は彼女から付けたとのこと。ホンダガール、タクシーガールなど街娼や典型的な置屋なども本作には登場。

舞台は、ベトナムのホーチミンが主で、ストリートの路上観察再現も随所によく描かれているが、週末、年上女性アンが運転する2人乗りバイクの後部座席にアキオが乗り、デートに出かけ、深夜にホーチミン市1区にある有名な建造物のカトリック大司教座大聖堂(サイゴン大聖堂)前を、週末深夜に通り過ぎるシーンも美しく非常に素敵。「行きたくない?メコン川のクルージングとかカンボジア国境とか、エッチなっキャバレーはメコンデルタが本場らしいぞ」と、タカハシがアキオをメコンデルタの方に一緒に出掛けようと誘い、バイクでのメコンデルタ地域やカンボジア国境近くまでの旅も登場する。

南部メコンデルタ最大の都市カントーはメコン川最大の支流ハウザンの南西岸に広がる街だが、町のシンボルのホーチミン像がカントー川沿いのニンキエウ公園にあり、観光客含め多くの人でにぎわう場所で、ホーチミン像やカントー川を臨むニンキエウ公園など、場所の名前など明記はされていないものの、場所の雰囲気がよく描かれている。

また、VOL.1の最終章STAY.8「国境近く」でも、地名や場所の名前については全く明記は無いが、なんか近くに戦争の記念のなんとかがあるから見に行こうって誘われて、頭蓋骨がたくさん並べられ、これらは全部カンボジア人に殺されたベトナム人だと説明を受けている場面がある。これは記念塔の建物の外観や、建物に帰された一部の文字から、1978年4月18日から4月30日にかけてクメール・ルージュによって行われたバチュク村の虐殺で民間人3,157人が犠牲になったといわれるが、その住民の慰霊塔(アンザン省チートン県バチュク市鎮)と推察。

尚、「アキオ無宿ベトナム」というタイトルからも、本書のストーリー展開場所は、全部ベトナム限定かと思っていたが、本書Bol.2の終盤からは、インドネシアのバリ島に移り、更に意外な展開でシンガポールの病院の病室で本書の物語が終わっている。全編通じ、本書は今から約30年近く前の1995年時点のベトナム旅体験がベースとなっていて、いろいろな暗部や格差、貧困も抱えながらも経済成長に向け急速に変化をとげつつあった空気やカオス具合など、当時のベトナムの雰囲気とともに、当時のベトナムやベトナム人から見た日本や日本人に対する見方なども、今とは違う約30年前の様子として、本作品の中に随所に、感じ取ることができる。

  • CONTENTS
    <VOL.1>
    STAY.1 ハンサム
    STAY.2 英語が出来るヒト
    STAY.3 いーのかベトナム?
    STAY.4 この人エッチだ
    STAY.5 朝からカラオケ
    STAY.6 すごい女(ひと)
    STAY.7 メコンデルタ
    STAY.8 国境近く
    <VOL.2>
    STAY.9 バイクの美少女
    STAY.10 英語が出来るヒト
    STAY.3 いーのかベトナム?
    STAY.4 この人エッチだ
    STAY.5 朝からカラオケ
    STAY.6 すごい女(ひと)
    STAY.7 メコンデルタ
    STAY.8 国境近く

■関連テーマ&ワード
・ホーチミンのブイ ビエン通り
・メコンデルタ
・カントー市と、ニンキエウ公園、ホーチミン像、カントー川
・バチュク村の虐殺
■ストーリーの主な展開時代
・1995年夏
■ストーリーの主な展開場所
・ベトナムのサイゴン(ホーチミン)、メコンデルタ、カントー、カンボジア国境近く
・インドネシアのバリ島 ・シンガポール

「アキオ無宿ベトナム」主な登場人物
・アキオ(日本で雑誌に絵を描いている東京で1人暮らしの26歳日本人男性)
・タカハシ(世界を駆ける貿易商の日本人青年。空手・柔道は黒帯)
・ハン(ホーチミンのゲストハウスの21歳の英語のうまい受付嬢)
・オッ(シクロー(輪タク)の運転手)
・リン(サイゴンのカフェの女性店員)
・キェン(オッのおばさんで、3人の子どもがいる離婚のベトナム人女性)
・キェンの娘でリンの友達

・アン(キェンの友達で37歳で2人の男の子がいて5年前に夫が亡くなったベトナム人女性)
・コーン(キェンのボーイフレンドのベトナム人男性)
・コーンの妻と娘
・ハイとドゥー(ゲストハウスのお抱えドライバー)
・カントーのタクシーガール(街娼)たち
・カントーの置屋の幼い娘と幼児
・カントー川沿いのリバーサイドの物売りの子たち
・カントー川の渡し舟の女性の漕ぎ手たち
・タカハシがドゥーの紹介で見合いした17歳のベトナム人女性と両親
・アマリア(インドネシアのバリの美少女)
・リスキィ、アニキ、ペリィ(アマリアの家族)
・イトーダ(バリ島の日本食レストラン”武者武者”のオーナー
・インドネシアの映画監督
・インドネシアの映画の助監督でキャスティングの責任者
・コテツ(インドネシアの映画の日本人キャストの一人)
・バリ島の大きな病院の女性看護婦
・シンガポールの病院の女性看護婦たち
・シンガポールの病院のドクターの女性秘書

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