メコン圏が登場するコミック 第13回「サイボーグ009・ベトナム編」(石ノ森章太郎 著)

メコン圏が登場するコミック 第13回「サイボーグ009・ベトナム編」(石ノ森章太郎 著)


 「サイボーグ 009 4.ベトナム編」【Shotaro World】(著者 石ノ森 章太郎、1998年10月発行、メディアファクトリー)

「サイボーグ009」は、短編、長編数多くの作品を残された石ノ森章太郎氏(1938年~1998年)の代表的作品の一つで、特殊な能力を持つ9人の改造人間(サイボーグ)の活躍を描く作品。1964年の週刊「少年キング」30号(7月19日発売)で連載開始後、いろんな雑誌に長期に渡って掲載され、テレビアニメ・ビデオや映画化もされていて、広い世代にわたって多くのファンを集めている。「サイボーグ009」コミックスは、秋田書店、講談社、小学館からいろんなシリーズが出版されているが、本書は、著者自らの監修・編集による選集・完全版で掲載順に全編収録されている、メディアファクトリー社の【Shotaro World】シリーズ中の第4巻。

 第18部から第21部までは、『週刊少年キング』1965年第9号(2月21日)号後半から同年第20号(5月9日)号までに当たり、ベトナム戦争下にある戦乱の南ベトナムを舞台とした通称”ベトナム編”と呼ばれているもの。初出の週刊少年キングの連載時から、最初の単行本化(秋田書店・サンデーコミックス第3巻)の際に新たに描き足された、闘争の歴史などが描かれたプロローグ部分15ページとラスト2ページが本書でも加えられている。

 「ベトナム編」では、サイボーグ009たちは、銃声と爆音、戦火の絶えることのない戦乱の南ベトナムに向かうが、そこでは、”黒い幽霊団(ブラック・ゴースト)”のサイボーグマンたちが暗躍し、政府軍、解放軍双方に新兵器を提供するなど、戦火をさらに拡大させていた。彼らの目的は、戦況を拡大して世界戦争の危機感をもりあげることと、新式兵器の実験にあった。何度も絶体絶命のピンチに陥りながらも、サイボーグ009たちが、黒い幽霊団のサイボーグマンたちと闘い続け、最後の戦いは、黒い幽霊団のベトナム秘密基地で繰り広げられる。

 最初は、サイボーグ009と004,007の3人だけが登場し、3人がものすごい新型タンクの兵器が政府軍をやっつける場面を見かけ、新型兵器の後をつけ、ベトコンの陣地に近づくことになり、そこで黒い幽霊団の手下がベトコンに新兵器を無償提供しようと申し出る場面からストーリーが始まる。第18部、第19部と「ベトナム編」の前半部では、サイボーグ009,004,007と3人だけで話が展開していくが、後半部の第20部の途中の絶体絶命のピンチの場面で、003,006,002も登場してくる。話の途中でベトコンゲリラの副隊長から「アメリカ人だ」と敵視されるサイボーグ002のジェット・リンクは、黒い幽霊団との戦いでジェット装置をつけた足をとばされ、死にそうになる目に遭っている。「ベトナム編」では、サイボーグ005,008はギルモア博士と共に沖合いの潜水艦にいて本編では活躍しておらず、変身術の特殊能力を持つサイボーグ007のグレート・ブリテンの登場シーンが非常に多くなっている。

 本書ストーリーでは、黒い幽霊団のサイボーグマンたちからそれぞれ支援を受けていた政府軍、ベトコン兵士たちだけでなく、ベトコンのスパイと間違えられ政府軍の特務部隊に射殺されそうになっていたランというベトナム娘も登場する。彼女は父も母も戦争で死んでしまって、戦争を心から嫌う兄と二人きりで山の中へかくれて戦争から逃れて暮らしていたが、ある日突然兄が行方不明になり、風のたよりに兄がベトコンに入って戦っていると聞き、兄を探していた。ランを助け、「なんとしてもきみをぶじに平和な村までおくりとどけなくては・・」と語るサイボーグ009に対し、ランが、こう答えている。

  「・・・平和な村・・・平和な村なんて!! ・・・いまのベトナムにはありませんわ。なぜ なぜ みんなそっとしておいてくれないのかしら!!戦争をしたいのならなぜじぶんの国でやらないのかしら!!じぶんたちのあらそいをよその国にもちこんで平和にくらしている なにも知らない なんの罪もない人々を死においやる権利なんて だれにも・・・だれにもないはずだわ!戦争さえ・・こんな戦争さえなかったら おにいちゃんだって 死なないですんだのに!!」

 本書の本編ストーリーでも、政府軍のコイン機(COUNTER-INSURGENCY)やベトコンのいろんなゲリラ作戦や地下深くにあるベトコン陣地が描かれているが、本書巻末資料の一つとして、「週刊少年キング」1965年第17号(4月18日)に掲載されたベトコンのゲリラ作戦や政府軍の新兵器についての図解も収められている。ここでは、当時、ベトナム戦争について、『ベトナム戦争とは? ひと口でいえば、アメリカがあとおしする政府軍と、この政府軍の独裁的な性格に反対する民族解放軍(ベトコンというよび方は、政府軍がはじめたもの)との内戦であった。しかしアメリカは、ベトコンの背後にはソ連や中共といった共産主義勢力がいるとして、政府軍への援助を増大しはじめ、内戦はまずますはげしくなってきている。』と説明している。

 本編「ベトナム編」のラストでは、「これでベトナムにおけるサイボーグたちの物語は終わる。だが戦争は終わっていない。「黒い幽霊団」の本体はまだ死んでいない。そして彼のつけた戦火はいまだに消えておらず、むしろますます燃えさかろうとしている。・・・」と著者は書いている。実際、初出連載時の1965年前半時に、アメリカ軍の恒常的北爆(ローリング・サンダー作戦)が開始され、アメリカ海兵隊がダナンに上陸するなど、アメリカ軍の直接介入、全面戦争に発展し、本書連載時以降、ベトナム戦争はますます激化し、1975年4月30日のサイゴン陥落による戦争終結まで、連載時の1965年から10年もの長き歳月にわたって戦争が継続されることになった。

 【Shotaro World】 『サイボーグ009 4.ベトナム 編』 目次
プロローグ
第18部 泥と血
第19部  サイボーグマン
第20部 モグラと月
第21部 夜明け前
黄金のライオン
まぼろしの犬
資料 解説、トビラ絵集、サイボーグ009クイズ、009構造図、戦乱のベトナム・特ダネ図解 

「ベトナム編」
◆主な登場人物等
サイボーグ 001  イワン・ウイスキー
サイボーグ 002  ジェット・リンク
サイボーグ 003   フランソワーズ・アルヌール
サイボーグ 004   アルベルト・ハインリヒ
サイボーグ 005   ジェロニモ・ジュニア
サイボーグ 006   張々湖
サイボーグ 007   グレート・ブリテン
サイボーグ 008   ピュンマ
サイボーグ 009   島村ジョー
・ギルモア博士
・黒い幽霊団(ブラック・ゴースト)
・サイボーグマン8号
・サイボーグマン6号
・サイボーグマン11号
・サイボーグマン10号
・サイボーグマン1号
・サイボーグマン19号
・ベトコンの隊長
・ベトコンの兵士達
・政府軍の兵士達
・政府軍の特務部隊の大佐
・ラン(ベトナム人の村娘)
・ランの兄
・ベトコンゲリラ隊長
・ゴジェム(ベトコンゲリラ基地の副隊長)

◆ストーリー展開場所
・南ベトナム

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