メコン圏に関する中国語書籍 第1回 「昆明旧照 热血昆明 」(主编:龙东林、著文:戈叔亚、云南人民出版社)

メコン圏に関する中国語書籍 第1回 「昆明旧照 热血昆明 」(主编:龙东林、著文:戈叔亚、云南人民出版社)


「昆明旧照 热血昆明 」(主编:龙东林、著文:戈叔亚、云南人民出版社(昆明)、2001年9月発行)

本のタイトルは、赤字で『熱血昆明』(RE XUE KUN MING)と書かれ、一瞬どのような本なのかと思うが、本の表裏の表紙のあちこちに、「昆明旧照」と小さな字句が散りばめられているので、昆明を撮った古い写真で昆明を紹介しているものと推察できる。本書は2001年9月、雲南人民出版社から刊行されたものであるが、最近昆明では、昆明旧照に関する書籍だけでなく、昆明旧照のいろんなシリーズの写真葉書が各地で売られていたり、また博物館でも展覧会が開催されたりしている。(2002年2月雲南省博物館でも「昆明旧照」と題した特別展示会が開かれた)。

雲南・昆明の近現代史の歴史解説書としても有用であるが、なにより詳細な解説が付いた貴重な古い写真満載の写真資料集といえるものだ。資料提供は昆明市社科院によるとのことだが、240頁に及ぶ本書に約400点に近い数の写真、さらに地図・漫画その他図象がぎっしり掲載されている。書籍・文献等で雲南・昆明の近現代史を読み知ってこられた方には、写真などの画像で古き時代のことを確かめることができることに驚喜されるであろうし、またこれまで雲南・昆明の激しい近現代史を知ることのなかった方も、これらの写真等を眺め見つめることで深い関心を持たれるのではなかろうか?

本書で取り上げられている時代は、辛亥革命の烽火となった武昌起義(1911年10月10日)に続いた昆明での武装革命”重九”起義(1911年10月30日: 農暦辛亥年9月初9日)の頃から始まり、軍事的独裁体制を強め帝制復活の野望を抱いた袁世凱に対し、1915年12月~1916年1月、蔡鍔(1882~1916)指揮下の護国軍が帝制に反対して、昆明から討袁のため兵を挙げた第3革命の護国運動、さらに「抗戦時期の昆明」として日中(抗日)戦争時の雲南・昆明(1937年~1945年)、そして最後が「民主と解放」と題し、抗日戦争終結後の内戦反対、民主化を要求する民主同盟の活動の時代までをカバーしている。

しかし、「抗戦時期の昆明」と題したセクション、が写真・解説文章とも本書の中で圧倒的な分量を占めている。1937年7月、日中(抗日)戦争が本格化する中で、南京の国民政府の最高軍事会議の求めに応じ、雲南省の滇軍が編成され1937年10月雲南省外の戦地に出征する場面や、昆明各地で挙行された抗日宣伝集会の模様の写真が紹介されている。更に日本では一般に援蒋ルートの一つとして知られる雲南とビルマを結ぶ滇緬路の紹介では、滇緬公路上で最も有名な急カーブが続く”24拐”や滇緬公路上で最も重要な橋梁である恵通橋北の写真以外にも、急ピッチで進められた滇緬路の修築や滇緬路利用で物資が運ばれる様子、祖国支援にあたった華僑のトラック運転者たちなどの写真が掲載されている。また日中戦争の本格化と長期化の様相に中国沿海部の主要都市の工商界や一般人民も多く雲南に撤退避難してきており、学界・教育界もその例外でなく、国立西南連合大学の話は有名で、本書でも撤退避難の”湘黔滇旅行団”の様子を含め青年連合大学関連の写真がいろいろと取り上げられている。

「抗日戦争期の昆明」と題したセクションの中でも最も写真や解説文章が多いと思われのが、”飛虎隊”についてだ。”飛虎隊”というより、「フライング・タイガーズ」の名前の方が、一般の日本人にとって聞き知った言葉であろう。後のインドシナ戦争でCIAの秘密航空事業を一手に引き受け暗躍した「エアアメリカ」を遡ると、この命知らずの空飛ぶ冒険野郎集団の伝説的な「フライング・タイガース(天翔ける虎)」にいきつく。このアメリカ志願兵飛行隊を率いたこれまた伝説的な不思議な男クレアー・リー・シェンノートは、”陳納徳”の漢字表記で本書に写真とともに度々登場する。フライング・タイガースが使用した各種戦闘機と爆撃機や、アメリカらしい漫画入りのフライング・タイガースの隊標や別号・愛称を画像で見られる

日本軍はビルマを占領し援蒋ルートとしての陸路の滇緬路を切断するが、これに代わる空中補給の航空路線が、インドのアッサム地方から、現バングラデシュのベンガル地方を経て、中国雲南の各飛行場までの”駝峰”航線(HumpAirline)だ。この路線で使われていた輸送機の写真や、路線図そのもの、またこの路線での空輸隊の漫画の別号・愛称なども大きく紹介している。空輸総隊の別号は、ヌード姿の女性の漫画が描かれたりもしており、本書では”中国人からすると厳粛でないが、アメリカ人の性格を充分表現している”とコメントしている。

1938年9月28日に最初の日本軍の昆明空爆があったが、日本軍の空爆による昆明の被害を伝える写真や、中国では滇西戦役といわれるビルマ北東部と接する中国雲南の西南部での日本軍との戦役関連の写真も、忘れられてはいない。1/4, 1/2, 1, 5, 10, 100 RUPEES, 1,5, 10 CENTSと本書掲載の日本軍の軍票は、雲南・保山地区一中教師が長年かけて収集してきたというものだ。

古代から前近代までの雲南・昆明の歴史も、中国中央から距離があり東南アジアと密接に接するという地理上の特性からも綿々と興味深い展開が繰り広げられてきたが、この100年近い近・現代史でも、まさに雲南昆明は、「熱血昆明」というにふさわしい激しい歴史の舞台となる。帝国主義列強によるアジア・中国侵略の時代や、日中戦争・第2次世界大戦期における雲南昆明の戦略的なポジションだけでなく、重九起義、護国運動、西南連合大学などに象徴される革命民主機運の高まりと運動・行動の勢いの広がりという観点からの雲南昆明の役割なども、大変興味深い。抗日戦争終結後も内戦反対、民主化を求めた昆明の学生運動への弾圧があり4人の死者を発生する”12・1事件”が1945年12月1日起こっており、翌1946年7月には民主同盟幹部で西南連合大学教授の李公朴、聞一多が、国民党政府特務機関の手で暗殺される。12・1事件で亡くなった4烈士の写真や、李公朴が暗殺された地点、青雲街学院坡の写真などが、本書の最後のセクションで取り上げられている。

目録(本書の目次)の概略

”重九”起義 CONG JIU QI YI
 護国運動 HU GUO YUN DONG
抗戦時期的昆明 KANG ZHAN SHI QI DE KUN MING
滇軍出征/ 奇跡滇緬路/ 北方大撤退”跑警報”と”飛虎隊”/ ”駝峰”航線/ 東西文化の交融と衝突/ 走向勝利
民主与解放  MIN ZHU YU JIE FANG
後記   HOU JI 

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