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桑原 晨 氏(くわばら・しん)
- 2000/1/10
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1944年石川県金沢市出身。海外青年協力隊でラオスに赴任後、出版の世界に入り、1978年、アジア専門出版社(株)めこんを設立。
20年以上前から、アジア限定、特に東南アジアを対象に、文学・歴史・社会にテーマを置いた良質な書籍を発行しつづけている出版社・株式会社めこんの書籍は、メコン圏に関心を寄せる方なら既に手にされたことがあるはずだ。同社は、1978年設立以来、これまでに百数十冊も、アジアに関する書籍を発行してきている稀有な専門出版社である。
「長く続く良質な本を出したい」と桑原社長が語るだけあって、同社発行の書籍は、内容がしっかりしていて読み応えがあり、アジアを深く理解するに有用な良書ばかりである。しかも桑原社長の本に対するプロとしてのこだわりがあり、菊池信義氏や戸田ツトム氏などの装丁には力を入れ、本作りに関しても定評がある。
社名に「めこん」と名付けてはいるが、対象はアジア全域で、インドネシア、タイに関する本が多く、フィリピン、インドに関する本も少なくない。「アジアの現代文学」シリーズ以外に、アジアについてしっかりした知識と見方を持っている人が、自分のテーマを一般の人にもわかるように工夫して書くという「めこん選書」シリーズも続いている。面白い切り口のテーマや、錚々たる人から新進メンバーまで書き手もバラエティに富んだ書籍が続々と刊行されており、刊行書籍や常備店などの情報も、同社が今年(2000年)8月に開設したホームページで知ることができるようになった。
この(株)めこんを設立した社長の桑原晨(くわばら・しん)氏は、1944年生まれで石川県金沢市出身。同氏は、最初日本で海外留学生に日本語を教えており、その後1970年から1971年まで、日本語教師として海外青年協力隊としてラオスに赴任。ラオスに行ってからアジアに深い関心を寄せるようになったとのこと。帰国後、友人に誘われ出版の世界に入るが、アジアの文学・歴史・社会を深く紹介していきたいという気持ちから、1978年、33歳の時に独立し、自ら株式会社めこんを創業設立した。ちなみに会社設立後の1作目は、台湾の文学作品『さよなら・再見』である。
経営的には最初の10年は非常に厳しく、テープ起こしのアルバイトなどでしのぎ、その後一旦は少し良くなったが、数年前から深刻な出版不況の中でもアジアの本は売れにくくなり、楽な経営はできないそうだ。しかしながら今後もこれまでの路線や基本スタンスを変える予定はないと語る。とかく売上部数だけを至上価値とし単なる「マス」に迎合する事から、「質」や「意義」を問わずに手軽で安易なアジア関連本は溢れる今、同社のような存在はきわめて貴重であり、これからも是非頑張っていただきたい。
今後については、「文学」は最初からやっているので、「歴史」をもっと手掛けたく、また桑原氏自身の思い出の地たるラオスに関する本をもっと出版したいと、これからの展開については、色々考えがあるようだ。アジアへの深い思い入れと確固たる事業目的・スタンスを持つ桑原氏は、多忙な業務をこなしながらも、毎月の勉強会(「いつもの会」)を主宰するなど、自らアジア理解を深めアジアに関連する情報収集に大変積極的だ。
尚、同社の代表的作品と言える石井米雄氏の著『メコン』(1995年発行)では、同行のKさんということで、何箇所かに桑原氏が登場している(ページ55では写真掲載)。序章の一番最初のページ(ページ3)では、メコン河沿いのタイ国境の町・ケマラートでの水しぶきを浴びる渡し船上で、「水温は28度くらいかな」とKさん(桑原氏)がつぶやき、「さすが大学の水泳部で鍛えた人は違う。判断が定量的だ。」と石井米雄氏を感心させている。