メコン圏の写真集・旅紀行・エッセイ 第9回「南ラオス・山河紀行」ー神秘なる自然と伝説の旅(シャンティ国際ボランティア会)

メコン圏の写真集・旅紀行・エッセイ 第9回「南ラオス・山河紀行」ー神秘なる自然と伝説の旅(シャンティ国際ボランティア会)


「南ラオス・山河紀行」ー神秘なる自然と伝説の旅(社団法人 シャンティ国際ボランティア会(SVA)、2000年9月発行) 財団法人日本宝くじ協会の助成を受けて作成されたもの

(表紙写真は、民族衣装を着たンゲ族の少女・ラオス東南部のセコン県カルム郡パッタライ村)
南ラオス・山河紀行 神秘なる自然と伝説の旅 ・・・・文・大菅俊幸/写真・篠田有史
■ワット・プーと四千の島々
■コーンの滝とイルカ伝説
■水牛祭りの村

●社団法人シャンティ国際ボランティア会(SVA) タイ、ラオス、カンボジアで教育、文化の分野で国際協力を行っている民間団体(NGO)。旧称は、曹洞宗国際ボランティア会 同団体のホームページ

◆南ラオス関係文章の執筆者紹介(敬称略)<本書紹介文より>
大菅俊幸(おおすが・としゆき)SVA広報課課長
篠田有史(しのだ・ゆうじ)
1954年生まれ。米国旅行中にユージン・スミスの遺作写真展を見てフォトジャーナリストを志す。スペイン、中南米などスペイン語圏を中心に民衆を撮り続けている。写真展「スペインの小さな村で」「遠い微笑(ニカラグア)」(ともに富士フォトサロン)。共著に『コロンブスの夢』(新潮社)、『とんでごらん』(ジュラ出版局)、『リゴベルタの村』(講談社)。
磯田厚子(いそだ・あつこ)
1950年生まれ。女子栄養大学大学院修士課程修了。女子栄養大学助教授(日本国際ボランティアセンター理事)。専攻は農村開発、地域保健。地域主体、住民主導の開発の方法論の検証に取り組んでいる。さらに地域資源循環を基礎とする健康・栄養のあり方を模索。著書には『小規模社会開発のプロジェクト評価』(共著・開発ジャーナル社)『NGOの時代』(共著・めこん)他がある。
中田友子(なかた・ともこ)
1960年生まれ。総合研究大学院大学文化科学研究科地域文化学専攻博士課程在学中。専攻は社会人類学。南ラオスのモン・クメール系少数民族の儀礼・政治について研究している。

ラオスに関する情報や紀行ガイドブックは、まだまだ他の国々と比べ極端に少ないが、そうしたなかでラオスの魅力を十分伝えてくれるのが「シャンティ」増刊のラオスシリーズであろう。「シャンティ」増刊は、タイ・ラオス・カンボジアにおいて教育・文化分野で国際協力を行っている社団法人シャンティ国際ボランティア会(旧称:曹洞宗国際ボランティア会)が、東南アジアの文化を知るためのビジュアル・コミュニケーションブックとして発行している書籍だが、ここ数年、このシリーズで『ピーマイ・ラオ -ラオスの心を訪ねて』 『ラオス・古都紀行 -世界遺産の町、ルアンパバーンに生きる人びと』、更に本書『南ラオス・山河紀行 -神秘なる自然と伝説の旅』と、ラオスを取り上げ続けている。本書は南ラオスの特集というラオス好きにはたまらない企画内容だ。

 南北に長いラオスでは、北部、中部、南部と、それぞれ風土の異なる地域特色がみられるが、ラオス南部は、内陸国ラオスの南奥地としてだけではなく、歴史文化的に関係のあるカンボジア東北部、タイ東北部、ベトナム中西部との地域圏で見直すと新たな魅力・可能性が浮き出てくるであろう。東北タイのウボンやベトナム中部から入ってくる人も増え、ラオス南部は注目の地域だ。将来はカンボジア東北部からのアクセスも良くなるかもしれない。  

 メコン河の支流セドンがメコン河に合流する河口にある南ラオスの中心都市パクセ(チャンパサック県の県都)が南ラオスの旅の拠点だ。クメール人によって建立されたヒンドゥ寺院の遺跡ワット・プー、コーン島をはじめとするシーパンドン(「4千の島々」の意)やメコン河の大瀑布コーンの滝など、南ラオス観光の代表的な見どころも、しっかりカバーしているが、交通のアクセスがまだ不便なラオス東南部のセコン県への旅の様子は、目新しい。尚、SVAは、現在UNV(国連ボランティア)と共同で、このセコン県で民話による初等教育支援事業を行っている。(セコン県でのSVAによる活動については、『シャンティ』2001年2月号参照)

 セコン県は、サラワン県(北西側)、チャンパサック県(西南側)、アタプー県(南側)に囲まれ、東はベトナムと国境を接している。サラワン県とアタプー県の一部が1984年に統合されてできた新しい県であるが、セコンの名は、メコン河の大きな支流の名でもある。このセコン川は、ベトナム中西部のアンナン山脈西側より、ラオス南部をセコン県、アタプー県と流れ、カンボジア領内に入り、カンボジア北東部のストゥントゥレンでメコン河本流に合流している。

 この旅紀行では、パクセから車で東に約2時間のラマム(セコン県の県都)をまず訪れ、ラマムからさらに奥地のカルム郡に北上。カルム郡の中心地のカルムの町からセコン川を下ったところの少数民族・ンゲ族のハッヴィという小さな村を訪ねている。精霊に水牛を供犠する儀礼(パラゴット)や村の聖なる会堂(ウルン)についてだけでなく、村人の暮らしぶりや子供たちの教育事情にも多くのページを割いている。

 また、南ラオスの訪問各地で土地の人との興味深い言葉のやり取りが記されているが、なかでもコン島に住む元機関士のワンディ・チャンタラットさん(89歳、2000年当時)の話は非常に貴重だ。かつてフランス統治下時代、シーパンドンの南方のコン島とデット島を結んで物資輸送のために植民地政府が僅か6.5キロではあるが鉄道を敷設しており、ワンディさんは機関車の運転士を務めていた(ワンディさんはLao National Tourism Authority発行の『Visiting Muong Lao』1999 SEP.-OCT.にも紹介されている)。地元で生れ育ったワンディさんの話は、この鉄道の話だけでなく、リーピーのイルカ伝説にも及んでいる。

 なお本書では、南ラオスの紀行文・写真以外にも、他にも小松和彦氏とのインタビュー「妖怪と上手につきあうためには日本・ラオス怪異談義」をはじめ、各種テーマでいろいろと文章が掲載されているが、南ラオス関係では、「セーコーン川流域の人々ーくらしと魚」(磯田厚子氏)と「南ラオス、ンゲ族の村の橋づくり」(中田友子)2つの文章が掲載されている。

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