第16信「桜ちゃん落第」「左前(ひだりまえ)」「蘭チャンのラオス語」

(2005年8月号掲載)

2005年7月18日

皆さんお元気ですか?いかがおすごしですか。桜ちゃんのパパです。
ラオスに帰ってきました。
ラオスは雨が降ったり晴れたり暑かったり涼しかったり。
日本のお天気はいかがですか。
それではラオス華僑のお話ラオスからの手紙 華僑と結婚した日本人 読んでくださいね。

お話その1 桜ちゃん落第

わたしが日本にいた時から心配していたことが現実になった。

6月は華僑学校の期末試験の時期。9月が新学期なので最後の進級試験は6月の下旬におこなわれる。結果は7月の初旬に発表になり、その後、長い夏休みが始まる。進級試験は追試が許されるのだが、2つまで。もし3教科以上だと自動的にもう1年となる。なんか日本の大学みたい。

桜ちゃんは3つ落ちたので自動的にもう1年。同じクラスでも20人近くが落第したらしい。(教える方にも問題があると思うのだが)その中の一つに英語があったらしい。

日本でも小学校から英語を義務教育にしようという話しがあるらしい。だけど華僑の学校で、子供たちはただでさえラオス語が弱いのに、そのうえに英語を勉強させるなんて無理だと思うのだが。まず英語の前に母国語の学習が必要だと思う。

おまけにうちは土曜日に日本語の補習校にもかよっているのに。勉強しなければいけない語学が多すぎて子供が理解できないでいるのではと、親としても心配である。

とはいうものの、この落第制度であるが、いい点もあるのでは。日本では義務教育は落第がない。小学校でも中学校でも学校に通ってさえいれば、勉強の内容がわからなくても毎年進級できる。ただ子供によっては勉強の飲み込みのいい子と悪い子、または担任の先生との相性など、色々な要因があってわからないことがそのまま持ち越されることもあるだろう。

それが積み重なれば、学校の勉強がますますわからなくなり、勉強が面白くない、不良、登校拒否が出てくる。ラオスの華僑学校、寮都学校であるが、桜チャンの同級生(小学3年生)には11歳、12歳といった子供がいっぱいいる。こういった子は、最初はラオスの学校に行ってたのだが途中から寮都に転校してきた子供たち、落第した子供たちなどである。

日本だと、浪人するのは大学受験くらいで、これも2浪まで。もし2浪以上(つまり24歳以上)だと大企業への就職は無理だとか。とにかく日本人は年齢のレールに非常にこだわるようである。こういった意味で制度的に問題もあるが、いい点もあると思う。人生、子供のころから学校の勉強ができると順調に行った人が、そのまま人生幸せに過ごせるかというと、そうではないと思う。小さいころの挫折というのも逆に将来にとって色々とプラスになるのでは。

というわけで、いいかげんなようで寮都学校のこの制度はいいところもあると思う。娘よ、元気を出してちょうだい。

お話その2 左前(ひだりまえ)

「あら、これ左前じゃない?」
お袋にこう言われてはっと気がついた。そういえば日本にはそういった習慣があったな。

今年の4月、ラオス正月に家族で写したデジタル写真のことである。ビエンチャンには、デジタルカメラで写真を写して、メークアップから衣装の着付け(着物、チャイなドレス、ラオスの民族衣装)までセットで写真をとってくれるお店がある。経営者はもちろんラオス人。たぶん中国系であろう。

我が家も年に一度の記念にと、その店で写真を撮ったのである。本当は中国正月にしたかったのだが、毎年中国正月の時期は、私は日本に仕事に出ているので、やむなくラオス正月に撮ったわけである。

さてできた写真はメールで日本の両親に送った。私の家族は淑珍、桜、蘭ちゃんと3人は日本の着物を選んだ。私は黒の背広だ。その後。5月に日本に帰った時、お袋に言われたのがこの「左前」の話しだ。

日本では着物や浴衣など、右のおくみを外側に出して着ることは、不吉だと言われている。死んだ人の装束をこのようにするからだ。私も日本人だからいちおう知っていたが。(その時は気がつかなかった。)

妻と娘たちの着物の着付けは写真屋の人が担当した。顔のメークをしてTシャツの上からペラペラの着物を着たのだが、すべて店の人がやったことで私も特に注意していなかった。出来あがった写真を見て「華僑の子供はいくら親が日本人でもチャイなぽいな」と思っただけであまり注意しなかった。

ところが日本に帰ってお袋から指摘されて気がついたのである。たしかによく見るとそうである。だけどこの写真、添付書類の形で色々な人に配ったけれど誰も教えてくれなかったぞ。みな、「きれいな写真ですね」「かわいいお子様と美人の奥様で」なんて誉めてくれるものだから嬉しくなっていたのだが、こんな落とし穴があったとは。

おそらく日本人だったらほとんどの人は気がついていたのだと思う。着物の左前は死んだ人に着せる死に装束ということを。ただこういうことは注意すると逆に失礼ではないか、本人を傷つけるのでは? または「あの人、ラオスに長く住みついて日本の習慣を忘れたのかしら、ラオス呆け」このように考えたのであろう。

しかしここは我が母親、自分の御腹を痛めて産んだ子の失敗であるから、ここは遠慮なく注意してくれたのだろう。持つべきものはこういった親子・親戚のアドバイス、教えである。他人は遠慮して心ではわかっているのに口に出して教えてくれない。

さて、これだけ自分の失敗を取り上げたので他の人の話しもしていいだろう。ラオスには色々な国の外国人が住んでいる。けっこうこの人たちもラオス人の目からみればラオスの習慣と違った、考えに合わないことをしているのかもしれない。たとえばTPOをわきまえない服装をしていたり、間違えた意味のラオス語を使っていたり。ラオス語の発音がおかしくて意味が違っていたりだけど、やはりお客さんには恥をかかせないようにするのはラオスでも日本でも同じである。ましてその人が社会的に身分の高い人なら尚更であろう。ということで私も過去を振り返ってみてエチケット違反をしたのでは、こう思うことがいっぱいある。またそのような時は、いつも妻の淑珍に注意してもらった。逆に日本の習慣に反することを彼女がした場合は私が注意したものだが。

こういったことは余程親しい間柄でないと教えてくれないものである。特に外人の場合は気をつけないと「ボーペンニャン」で済んでしまうだろう。ということでこの国生まれの配偶者を持つ私は、こういった意味で徳をしているのだろう。

さて、何故ラオスの写真屋で着物の着付けを間違えたのか。これは、着付けの担当者が正しい着物の着つけを知らなかったのが理由である。(当たり前だけど)だけどどうして左前になったのか、これはラオスの巻きスカート(シン)の履き方、肩掛け(パービアン)の掛け方をみれば理解できるであろう。人によって違うらしいがほとんどのラオス女性は左前で合わせるらしい。

ということで、間違えとはいえちゃんとした理由があるわけだ。ということで物事すべて失敗の裏には理由がある。

お話その3 蘭チャンのラオス語

次女の蘭ちゃんが長女の桜ちゃんとラオス語で喋る時、桜ちゃんは自分のこと、つまり一人称でチェチェーという。チェチェーというのは中国語で「お姉さん」である。ラオスの華僑はラオス語の中にも中国語が入る。これはラオス語のウアイ(お姉さん)にあたる。わたしが気になるのは、蘭チャンが桜ちゃん、つまり自分の御姉さんと喋る時である。「桜」と呼び捨てにすることである。まだ7歳でラオス語もまだおぼつかない子供なので私は黙っているがそれでも気になる。いくらラオスに住んでいるとはいえ日本人である。姉妹で話す時は、妹は御姉さんを呼び捨てではいけないと思う。日本の習慣では絶対にいけない。私自身、兄貴のことを呼び捨てにしたら両親や兄貴にえらく叱られたのを覚えている。

ロンとヤスの関係で、昔日本の中曽根総理はアメリカのレーガン大統領と仲良くなるためにお互いにこのようなニックネームで呼び合ったという。だけどこれはあくまでアメリカの習慣。日本ではいくら親しい間柄でもこういった言い方はしないと思う。一国の総理を呼び捨てにするなんてなんて失礼ではないか。

ということで、いつか蘭ちゃんには御姉さんをちゃんとした呼び方で呼ぶように教えてあげないといけない。ちなみに華僑の言葉で、日本語の「ちゃん」にあたるのは「アー」である。私の妻は淑珍、北京語の発音では(スーチャン)であるが、客家だと珍で(チン)。家族同士ではアー・チンになる。15女の少梅はアー・ムイ「梅ちゃん」、14女の亮亮はアー・ニエン「亮ちゃん」というわけである。家族・兄弟同士だとなんでもアーをつけるわけだ。これは便利である。年上でも下でもアーをつければいいからだ。

ところで蘭チャンだが、彼女の場合はラオス人にもちゃん付けで呼ばれている。蘭と呼び捨てではなく、みな蘭チャンになる。これはおそらく、チャンの発音がラオス語の「月」を表すチャンと同じ発音で、ラオス人の名前にも、セーン・チャンとかドウアン・チャンとかこういった名前が多いからだろう。

(C)村山明雄 2002- All rights reserved.

村山明雄さん(むらやま・あきお)
(桜ちゃんのパパ、ラオス華僑と結婚した日本人)
シェンクアン県ポンサワンで、地下水開発エンジニアとして、国連関連の仕事に従事。<連載開始時>
奥さんが、ラオス生まれの客家とベトナム人のハーフ
地下水開発エンジニア (電気探査・地表踏査・ 揚水試験・電気検層・ 水質検査)
ラオス語通訳・翻訳、 エッセイスト、経済コンサルタント、エスペランティスト、無形文化財上総掘り井戸掘り師
著作「楽しくて為になるラオス語」サクラ出版、翻訳「おいしい水の探求」小島貞男著、「新水質の常識」小島貞男著

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