メコン圏関連の趣味実用・カルチャー書 第6回「ベトナム茶 ドリンク集」(楊 品瑜 著)

メコン圏関連の趣味実用・カルチャー書 第6回「ベトナム茶 ドリンク集」(楊 品瑜 著)


「ベトナム茶 ドリンク集」(楊 品瑜 著、1998年12月発行、三心堂出版社)

<著者紹介>楊 品瑜(ヤン ピンユ)
1964年台北生まれ。大学卒業後、(株)新宿高野に入社、食品等の貿易業務に従事。(有)リーディングサカイを設立。博物館学芸員の資格を持ち、中国茶芸講師を努める。企業における商品開発や、アジア諸国との輸出入のコンサルタント、講演活動を行っている。国際政治学者の父の影響で、国際交流に務めている。著書に『中国茶ドリンク集』、共著に『中国茶』(いずれも三心堂出版社刊)がある。

ベトナムのドリンクといえば、独特のアルミのドリッパーでいれるコーヒーのイメージが強いかもしれないが、本書はまだまだ日本ではなじみがなく見過ごされがちなベトナム茶を取り上げた本だ。ベトナムは、古くから中国文化の影響を受けてきたのでお茶を飲む習慣があり、茶文化が根付いている。そしてお茶を飲むだけではなく、茶葉の栽培も行われてきた。本書では、ベトナムでもっともポピュラーな緑茶をはじめ、紅茶や烏龍茶、蓮茶などのベトナム茶を使った日本人向きのアレンジティーを紹介するとともに、茶葉を使った茶料理やデザート、手軽に作れるおいしいベトナム家庭料理もたくさん紹介されており、茶を通じてベトナムの食文化にふれることができる。

 ベトナム茶そのものの紹介も、PART 1で「ベトナム茶の種類を知る」と題して詳しい紹介があり、大変参考になる。代表的なベトナム茶である蓮茶については、蓮の花は夜に閉じ朝にまた咲く為、もともとは閉じる前に茶葉を花の中に入れ、翌朝に開いたときに蓮の花の香りがついた茶葉を再び取り出して飲むという楽しみ方もあったとのこと。なんとも風雅でのどかなやり方で一度この方法で茶を楽しんでみたいものだ。

 本書の題名には「ベトナム茶ドリンク集」とあるように、ベトナム茶を使ったアレンジティーの紹介は多種(45種類)にわたり、ドリンクの説明に加え、材料や作り方が掲載されているので大変実用的だ。ベトナム産の茶葉は全般的に香りがそれほど強くないので、いろいろなアレンジティーに適しているとのことだ。ここでは各種1ページごとに、ドリンク名がベトナム語表記も併記されているとともに、雰囲気をかもし出すイラストが各ページに描かれている。

 さらに、ドリンクだけでなく、茶葉を使った茶料理もデザートもPART 3の章で紹介されている。茶葉には茶湯に出し切れない栄養素があり、食べる事によって茶葉の栄養素をまるごととれて体によいだけではなく、油っぽい料理の味をさっぱりさせてくれる効果もあるそうだ。肉類を烏龍茶湯で煮込んだ料理や、代表的なベトナム茶である蓮茶の茶葉を使ったいろんな料理が取り上げられている。この章では、ベトナムで実際に食べられているものから、日本人向きにアレンジしたものまで、茶料理やデザートが幅広く紹介されている。

 ベトナム茶の一般的な飲み方やベトナム茶の製茶法(中国から伝来したために、基本的には中国の製茶法と同じ)など、ベトナム茶についてのいろんな知識も得る事ができる。ベトナムの茶文化の紹介では、”ベトナム北部には、古くからの茶畑が多くあり、北部出身者は茶の味にうるさく、伝統の緑茶を好んで飲んでいる。ベトナム南部は、豊かでコーヒーや炭酸飲料など飲み物の種類が多く、茶もジャスミン茶や烏龍茶を飲んでいる」と述べている。また、ベトナム茶の主な産地としては、”古くは北部のイエンバン省だったが、最近は近隣のビンブウ省、バクタイ省も茶の栽培面積を広げ、また南部でもどんどん茶の栽培面積が広げられている”と記されている。

 面白いコーナーとしては、「ベトナム映画に登場する茶のシーン」というものまである。「愛人 ラマン」(1992年フランス・イギリス合作作品)、「インドシナ」(1992年フランス作品)、「青いパパイヤの香り」(1993年フランス・ベトナム合作作品)、「シクロ」(1995年フランス・香港・ベトナム合作作品)と、ベトナム愛好者にとってはどれも良く知られたベトナム映画ばかりだが、それぞれの映画でのお茶のシーンを覚えておられるであろうか?尚、本書の冒頭には、ベトナム茶の種類やベトナム茶器などの写真も含め、何枚もの素敵なカラー写真が 、ベトナムの茶を楽しむ雰囲気を感じさせてくれる。

本書の目次 

PROLOGUE お茶の話

PART 1. ベトナム茶の種類を知る
ベトナム茶の種類
緑茶、黒茶、黄茶、紅茶、烏龍茶、チャラン茶、蓮茶、蓮の実茶、蓮の葉茶、ジャスミン茶、バラ茶、菊茶、アーティチョーク茶、苦瓜茶、ドクダミ茶、ウコン茶、檳榔茶、茸茶
ベトナム茶について
★ドリンクや料理を作る前に

PART 2.  おいしく楽しむドリンクバリエーション
ベトナム風アレンジ茶
スターフルーツ&ランブータンティー、ベトナム風ロンガンティー、ベリー・イン・グリーンティー、コリアンダーティー、ベトナム風ミントティー、スカッシュ・ライムティー、カラマンシーティー、オリジナル・アーティチョークティー、タピオカとあずきのオリジナルティー、なつめと枸杞の実の薬膳茶、マンゴージュースティー、スイカティー、ミックスジュースティー、レモングラス・フロートティー。ダラット風ストロベリーティー、ベトナム風ココナッツミルクティー、ベトナム風ココナッツジュースティー、タマリンドホットティー、ランブータンのホットライムネード、ランブータンのスカッシュティー、ベトナム風パパイヤミルクティー、オリジナル・コーヒーティー、ゼリー・イン・シナモンティー、フレッシュマンゴーティー、ベトナム風ココナッツバナナティー、緑豆白玉入りアイス烏龍茶、オレンジ酒ティー、ライム酒ティー、緑豆ティー、ベトナム風スパイスティー、オリジナル蓮の実茶、和風蓮の葉茶、ドライタマリンドティー、ジャスミンのシャーベットティー、ベトナム風トロピカルフルーツティー、333(バーソーバー)ティー、東南アジア風菊茶、フレッシュ菊茶、干しぶどう入り菊茶、きのこの薬膳茶、ベトナム風ハーブティー、ウコンのミルクティー、レモングラスティー、パイナップルミントティー、ベトナム風梅茶

PART 3. ベトナム茶料理とデザート
ベトナム茶を使った料理とデザート
豚肉とゆで卵のベトナム烏龍茶煮、グリーンティーカレー、蓮茶入りえび団子のピーナッツ揚げ、つけだれ~ニョクチャム、つけだれ~ピーナッツみそだれ、ベトナム風豚足の烏龍茶煮込み、竹筒の烏龍茶入り炊き込みご飯、トリ肉の蓮茶蒸し、トリ肉の蓮茶炒め、アジの蓮茶入り天ぷら、蓮茶サラダ、バジルポンチ、ジャスミンとあずきゼリーのかき氷、なつめのジャスミンティー煮、白きくらげと蓮の実茶、蓮の実ぜんざい、蓮の実パウンドケーキ、蓮の実の砂糖漬け、緑豆プリン、烏龍茶入りぜんざい、蓮の実の茶巾絞り、烏龍茶のカラフルゼリー、ベトナム風ティーパンチ

PART 4. 手軽でおいしいベトナム家庭料理
簡単に作れるベトナム料理
ザウムオンのにんにく炒め、バインテット・ベトナムちまき、ライスプディング、ベトナム風フランスパンサンド、スターフルーツと枸杞の実サンドイッチ、ベトナム風ライスサラダ、豚の皮揚げ入りお粥、生春巻、揚げ春巻、苦瓜のスープ、えびと豆腐のレモングラススープ、ジャックフルーツスープ、バナナのココナッツ揚げ、青パパイヤとスターフルーツの酢のもの、ベトナム風しゃぶしゃぶ
★ベトナムのフルーツ紹介

PART 5. ベトナムについてもっと知りたい
ベトナムの紹介
日本とのつながり/ベトナムの地理/ベトナムの歴史/ベトナム料理について/ベトナムの行事について
ベトナムの茶文化について
北と南の文化の違い/ベトナムのお茶について/ベトナム茶の産地
ベトナム茶の一般的な飲み方
いろいろな茶の楽しみ方/ベトナム茶の入れ方/煮出していれる方法
ベトナム茶の製茶法
ベトナムコーヒーの魅力  ベトナムコーヒーのいれ方
ベトナムのエトセトラ
ベトナムの民族楽器/ベトナムの民族衣装/ドンホー版画/安南焼について/ベトナムガラス/ベトナム刺繍(ベクチュー)
ベトナム映画に登場する茶のシーン
簡単なベトナム語
ベトナムの食材・雑貨・書籍が買えるお店の紹介

本書での紹介
主なベトナム茶の種類
《詳細は本書のPART 1参照》

緑茶
ベトナムで、もっともよく飲まれているお茶。日本茶にくらべて、こくがある。ベトナム緑茶は不発酵茶の一種で、ほとんどの日本茶と同じ分類になる。ベトナム人にとって、家庭でごくふつうに飲む茶になっている。日本では、中国から伝わった当時の、蒸す方式を大事に守って緑茶を作っている。ベトナム緑茶は、時期は定かでないが、早くから中国と同じ釜炒り法に変えていた。
黒茶
製茶後に麹菌を使って発酵させたお茶で、茶葉が黒い。独特の味わいがある。後発酵茶に分類される。ベトナム黒茶は、中国雲南省一帯で作られている黒茶と同じ。
黄茶
茶葉が黄色っぽいお茶。後発酵茶の一種。味は緑茶に似ている。一般に、黄茶の製造過程は黒茶と同じ工程だが、発酵のさせ方が異なる。黒茶は菌を使うが、黄茶は菌を使わず悶黄(茶葉を通気が悪い状態で自然に発酵させること)という工程によって茶葉を発酵させる。
紅茶
茶葉の香りがあまり強くないので、ブレ  ンド向きの紅茶。味は中国紅茶に似ている。ベトナム紅茶はフランスに統治されていた時代(19世紀の終り頃)に作り始められたばかりで、まだ生産量が少なく、歴史も浅い。現在はだんだん増産され、茶畑がどんどん広げられると同時に、紅茶をベトナム人に普及させる活動も行われている。
烏龍茶
ベトナム烏龍茶は台湾や香港で飲まれている烏龍茶にも、ひけをとらない味。ベトナムでは、南部に住む華僑に多く飲まれている。
チャラン茶
ベトナム語で、チャランは「竹筒」の意。作り方にはいろいろな種類があるが、一般に生の茶葉(ほとんど緑茶種を使う)を適当な長さに切った青竹の中に詰め、炉などの上に吊るし、燻製のように茶葉を乾燥させる方法がとられている。
蓮茶
代表的なベトナム茶。蓮の花と緑茶をブレンドしたもので、スパイスのような独特の香りがある。
蓮の実茶
蓮の実は、一般に白く洗浄され、ドライで売られている。ドライの蓮の実を細かく砕き、主に緑茶とブレンドしたものが、蓮の実茶として売られている。
蓮の葉茶
蓮の葉茶は、緑茶や烏龍茶などの茶葉とブレンドしたものもあるが、ベトナムではドライにした蓮の葉の茶葉のみに湯を注いだり煮たりして飲むことが多い。利尿効果があり、高血圧によいといわれている。
ジャスミン茶
乾燥したジャスミンの花を、緑茶や烏龍茶とブレンドしたもの。清純な香りが楽しめる花茶。
バラ茶
ベトナムのバラ茶は、乾燥したバラの花びらを、黒茶か烏龍茶とブレンドしたものが多い。ベトナム中に豊富な花のブレンド茶が供給できるのは、ベトナム中部の高級避暑地ダラットのおかげともいわれている。
菊茶
乾燥させた菊の花のお茶。ハーブティ-感覚で飲まれ、のどの痛みや目のかすみなどに効果がある。
アーティチョーク茶
アーティチョークは、ヨーロッパが原産のキク科の植物。日本ではチョウセンアザミとも呼ばれている。ベトナムのアーティチョーク茶は、ダラットの名産の一つ。茶といっても、茶葉とブレンドされてはおらず、一つ一つのアーティチョークを乾燥させ、丸めてまとめて袋に入れて売れている。
苦瓜茶
薄くスライスした苦瓜を乾燥させたもの。独特の苦みがある。ビタミンが豊富で、南部を中心に栽培している。
ドクダミ茶
ドクダミの葉のお茶。薬膳茶の一種。匂いが強いが、解毒作用があり、高血圧にも効くという。ベトナムのドクダミ茶には、生の葉とドライの葉の2種類がある。お茶として飲む場合は、ドライのほうを使用することが多い。
●ウコン茶
ウコン(ターメリック)の根を煮出して飲む。
檳榔茶
茸茶

関連記事

おすすめ記事

  1. メコン圏と大東亜戦争関連書籍 第8回「神本利男とマレーのハリマオ マレーシアに独立の種をまいた日本人」(土生良樹 著)

    メコン圏と大東亜戦争関連書籍 第8回「神本利男とマレーのハリマオ マレーシアに独立の種をまいた日本人…
  2. メコン圏を舞台とする小説 第50回「バンコク喪服支店」(深田祐介 著)

    メコン圏を舞台とする小説 第50回「バンコク喪服支店」(深田祐介 著) 「バンコク喪服支店」(…
  3. メコン圏を描く海外翻訳小説 第18回「ヴェトナム戦場の殺人」(ディヴィッド・K・ハーフォード 著、松本剛史 訳)

    メコン圏を描く海外翻訳小説 第18回「ヴェトナム戦場の殺人」(ディヴィッド・K・ハーフォード 著、松…
  4. メコン圏関連の趣味実用・カルチャー書 第10回「ベトナム雑貨と暮らす Vietnamese Style」(石井 良佳 著)

    メコン圏関連の趣味実用・カルチャー書 第10回「ベトナム雑貨と暮らすVietnamese Style…
  5. メコン圏題材のノンフィクション・ルポルタージュ 第31回 「アキラの地雷博物館とこどもたち」(アキ・ラー 編著)

    メコン圏題材のノンフィクション・ルポルタージュ 第31回 「アキラの地雷博物館とこどもたち」(アキ・…
  6. メコン圏が登場するコミック 第23回「密林少年 ~Jungle Boy ~」(著者:深谷 陽)

    メコン圏が登場するコミック 第23回「密林少年 ~Jungle Boy ~」 (著者:深谷 陽) …
  7. メコン圏の写真集・旅紀行・エッセイ 第31回「メコン川物語 ー かわりゆくインドシナから ー 」(川口 敏彦 著)

    メコン圏の写真集・旅紀行・エッセイ 第31回「メコン川物語 ー かわりゆくインドシナから ー 」(川…
  8. メコン圏現地作家による文学 第16回「田舎の教師」(カムマーン・コンカイ 著、冨田竹二郎 訳)

    メコン圏現地作家による文学 第16回「田舎の教師」(カムマーン・コンカイ 著、冨田 竹二郎 訳) …
  9. メコン圏対象の調査研究書 第29回「日本をめざしたベトナムの英雄と皇子 ー ファン・ボイ・チャウとクオン・デ」(白石昌也 著)

    メコン圏対象の調査研究書 第29回「日本をめざしたベトナムの英雄と皇子 ー ファン・ボイ・チャウとク…
ページ上部へ戻る