メコン圏に関する中国語書籍 第5回「广州秦汉考古三大发现」(广州市文化局 编、广州出版社)

メコン圏に関する中国語書籍 第5回「广州秦汉考古三大发现」(广州市文化局 编、广州出版社) 


「広州秦漢考古三大発現」THREE ARCHAEOLOGICAL FINDS OF THE QIN AND HAN PERIODS IN GUANGZHOU(広州市文化局 編、広州出版社, 1999年10月発行)

本書は、広州市文化局の編による総頁数約400頁、硬い装丁でサイズも大きく厚い書籍で、値段も定価350元と高価な中国語書籍。書籍のタイトルにある、中国・広州の秦漢時代の3大考古遺跡とは、一体どのような考古遺跡なのかがまず気になるところであるが、本書で取り上げられている考古遺跡は、「秦代造船工場遺跡」、「南越国宮署御苑遺跡」、「南越文王趙眜墓」の3ヶ所だ。全頁カラー写真の図版の頁が圧倒的に多い写真集といってもよい書籍である。「南越文王趙眜墓」については広州に立派な遺跡博物館があることもあってガイドブックなどに掲載され知られているが、「秦代造船工場遺跡」と「南越国宮署御苑遺跡」についてはそれほど日本では紹介されていないはずだ。

本書では約50頁と一番割り当て頁数がかなり少ないものの非常に興味深いのが第1章「秦代造船遺跡」で、ここでは1974年冬、広州市中心部の中山四路西段で発見された造船工場の遺跡について書かれており、1975年と1994年の2度にわたる発掘の経過、工場の配置と船台の構造について発掘時のいろんな写真や図資料を示しながら解説されている。2度の発掘で3つの造船台の存在が確認された。東西30m、南北18mの広さの面積で行われた1975年の第1次発掘では、1号船台の長さ29mの分が発見されている。1号、3号船台それぞれの両滑板の中心間の幅は1.8mなので幅3.6m~5.4m、長さ約20mの平底木船が、2号船台の幅は2.8mなので幅6m~8mの船が建造できるそうだ。

 構造が完備し規模が宏大な造船工場が、どうして嶺南の番禺(現在の広州に突然出現したのか、いつ頃建設されたのか、嶺南で当時発生したどのような重大な歴史事件と関連性があったのかといった、知りたい疑問にもきちんと答えてくれている。遺跡の地層の重層関係や地層から出土した遺物の年代特性、造船工場に使われた木材の年代測定、文献資料から遺跡の年代判断が行われており、秦が嶺南を統一した頃に出来たものとみられている。

 この造船工場では短期間に数多くの軍事用の船が急造されたとされるが、その理由は秦始皇帝が大軍を出兵し、嶺南百越の瓯越、駱越、南越の三大支族を征服し嶺南を統一した歴史事件と大いに関連があるとしている。よって秦始皇33年(紀元前214年)嶺南地方を統一するための戦争が終了した後は造船工場の使命は完成し、趙佗が南越王国を建立後も船を建造し続けていたかは確認できないが、南越王国の王宮拡大のために既に不要となっていた造船工場が前漢の文帝5年(紀元前175年)の少し後に埋められている。広州市中心部の2千年以上前の当時の原始地形図も示されており、これをみるとどうして珠江からも1300m以上離れている場所に造船工場遺跡があるのか納得できる。

第2章では、1995年後期と1997年後期に上述の秦造船遺跡近くの発掘で明らかにされた南越王宮の御苑遺跡に関する報告で、1995年に南越国時期の大型石水池が発見され、続いて1997年その大型石水池の西南方に長さ150mの石でできた曲渠が保存状態良いまま発見された。これらはセットで南越国王宮御苑の園林水景を成している。既に知られている南越国宮署のいくつかの跡から推測すると、当時の南越国の王宮区の範囲は悠に15万平方メートルを越えるものと見られる。

第2章の図版では135点が付され、南越国御苑遺跡全景、各所の発掘現場などに加え、南越国宮署のれんが、石造建築遺物やその他特筆すべき出土物のカラー写真が多数掲載されている。”万歳”瓦当(瓦当:がとう、鐙瓦(あぶみかわら)の先端の模様や文字のあるところ、円形または半円形)や文字瓦などの出土物のカラー写真も多く、書籍の表紙にも”万歳”瓦当の写真が使われている。

最後の第3章では、1983年に広州市の越秀山の西側で発見された「南越文王趙眜墓」が取り上げられている。南越国は西漢(前漢)早期の紀元前203年(漢高祖4年)に趙佗が南越武王を名乗り番禺(現在の広州)を都として嶺南に建立した地方政権で、紀元前111年、前漢の武帝に滅ぼされるまで5代続いた王朝。規模も非常に大きく出土随葬品も豊富な石室墓は、文帝と号した、趙佗の孫の第2代皇帝、趙眜の陵墓と見られている。陵墓の建築面積は約100平方メートルで主棺室、東側室、西側室、前室、後蔵室、東耳室、西耳室の計7室に分かれている。120頁強に及ぶ第3章の図版では、南越文王趙眜墓の発掘の現場から、皇帝の印章をはじめ以下の目次に示されているようにさまざまな出土品の写真や図が多数紹介掲載されている。尚、この発掘された南越文王趙眜墓を主とした西漢南越王博物館が、1988年に開館している。

目録

序言
第一章 秦代造船遺址
秦代造船工場遺址両次試掘総述
第一章図版

第二章 南越国宮署遺址
南越国宮署御苑遺址
第二章図版
一、南越国宮署的磚
二、南越国宮署的瓦
三、南越国的石構建築遺存
四、其他出土物選録

第三章 南越文王墓
南越文王趙眜墓
第三章図版
一、初露真容的皇帝璽
二、漢玉大観之一(墓主的玉殮葬)
三、漢玉大観之二(墓主的玉佩飾)
四、漢玉大観之三(玉之重宝有五器)
五、漢玉大観之四(精雕細刻的玉具剣飾)
六、漢玉大観之五(殉人的玉佩飾)
七、確認殉人身分的物証
八、彩翎金座漆画屏
九、絢麗異彩的服飾器用之一(世界最早織物印花工具)
一〇、絢麗異彩的服飾器用之二(帯鈎選萃)
一一、絢麗異彩的服飾器用之二(奇異的牌飾)
一二、絢麗異彩的服飾器用之二(古鏡擷英)
一三、銅兵与鉄兵
一四、宴楽之器
一五、独具特色的生活用器
一六、嶺南最早的舶来品

広州秦漢考古三大発現紀事

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