メコン圏関連の趣味実用・カルチャー書 第5回「潮風に消えた国」(新堀通子 著)

メコン圏関連の趣味実用・カルチャー書 第5回「潮風に消えた国」(新堀通子 著)


旅の雑記帳 – ベトナム「潮風に消えた国」(新堀通子 著、2000年11月発行、国際語学社)《本書に著者紹介掲載無し》

本書は、時間とお金が遣り繰りできれば、すぐにでもどこかへ出掛けてしまうという旅好きの著者による、楽しいエピソードとかわいいイラスト満載の旅行情報記だ。国際語学社から同じ著者により刊行された『旅の雑記帳ータイ ガイヤァンを食べに』、『旅の雑記帳ーインド 黄色い花の海』に続く旅の雑記帳シリーズーベトナム編。

 職場の同僚N子と、ベトナムへ寄ってカンボジアへ向かう旅を計画する著者。部分的にでも列車に乗りたく、また互いにベトナムは初めての国とあって、代表的な土地はひと通りおさえておきたいということで、まず首都ハノイから徐々に南下し、ホーチミンへ抜けてカンボジアへ向かうルートが決まる。更に著者の希望はチャンパの遺跡を一つでも多く見学したいというもので、チャンパ遺跡は国道一号線沿いに多く、宿のありそうな街から離れている場合もあるため、ハノイからフエまで夜行列車に乗り、フエ滞在後ダナンに列車で向かい、そこから南は車を仕立てて、見られるだけのチャンパ遺跡を回りホーチミンへ抜けようと、旅の計画がまとまる。そしてカンボジア入りはN子の要望で陸路でモックバイからと決定する。

 本書の題名が「潮風に消えた国」とあり、なにやらチャンパに関する旅や遺跡情報にあふれているのかと期待された方には残念ながらそんなに情報は多くない。チャンパの遺跡をできるだけ多く見学したいというのが著者の旅の目的ではあったものの、旅のコースは結果たいして著者の期待に沿っていない。そのため文句を言う著者とベトナム人のガイドとの激しいぶつかりの様が生々しく、著者の落胆ぶりが可哀想だ。そうはいっても著者のチャンパ遺跡を見たいという強い思いは、チャンパに関する紹介文章とともに、文章のあちらこちらで伺う事ができる。

 ダナンでチャム彫刻博物館が先に自分たちで見学したが、聖地ミーソンでは保存状態が比較的良い部分だけをさっと見るだけ。ミーソンの後、期待していたバンアン、チャキュウ、チェムソンタイ、チェンダン、アンミー、ドンジュオン、クォンミー、フーフンの各遺跡にも立ち寄る事もなく、著者の希望も全く無視され、チャウサ、チャムロー、フートーといった遺跡があるクアンガイにたどり着いても車は止まらない。そして著者たちを乗せた車は、ダナンから250キロ南のクイニョンの宿に18時を回った頃到着した。その日は朝7時過ぎにダナンの宿を出発するものの、著者に言われれば、時間がないならどうしてダナンの宿を出た後、喘息発作を起こしている著者に無駄な五行山登りをさせるのだ!ということだ。ガイドと運転手は一刻でも早く宿へたどり着いて休みたかったに違いないと推測しているが、このため夕方、クイニョン遺跡群のひとつ、銀塔を目にし「車を停めて」と頼むも聞こえないふりをされてしまったようだ。

 クィニョン泊の翌日、金塔(トックロック)、銀塔(タップバックまたはバンイット)、銅塔(カンティエン)、タップマム、象牙塔(ユンロン)、トゥーティエン、ビンラム、フンタンと、チャンパ遺跡が集中している近辺を巡ることを楽しみにするも、またも裏切られ、結局ここでは銀塔とフンタン(タップドイ)遺跡の見学のみ。さらにその翌日クイニョン出発後は、2時間半程車で走ってフーイェン省チュイホアの町外れに建つ雁塔(タップニャン)遺跡に到着。ここから更に2時間半ほど走ったところで、ニャチャンの北方ポー・ナガール遺跡にたどり着くが、チュオンソンなど他の遺跡はまたもや無視される。ポー・ナガールから更に2時間半くらい南下を続けホアライ遺跡に到着。そしてそこから約30分で、ファンラン郊外の宿へ。いよいよ翌日はホーチミンに向かう遺跡巡り最終日。ファンランにはその昔、パーンドゥランガと呼ばれたチャンパ王国の首都が置かれていたこともあって、近郊にはいくつもチャンパ遺跡が残っており、ポー・クラン・ガライ、ポー・ロメ、ポー・ダム、ポー・ハイといった遺跡回りを著者は希望する。果たして遺跡めぐりの最終日、まずポー・クラン・ガライを訪ねるも他の遺跡はやはり飛ばされてしまうが、チャンパ王国の南限の最後の遺跡、ポー・ハイ遺跡だけは、立ち寄る事ができた。

 数多くのチャンパ遺跡巡りの情報については、上述の通り訪ねる事ができた遺跡に限りがあり、残念な内容になっているが、しかし、ベトナム各地の食情報については、料理紹介の本と思い違えるくらい満載だ。米、スープ、デザート、飲み物、和え物とサラダ、野菜、包み物、、安飯屋の皿ご飯、魚料理・肉料理、ベトナム鍋、果物、食べ物屋の種類、屋台探険など、その内容は詳細にわたる。中でも麺については様々なフォー、フーティウやブン、カオラウ、バインカン、ミェン(春雨)、ミーについて6頁にわたって紹介している。食情報に限らず、いろんなエピソードも含め、すべて楽しいイラストが描かれている。ハノイからフエ行きの夜行列車内とか、とにかくその描写が詳しい。女性2人の楽しい珍道中の旅行記が、イラストでより一層親しめる。

本書の目次 (本書の目次に掲載されているもの)
 (注:目次としては、本書目次として以下のような順に並べられているが、これは掲載ページ順ではなく、テーマ毎に並び替えたもので、重複もあり)    

◆出発と手配
N子の懇願/出国ポイント/ホーチミンの午後/越境前夜
◆入国と出国
出国ポイント/ベトナムへ/カンボジア領事館/越境前夜/ モックバイへの道/さよならベトナム
◆国内交通
列車の夜/朝陽を浴びて/紫煙列車/ミーソンへ/不安と不満の一号線/ 路上の日本/ホーチミン到着/交通事故/モックバイへの道
◆日本とベトナム
チャンパと日本/路上の日本
◆宿泊
ドンバで昼食/駅前ホテル/クイニョンの夕食/ファンランの宿/ ホーチミン到着/越境前夜
◆買物
グエン氏の受難/サンダルを求めて/コン市場の午後/アオザイを仕立てる/ ホーチミンの午後
◆ガイド・現地情報
グエン氏の受難/苦行山/不安と不満の一号線/銀塔残照/ クイニョン遺跡群/ファンランの宿/遺跡巡り最終日/ホーチミン到着/ ファングラーオの姫君/越境前夜
◆食事
米の国ベトナム/食べ物屋さまざま/朝陽を浴びて/ドンバで昼食/ 麺の話/スープが基本/駅前ホテル/飲み物のあれこれ/物売り/ 猫達とお兄ちゃん達/和え物とサラダ/豊富な野菜/駅前のフォー屋/ 屋台探険/クイニョンの夕食/包む食文化/安飯屋の皿ご飯/ ファンランの宿/魚料理・肉料理/ホーチミン到着/ベトナム鍋/ 豆腐と卵/フォー・ガーの朝/調味料について/ホーチミンの午後/ ファングラーオの姫君/涙のアイスクリーム/甘味を楽しむ/ ベトナムの果実/珍客乱入/ミトー日帰り観光/市場風景
◆名所
ハノイ半日観光/紫煙列車/チャム彫刻博物館/苦行山/ミーソンヘ/ 銀塔残照/クイニョン遺跡群/ポー・ナガール目指して/ 忘れられた遺跡/遺跡巡り最終日/潮風に消えた国/ ホーチミンの午後/ファングラーオの姫君/ミトー日帰り観光
◆ベトナム・ベトナム人
ハノイ半日観光/グエン氏の受難/列車の夜/ドンバで昼食/ フエの苦痛/コン市場の午後/路地裏の怪/駅前のフォー屋/ アオザイを仕立てる/新聞売り/交通事故/ホーチミンの午後/ 路上のホーチミン/珍客乱入/市場風景

本書での紹介

食事
・コム(白飯)・ガーウ(粳米) ・ネップ(餅米) ・カインチュア(酸味の利いたスープ) ・バインチャン(北部ではバインダ。ライスペーパー。直径25cmほど製品には干し台に張った網の跡が残る) ・バインセオ(お好み焼き) ・バインコアイ(ミニピザ風の形) ・バインックォン(米の粉で皮を作った蒸し巻) ・バインベオ(蒸した米の粉) ・バイン・クォン・ティット・ヌーン(豚肉と野菜を蒸した米の粉のクレープで包んだ物) ・チャオ(粥) ・フォー・ボー(牛肉麺) ・ブン・ボー・フエ(フエ名物の激辛牛肉麺) ・ブン・オック(カインチュアをかけ回したような汁麺) ・ブン・タン(豚足を載せたブン) ・ブン・ニュウ・クア(蟹載せブン) ・ブン・サオ(焼きウドン) ・ブン・カリー(ココナッツカレー風味の汁を使う) ・カオラオ ・バインカン  ・ミー・ホァン・タン(雲呑麺) ・ミークアン  ・ミーサオ・メム  ・ミーサオ・ゾン  ・ミー・ガー(鶏そば) ・ヤーへオ(豚皮) ・フォー・ガー(鳥ガラ出汁のスープに裂いた鶏肉を載せる汁麺) ・フォー・ボー・タイ(薄切りの牛肉たたきへ熱い汁をかけ、半生状態にしたフォー) ・フォー・ボー・チン(茹で上げた牛肉が載るフォー) ・フォー・ボー・ビィエン(牛肉の他に肉団子あるいはハムの薄切りなどが載るフォー)  ・フォー・サオ(汁なしの焼きウドン風) ・フーティウ・クアカン(蟹爪がごとりと載ったフーティウ) ・フーティウ・ナンバン(具沢山のフーティウ) ・フーティウ・コー(炒めたフーティウに野菜を載せてタレをかけたもの) ・ブン・チャー(ブン・ティット・ヌオン)  ・ブン・ネムザン(ブン・チャーゾー) ・チャイン(ベトナム酢橘)  ・ニョクマム(魚醤) ・コムチェン(北部ではコムサオ。炒飯)  ・ソイ(おこわ) ・ソイガーラーセン  ・バインフォン・トム(揚げ煎餅) ・バインコム(餅菓子) ・バインザイ  ・バイン・スー・セー  ・チェー・タップカム(五目ベトナムぜんざい)   ・ニャハーン、クアハーン・アン(レストラン) ・クアン・アン(南部ではティエム・アン)(食堂) ・クアン・コム(南部ではティエム・コム)(ご飯物中心の食堂) ・クアンコム・ビンザン(クアンコムの中でも昼定食を中心にした店)  ・コム・ビンザン(南部ではコム・ビンヤン。安飯屋) ・フォー(米麺) ・セー(屋台) ・ゴイクォン(生春巻) ・チャゾー(ネムザン、揚げ春巻) ・ネム・ヌォン(肉団子の網焼き) ・カフェ・デーン(ブラックコーヒー)  ・カフェ・スーア(ミルクコーヒー) ・カフェ・ダー(アイスコーヒー) ・ヌオック・チャー(中国系のお茶) ・チャー・デーン(紅茶) ・ニョク・ファークァー(生ジュース) ・スーア・トゥオイ(牛乳) ・シン・トー(シェイク) ・ニョク・ミア(サトウキビジュース) ・ラウ・マー(生ハーブジュース) ・ヤァオア(ヨーグルト) ・ニョク・スオイ(ミネラルウォーター) ・ビアホイ(ビアホール) ・ルアモイ(米焼酎) ・ズオウチャン(醸造酒) ・ズオウネップ ・ズオウ・ヴァーン(ワイン) ・ゴイ(酸味のある和え物) ・ゴイ・ガー ・ゴイ・カー ・ゴイ・スァ ・ゴイ・コクゥワ・トロン・ティット ・ゴイ・ドゥドゥ ・ゴイ・セン ・ゴイ・ブォイ ・ゴイ・カー・ニャチャン ・オー・クゥワ・サオ  ・サー・ラッ・トロン  ・ラウ・チュー・ソッ・マゾネー ・ザウ(野菜) ・ザー(モヤシ) ・カーチュア(トマト) ・カーローッ(人参) ・クァイ・タイ(ジャガイモ) ・クァイ・モン(里芋) ・クーカーイ(大根) ・ズア・チュオッ(胡瓜) ・カーチム(茄子) ・ビ・ロー(南瓜) ・スップ・ロー(カリフラワー) ・ハイン(葱) ・マン(筍) ・マン・タイ(オクラ) ・マン・クゥア(アスパラガス) ・ボー・ソイ(ほうれん草) ・カーイバップ(キャベツ) ・カーイティア(白菜) ・ザー・ヘー(韮) ・ザウ・ジェップ(レタス類) ・ドン・コー ・コクゥワ(苦瓜) ・ゴー・セン(蓮の茎) ・セン・ホム(蓮の実) ・ボン・ヘー(花韮) ・ザウ・ムォン(空芯菜) ・チュオイ・ホア(バナナの花) ・ラロット ・ガック ・ジア・ザウ・ソン(添え物の生野菜) ・チュオイ(バナナ) ・ズア(ココナッツ) ・ズア・トーム(パイナップル) ・ケー(スターフルーツ) ・ボー(アボカド) ・ブォイ(ザボン) ・ドゥドゥ(パパイア) ・カム(蜜柑) ・ズア・ホウ(西瓜) ・ホーン(柿) ・ザウ(ライチ) ・チョムチョム(ランブータン) ・ニャーン(龍眼) ・サウリェン(ドリアン) などなど

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