中国・広西チワン族自治区の概況

豊富な天然資源と独特な観光名所

観光地としては日本人にもすっかりおなじみの桂林は、広西壮(チワン)族自治区にあるが、この地は、インドシナ地域に隣接しており、メコン圏的要素を色濃く残している。この自治区の基本概況を、小冊子『広西チワン族自治区がたどった40年』(中国・北京 新星出版社、1998年)」から紹介し、関連する個別テーマも順次取り上げる。

広西チワン族自治区の行政区分

9つの自治区直轄市
南寧市(区都)、柳州市、桂林市、梧州市、北海市、欽州市、防城港市、貴港市、玉林市
6つの地区
南寧、柳州、桂林、賀州、百色、河池
県(市)は、合計81で、そのうち、少数民族自治県は12、県クラス市は10ある。

豊富多様な天然資源

広西は地形、地貌が複雑、多様で、気候が暖かく、独特な生態環境が形成されている。天然資源も豊富多様である。

鉱産資源
広西は鉱産資源が豊かで、特に非鉄金属の鉱物の種類が多く、埋蔵量が大きく、品位が高く、品質が良く、産出地が集中し、採掘もしやすく、「非鉄金属の里」といわれており、中国10大重点非鉄金属産出地の一つとなっている。これまでに発見された鉱物は百種類近く、確認済みの埋蔵量は約70種類で、53種類の鉱産物の埋蔵量は全国10位以内に入っている。そのうち、埋蔵量で全国1位は、マンガン、スズ、ヒ素など14種類(マンガン、スズの埋蔵量は全国総埋蔵量の三分の一を占める)ある。バナジウム、タングステン、亜鉛、アンチモン、銀、アルミニウム、滑石、重晶石など25種類の鉱物の埋蔵量は全国2位~6位を占める(アンチモン埋蔵量は全国総埋蔵量の四分の一を占める)。平果アルミニウム鉱山、大廠スズ鉱山は全国の有名な大型鉱産区で、開発の見通しが非常に明るい。

水資源
広西の河川の年間総流量は4220億立方メートルで、全国の水資源総量の6.9%を占めている。雨量集中面積50平方キロ以上の河川は937本、流域面積100平方キロ以上の河川は69本を数え、それぞれ西江水系、長江水系と北部湾水系に属している。水エネルギー埋蔵量は2133万KWで、全国8位。開発可能な設備容量は1751万KWに達し、全国6位、そのうち設備容量500KW以上の発電所は856ヶ所建設でき、総設備容量は約1562万KWで、年間発電量は約788億KWHである。紅水河の年間平均水量は1300億立方メートル、黄河の2.8倍で、全国の水力発電資源の「富鉱」といわれている。国務院の認可を得て紅水河に10ヶ所の発電所が建設される。その総落差は756m、開発利用可能な水エネルギーは約1105万KWで、年間発電量は562億KWHに達することができる。現在、天水橋2級、大化、岩灘、百竜灘、悪灘の5つの発電所が完工し、そのほかに、建設中の水力発電所、建設を待つ水力発電所、施工準備段階にある水力発電所が各一ヶ所ある。

海洋資源
広西の海域面積は129,000平方km、浅海、干潟は192,000ha。海底が平らで、暗礁が少なく水深が浅く、波が小さく、海洋化学工業、漁業、養殖、鉱物、エネルギー、対外貿易、輸送、観光などの資源が豊富である。確認済みの魚類は約600種類あり、東中国海より50種類多く、資源量は70余万トンに達する。浅海、干潟の海底棲息と潮間帯の生物資源は149種類に達し、ナマコ、カキ、ハマグリ、サルボウ、オゴノリ、真珠貝、海藻などの水産量がきわめて大きい。広西はまた真珠が多く、特に合浦の真珠は「南珠」と呼ばれ、その品質の良さは内外によく知られている。
広西の海洋石油、天然ガスは比較的豊富で、南中国海の大陸棚にある北部湾盆地の石油と天然ガス資源も開発段階に入っている。

動植物資源
広西で発見された植物は280余科、1670余属、約8000種あり、雲南、広東に次ぎ、全国3位。全区の森林面積は8,166,600haで、森林被覆率は34.37%に達し、現在、楠、チーク、ダガヤサン、金糸プラムなど貴重な樹木が30種類余りあり、氷河時代に根絶したとかつてみられた銀杉が生えており、また世界でも珍しい植物である金花茶がある。広西には陸生脊椎動物(或いは亜種)が729種類いる。国家保護の対象となっている動物として班冠鶏、白頭葉猴、小型オオトカゲ、豹、サンショウウオなど40種類ある。発見された漁労・狩猟動物と淡水魚類は200余種類あり、また多くの毛皮動物、肉食動物、薬用動物と家畜の品種がある。サトウキビ生産量は全国一位で、果物は700余種類あり、主にバナナ、パイナップル、レイシ、リュウガン、沙田ザボン、柑橘類、マンゴーなどがある。

独特な観光名所

広西では石灰岩の分布が全自治区面積の約50%を占めている。区内には奇峰が林立し、水が清く、鍾乳洞、怪石が多く、風光明媚である。桂林、陽朔の附近のカルスト地形からなる景観が最も有名で、石山が点在し、川水が澄みきり、山々に洞窟があり、どの洞窟も奇異で、全国の観光重点地区の一つとなっている。北海は広西の新興観光都市で、内外に有名な北海銀灘は砂が白く、浜が平らで水がきれい、その上波が小さいという特徴をもち、天然の海水浴場となっている。凭祥、東興などの都市は神秘的で独特な国境風情で有名である。全区に風景名勝区が400ヶ所あり、桂林、南寧、柳州、広西東南部と濱海の5つの観光区がある。国家レベルの風景名勝区には桂林の漓江、桂平の西山、寧明の花山がある。国家レベルの観光リゾート区には桂林の桃花江、防城の江山島、霊川の清獅潭、竜勝の温泉、玉林の仏子山、桂平の西山、合浦の星島湖、茘浦の豊魚岩などがある。
広西には多くの少数民族が住んでおり、民族的風情が濃く、内外の観光客を引き付けている。広西の少数民族の中で、チワン族の歌、ヤオ族の踊り、ミャオ族の祭り、トン族の楼と橋は、民族風情観光の「四絶」と言われている。

チワン族の歌
チワン族は歌と踊りがうまいことでよく知られ、広西チワン自治区は「歌の海」といわれている。チワン族は歌で自分たちの生活と労働を表現し、思想と感情を表すことに長じている。若い男女の恋にはラブソングがあり、結婚には嫁入りを惜しむ歌があり、葬儀には死を悼む歌があり、知恵を比べるには問答の歌があり、賓客を招宴するには酒を勧める歌と節気歌があり、神様を祭って雨を求めるには祈祷歌があり、子供用にはわらべ歌や童謡がある。春と秋になると、若い男女が晴れ着をまとり、特定の場所に集まって、歌を一問一答式に歌う。こうした歌会は「歌の市」といわれ、「歌祭り」ともいわれている。

ヤオ族の踊り
広西チワン族自治区金秀ヤオ族自治県には古い文化と風俗習慣を保っているヤオ族が住んでいる。彼らの歌と踊りは民族色に富み、そのリズム、歌詞、服装、踊りの姿、道具などはいずれも独自の特色をもっている。踊りは長鼓舞、捉亀舞、黄泥鼓舞、盤古兵舞、八仙舞、師公舞などが最も流行している。毎年の旧暦10月16日、7月7日、6月6日などのヤオ族の祭りになると、さまざまなヤオ族の踊りが見られる。

ミャオ族の祭り
広西チワン族自治区融水ミャオ族自治県では、毎年ミャオ年祭(ミャオ族の正月)、蘆笙祭、拉鼓祭、芒歌祭、新禾祭、斗馬祭など多くの祭りがある。祭りになると、ミャオ族の村で美しい蘆笙曲を聞き、みやびやかな蘆笙舞を見ることができる。ミャオ族の村を訪れると、「客好き」のミャオ族が「道を遮る歌」を歌って、酒を勧めてくれたり、太鼓をたたき、色とりどりの絹ひもをかけ、絵の描いてある卵の殻をかけてくれたりする。

トン族の楼
柳州附近にある三江トン族自治県の「トン楼」は中国でも有名な木造建築である。「楼」はトン族の代名詞となっている。その実、トン族の楼は広義では住民の鼓楼、風雨橋、亭、村の門、井戸亭などの木造建物が含まれる。こうしたほぞ構造建築芸術は長い歴史を持ち、自ら一つの体系をなしている。どの橋、どの楼、どの亭もトン族の村の目立った象徴となっており、その建築技術はたいへんすぐれている。近年、トン族の建築芸術展が北京さらに全中国でセンセーションを巻き起こした。人々は、トン族の「楼」芸術は凝固した詩、立体化した絵であると賞賛している。

地理的環境

中国西南部の国境地帯、北緯20°54’~26°23’、東経104°28’~112°04’の間に位置。中国の5つの自治区の中で唯一つ沿海地帯にある民族自治区域。自治区の南北の距離は約610km、東西の距離は約750km、陸地の国境線は1020km、海岸線は1595kmで、東は広東省、海南省に隣接し、南は南海の北部湾に面し、西南はベトナムと国境を接し、西北は雲南省、貴州省と、東北は湖南省と隣接している。自治区の総面積は236,700平方kmで、広さは中国全国9位。地勢は全般的に西北が高く、南東が低く、周りは山々が連なり、中央部は丘陵、平原が多く、『広西盆地』といわれている。丘陵、山間地は自治区の総面積の約70.8%を占め、平原はわずか29.2%でしかない。

広西は南亜熱帯と中亜熱帯にあり、北回帰線が中央部を横断し、年中海からの湿った気流と北部からの乾燥した寒気団の交替の影響を受け、亜熱帯湿潤季節風気候に属し、日照は十分で、気温は割に高く、降水量は多い。年間日照は1121~2266時間、降水量は973~2277mm、平均気温は16℃~22.7℃、無霧期は330~350日で、大部分の地区は厳冬がなく、農作物の連作ができる。

その他の民族自治区と比べて、広西は地理的位置がよく、沿海、西南部の国境地帯に位置し、自治区内に多くの河川があり、南には東南アジアが広がり、背後には中国の大西南地区がひかえている。現在、広西はすでに中国西南部の最も便利な海運ルート、中国南部から西南部地区に通じる紐帯となっている。

歴史の沿革

自治区内で、約5万年前の旧石器時代の「柳江人」と「白蓮洞人」の化石が発見されている。史書によると、広西に最も早く居住したのは、「百越」あるいは「百粤」といわれる部族である。チワン族は、古代の百越部族の西甌と駱越支系の後裔で、広西に最も早く居住していた民族である。

紀元前214年、秦の始皇帝は、現在の広西に桂林、象郡、南海の3つの郡県を置いた。桂林郡が当時の行政中心であったことから、現在、広西の略称は「桂」と言われている。秦(紀元前221~紀元前207)の時代から広西は、中原の進んだ文化と生産技術を導入し始めた。唐(618年~907年)の時代、社会経済と文化の水準がいちだんと向上し、農業、手工業、商業、水利建設が大きく発展した。宋の時代に区域制が実施され、地形に基づいて全国を幾つかの路に分け、現在の広西は当時の広南路の西路に属し、行政中心が今の桂林市に置かれた。「広西」が行政区域の名称となったのはこの時期からである。当時、広西は果物の生産で全国的に知られ、磁器製造業も大変発達していた。清朝(1644~1911)の末期には、広西で太平天国蜂起が起こった。民国時期(1912~1949)には、広西の農業生産が大きく発展し、淡水漁業も盛んになった。

1949年中華人民共和国成立後、1950年2月8日、広西省人民政府が設立された。その後、1958年3月5日、国務院の認可を得て、広西チワン族自治区が設立された。1978年から、広西全域の解放日(1949年12月11日)である12月11日を自治区成立記念日として定めた。

民族・人口と宗教信仰

チワン族を主体とする多民族自治区で、チワン族、漢族、ヤオ族、ミャオ族、トン族、モーラオ族、マオナン族、回族、ジン族、イー族、シュイ族、コーラォ族などの民族が住んでいる。1997年末現在、自治区の総人口は4633万人。そのうち少数民族人口は、38.08%を占め、1764万1000人である。少数民族人口のうち、チワン族は、86.04%を占め、1517万9000人である。チワン族は、中国55の少数民族の中で、人口の最も多い民族である。広西に住んでいるチワン族の人口は、全国チワン総人口の91.38%を占めている。

広西の宗教には主として、仏教、道教、カトリック、イスラム教がある。教徒の中には、漢民族の他、チワン族、ヤオ族、ミャオ族、トン族、モーラオ族、マオナン族、ジン族、回族などの少数民族がいる。正常な宗教活動は、いずれも法律の保護を受けており、自治区全体に宗教活動場所が447ヶ所ある。

チワン語とその文字

チワン語は、漢・チベット語系チワン・トン語語族チワン・タイ語支派に属している。その発音は地域によっていくらか違っており、方言が12ある。隋唐(581~907)時代に、チワン族の先祖は漢字の構成方法を模倣し、古代チワン文字を創り出した。この文字は民謡、物語の創作、碑刻、経文、勘定書、契約、家系図などに使われた。現存する『董永』『周軍』『何文秀』は古代のチワン文字で書かれたものである。1989年に出版された『古代チワン語辞書』には、チワン族地区に使われている古代チワン文字が10700字収集されている。

統一されたチワン文字を制定するため、1952年と1954年に、中国科学院語言研究所は関係専門家を派遣し、チワン族の住んでいる47県で調査・比較研究・論証を通じて。「チワン語案」を制定。1955年チワン族地区で試行し、1957年正式使用され始め、1982年、再び改訂された。チワン文字はチワン族の北部方言を基礎としたもので、あわせて26の字母がある。

現在、チワン文字は広く使用されている。多くの党・政府機関、社会団体、工場・鉱山・企業、学校などの印章や額はチワン文字と漢字の2種類で書かれており、多くの学校はチワン語と漢語の2種類で授業を行っている。チワン語は、翻訳、報道・出版、古代書籍の整理と学術研究、交流などの面で幅広く用いられている。またチワン語で収集、整理、翻訳、出版された大量のチワン族の伝統的な歌、民謡、物語、伝記、寓言やさまざまなチワン族の古代書籍から、人々はチワン族の宗教、哲学、社会文化と生活習俗などを多面的に理解することができる。

●壮(チワン)族
壮族には、「布壮」「布儂」「布越」といった20余りの呼称があるが、総じて壮族と呼ばれている。チワン族は、古代の百越部族の西甌と駱越支系の後裔で、広西に最も早く居住していた民族である。チワン族は、中国55の少数民族の中で、人口の最も多い民族である。漢族との交流が長く、黄、陸、莫、僮などの漢字姓を名乗るのが特徴的とされる。古代ベトナム語や古代タイ語との類似性や、歌垣などの風俗習慣などが注目される。

●中国の自治区

現在、中国では、広西チワン族自治区以外に、内蒙古自治区、新疆ウイグル自治区、寧夏回族自治区、チベット自治区の計5つの自治区が設置されている。

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