メコン圏の写真集・旅紀行・エッセイ 第25回「亜細亜看看」(松本十徳 著)

メコン圏の写真集・旅紀行・エッセイ 第25回「亜細亜看看」(松本十徳 著)


「亜細亜看看」(松本十徳 著、徳間書店(徳間文庫)、1995年6月発行)

<著者> 松本 十徳(まつもと・かずのり)広島県生まれ

中越国際鉄道、滇越鉄道など、中国から国境を越えて隣国へ向かう国際列車9路線(1997年11月現在)中、6路線を1997年1月から6月にかけて乗車した旅紀行の『中国国境列車紀行』(近畿日本ツーリスト刊、1998年1月発行)の著者でもある松本十徳氏によるアジア各地を旅したフォト・レポート。本のタイトルに「亜細亜看看」とあるが、本書に取り上げられている街・地域は、アジア全域でもなく中国限定でもなく、すべてメコン圏地域で、しかもほとんどの街・地域がメコン圏内の国境の街・地域と、まさにメコン圏の魅力が詰まったカラー写真満載の旅紀行となっている。本書に収録されているそれぞれの旅の時期は、明記されていないものがあるが、文章の内容からいって、本書発刊年(1995年)前の1994年あたりと思われる。

あとがきで著者が、「私は昔から地図を広げてみるたびに、自然に目が国境地帯に向き、あれこれ思いをめぐらせてきた。そして、いつも国境という文字に心を躍らせ、ロマンをかきたてていた。島国日本に生まれ育った私には、国境はそれほど特別なものだった。」と、記しているが、大陸の陸地つながりの国境に同じ思いをお持ちの方も少なくないであろう。中国は、政策上長い期間、国境辺りの地域を「未開放地区」と指定し、許可なしに外国人は旅行することができなかったが、1985年以後、中国政府は毎年この未開放地区を少しずつ開放し始め、また開放都市を増やすのと並行して中国は1988年頃より国境を開放し、「辺境貿易特別地域」を指定し始めた。こうした変化は、国境地帯を旅し国境通過を夢見ていた著者にとって、待ち望んでいたものであった。

ベトナムと中国間の国境ルートとしては、①広西壮族自治区南西部の憑祥、友誼関とベトナム北東部のドンダン、ランソンのルート、②雲南省南東部の河口とベトナム北西部のラオカイのルート、③広西壮族自治区南部の東興とベトナム北東部のモンカイのルートがあるが(公道以外の地元の人しか通れない道は当然たくさんある)、この3ルートとも本書の第1章、第2章、第7章で取り上げられている。

①のルートについては、中越戦争で破壊され普通となっていた中越国際鉄道(北京=ハノイ)が1996年2月に再開されているが、本書の旅では、中越国際鉄道再開を間近に控えた頃で、南寧駅から湘桂線で終点の憑祥(本書では、人口約9万人の街で、漢族、壮族、京族の住む街で、経済開放特別地区に指定され辺境貿易も拡大し人口も増え街は建築ラッシュと書かれている)で下車し、小型バスで友誼関(明代初期、越国(ベトナム)との戦いに備え城郭を築いた所)まで行き、峠の検問所から歩いて5分くらい下った場所にベトナム側の検問所があり、そこからバイクタクシーで下の街・ドンダンに向かい、さらに南に10キロ下って、中国との国境貿易の最前線基地ランソンの街にたどりついている。

②のルートを走る滇越鉄道(ハノイ=昆明北駅)は,1997年4月より直通の国際列車として再開運行されているが、本書の旅では、昆河線で昆明北駅から中国領の終着駅でもあり国境の街でもある河口までの旅となっている。それでも以前は、河口は未開放地区で途中の開遠までしか入れなかったのが、開放地区となり特別経済開放都市にも指定され、自由に旅行ができるようになったという状況だ。また、③のルートについては、ベトナム領モンカイ(芒街)と、中国領・東興鎮の間を隔てる北侖河にかかる中越友誼大橋が、1994年1月に中越紛争以来14年ぶりに修復され完成したということで、著者は東興鎮を訪ねているが、訪ねた1994年6月現在は、中越友誼大橋は修復完成したものの開通が遅れていた。東興での辺境貿易の様子も興味深いが、第7章ではそれ以上に中国、広西壮族自治区、南寧市それぞれの経済発展の戦略性に勢いを感じてしまう。

中国側のメコン圏との国境地帯としては、他に雲南省西南のミャンマー(ビルマ)との国境の街・瑞麗について第3章で、雲南省の最南端に位置し、東南部はラオスと、南西部はビルマ(ミャンマー)と国境を接している西双版納については第4章で取り上げられている。瑞麗について書かれた第3章では瑞麗河にかかる橋をわたった姐告という地域や、瑞麗より東30キロにある畹町、更には貿易商に頼んで同行させてもらったビルマ側の国境の街ナンカン(南坎)まで書かれている。著者が西双版納を初めて訪ねたのは1990年春に景洪に空港ができ、その直後の初夏とのこと。1993年の再訪当時は、カンランバより先は未開放地区で立ち入ることはできなかったが、1994年にも訪れているが、1994年には開放されラオスとの国境に通じるモンラーにも入ることができるようになっている。1993年の秋には、打洛からビルマに抜ける街道も開放されるようになったとのことだ。

タイと国境を接するビルマ(ミャンマー)の街としては、タイ最北の街、メーサイとわずか川幅10mのメコン川の支流メーサイ川に架かる小さな橋でむすばれているタチレクが取り上げられている。1992年7月から外国人にも解放されてタイ側からビルマのタチレクに入れるようになり、著者もメーサイからの一日ビルマ入国をしている。以前はタイの製品が多く占めていたが、1988年中国とビルマの国境貿易が開かれて以来、年々中国製品が増え続けてきたタチレク市場の様子も写真で紹介している。著者が”ビルマのミニ香港”と形容したこのタチレクの中国料理店主の「ここ(タチレク)からは、自由にタイに行けるし、また今度は中国にも行けるようになって、嬉しい。タイと中国が経済関係を競争することによって、ビルマはますます良くなる。とても良いことだ」とのコメントが印象的だ。

西双版納の州都・景洪は、メコン河本流沿いの町であるが、メコン河本流が国境を成すタイ=ラオス間については、本書では第6章に、メコン川沿岸のタイ領の街ノンカイからナコン・パノムの旅紀行が収められている。1994年にタイとラオスを結ぶメコン川にかかる友好橋が開通した後に、ノンカイの街を訪ね、そこからメコン川沿いに並行して走る国道212号線をローカルバスでナコン・パノムまで向かう。ナコン・パノムでは宿がなく、タイ人女学生達も泊まっていた地元の学校に泊まるという思わぬハプニングがあったが、丁度、タイ全土のみならずラオスの仏教徒からも深く信仰されている歴史の古いタート・パノムで奉納舞踊の舞が行われるという幸運に遭遇している。他にメコン川について、国境地帯ではないが、カントーなど、ベトナム南部のメコンデルタ地帯についても第8章で旅の様子が紹介されている。

本書の目次
Ⅰ.ベトナム北部国境の街・・・諒山
Ⅱ.滇越鉄道の街・・・河口
Ⅲ.西南シルクロードの国境の街・・・瑞麗
Ⅳ.雲南省最南端の秘境・・・西双版納
Ⅴ.メコン川の香港・・・タチレク
Ⅵ.メコン川沿岸・・・ノンカイ から ナコン・パノム
Ⅶ.辺境貿易都市・・・大西南経済圏
Ⅷ.アジア最大の食の宝庫・・・メコン川デルタ市場

本書掲載の街
第1章:中国=ベトナム国境
・広西壮族自治区省都:南寧
・寧明:古代の左江岩画
・ベトナム国境の街:憑祥(ピンシャン)
・中国国境管理・検問所:友誼関
・ランソンの郊外の町:ドンダン(同登)
・ベトナム北部最大の都市:ランソン(諒山)

第2章:中国=ベトナム国境
・昆明北駅
・ベトナム国境の街:河口

第3章:中国=ミャンマー国境
・大理(下関)
・保山
・怒江にかかる紅旗橋
・芒市
・中国の西南端: 瑞麗、姐告、畹町
・ビルマ側:ナンカン(南坎)

第4章:西双版納
・景洪
・カンランバ
・曼飛龍
・モンハイ

第5章:タイ=ミャンマー
・タイの最北の街: メーサイ
・タイと国境を接するビルマの街: タチレク

第6章:タイ=ラオス
メコン川沿い
・ノンカイ ・ナコンパノム ・ナコンパノムの対岸
ラオス領  タケク

第7章:中国=ベトナム国境
・南寧 ・那梭 ・東興 ・京族が多く住む村 ・防城

第8章:メコン川デルタ市場
ホーチミン: ベンタイン市場、ビンタイ市場(チョロン地区)
メコンデルタ最大の町:カントー、カントー市場
カンボジア国境に近いャウドックその他周辺の町
ミトー、ヴィンロン、ロンスエン

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