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メコン圏を舞台とする小説 第3回「蒼き火焔樹」(谷 克二 著)
- 2000/2/10
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- ウラン鉱脈, コラート, シャン・カレン抵抗勢力, タイ学生民主化運動, ビルマ・ルビー, ビルマ鉱物資源, 元ビルマ首相ウ・ヌ, 蒼き火焔樹, 谷 克二
メコン圏を舞台とする小説 第3回「蒼き火焔樹」(谷 克二 著)
「蒼き火焔樹」(著者:谷 克二、徳間文庫、1988年初版(1983年10月角川書店より刊行)
タイ、ビルマをはじめとするメコン圏を核に、ロンドン、東京をも結ぶ国際的スケールの謀略アクション巨編。
主人公の津上啓助は、39歳の在バンコク宝石商で、元バンコク日本大使館職員。津上は、商用で訪れたロンドンで、殺人事件に巻き込まれる。そしてその殺人事件の被害者は、かつて主人公がバンコク日本大使館で勤務していた時の同僚で通産省職員の三田村であった。父親が軍属で日本の敗戦で内地に引き揚げるまで8年間バンコクや北部タイで過ごしたために三田村は、タイの地方の方言やビルマ語まで操ることができ、日本大使館主催の新年交歓パーティーで「表面だけ飾ったお祭りをやってたって、なんの役にたつというんだ。こんなことをしているあいだにも殺されていく人間がいるのに・・・・」と吐くような男でもあった。しかしなぜかこの殺人事件は、日本人ではなく、タイ人のタイ・コラート県の薬商人がヘロインの密売がらみで殺されたとして処理されるようになっていた。
タイに戻り、ビルマ・ルビーの買い付けに行ったタイ北部のビルマ国境地帯でも、主人公は武装集団に襲われる。この一連の事件の背後には巨大な罠が仕掛けられようとしていた。
主人公を取り巻く人物には、元日本帝國陸軍南方総軍ビルマ駐屯第15軍の中佐で、その後総合商社のエネルギー資源部長を務めた瀬田龍三郎や、津上の宝石ビジネスパートナーである湖南省出身の老華僑。その華僑の娘であるチュラ大学生、父親が戦前神戸で天然ゴムを大幅に扱っていたがその後没落しタイで真珠の養殖を始め今はタイ財界要人の妻となっている日本人女性、英国情報部員、ビルマ反政府運動グループなどが配されている。
散りばめられたテーマ・素材は多彩であるが、ビルマの豊かな鉱物資源、特にウラニウム資源に関する戦時中の極秘報告書をめぐって、国際謀略がめぐらされる。時代状況は、1970年代初期のタイでの軍事政権に対抗する学生民主化運動の高まりや、国境地帯を勢力圏とするシャン・カレン抵抗勢力及び、元ビルマ首相・ウ・ヌの指揮する反政府グループの動きを背景としている。1970年代初期の時代の空気を感じ取りたい人には、お薦めの文庫本である。ビルマは鉱物資源が豊富であるとはよく語られるが、ウラン鉱脈については果たしてどうであろうか?
谷 克二 氏(たに・かつじ)1941年、宮崎県生まれ
1963年、早稲田大学を卒業後ドイツに渡り、フォルクスワーゲン社に勤務した後、ヨーロッパ各国を回って1969年帰国.。ニュージーランドの鹿猪を描いた「追うもの」(「野生時代」新人文学賞受賞作)で1974年作家デビュー。ビルマ戦線
インパール、牟田口総司令官、コヒマ台地、ラングーン、モールメン、メイミョウ、マンダレー、
ラシオー、アラカン山脈、シャン高原、アッサム州平原、援蒋ルート(レド公路)
チャンドラ・ボーズ、インド国民軍、東条内閣、シャン・カレン地方、ミヤンミヤ、
中部ビルマの要衝メークティラ、アウン・サン将軍、プローム街道、イラワジ河支流ミッタ川、プローム、ペグー山系、15軍、シッタン
ビルマの資源
ボールドウィン鉱山、モーチ鉱山、石油、非鉄金属(銅、亜鉛、タングステン、コバルト、ニッケル)
宝石
タイとカンボジアの国境地帯、タイ・ビルマ国境、サファイア、ルビー、翡翠、白蝶貝、
マレー半島南部の海上生活者、
タイ関係
1932年の立憲クーデター、1962年産業投資法、日本商品排斥運動、タイ学生センター、
タイ職業学生センター(NVSCT)、国境警備隊、共産ゲリラ、タノム首相、プラパート副首相、ナロン大佐
ラオス内戦、タイにおけるラオス右派支援の非合法な援助活動、タイのラオスとの国境閉鎖、
在タイ米軍基地、サタヒップ、ウタパオ、南部の水産加工、真珠養殖
ビルマ関係
ビルマ族、シャン族、カレン族、ビルマ共産党、ウー・ヌー、ネー・ウィン、1962年の軍事クーデター、
イラワジ河、 ウ・タント、日本のビルマ援助、ビルマの経済政策、
エネルギーとウラニウム
原子爆弾の開発、ウラニウム、エネルギー供給、原子力開発
ストーリー展開場所
ロンドン、東部タイのカンボジア国境地帯の山村、バンコク、タイ北部のビルマとの国境地帯
カンチャナブリ、東京、ウタパオ
ストーリー展開時代
1970年代初期
登場人物たち
津上啓助(在バンコク宝石商)、王満伝(宝石商の老華僑)、ビライ(チュラ大女子学生)
ゴールドマン(英国の宝石商)、瀬田龍三郎、
藤野(瀬田の部下で民間コンサルタント「東南アジア農業研究所」バンコク事務所長)
梅津徳太郎(元中将)、ウィリアム・G・ハミルトン(前英国国会図書館資料室長で元英軍将校)
三田村(元通産省職員)、ノイマン刑事部長・ハル警部、徳永(在バンコク日本大使館員)
ソテラート(タイ財界要人)、麗子(ソテラートの日本人妻)、ビルマ人・ギー大尉、ソムサック中佐
セニ教授(チュラ大教授)