北東インド旅行記 ~「辺境」の地を訪ねて~ 第4回 ナガランド編(4)(中園琢也さん)

北東インド旅行記 ~「辺境」の地を訪ねて~ (中園琢也さん)
第4回 ナガランド編(4)

中園琢也:
都内在住の一般企業勤務。学生時代よりアジア各地を旅行。旅先での関心領域は食文化を中心とした生活文化全般、ポップカルチャー、釣りなど。

1.はじめに
(1)北東インド7姉妹州(セブンシスターズ)
(2)旅程

2.ナガランド州
(1)基礎情報
(2)ナガランド州と周辺地域の地図情報
(3)ナガランド州概要 ①ナガの人々 ②言語 
③宗教 ④歴史 ⑤文化 ⑥食 ⑦産業 ⑧観光業 ⑨自然環境 ⑩その他
(4)ナガランドの玄関口 ディマプル
(5)コヒマへの移動
(6)コヒマの宿
(7)戦跡 ①インパール作戦 ②コヒマの戦い
(8)コヒマの地形 ~階段と坂道だらけの街~
(9)キリスト教

(8)コヒマの地形 ~階段と坂道だらけの街~

インドは鉄道王国であるが、ナガランド州では唯一の平地であるディマプルまでしか鉄道は走っていない。地形の大半が山岳地帯か丘陵地帯だからであり、わざわざ無理して鉄道を敷いてもコストに見合わないであろう。そのため、ナガランドにおける交通手段は車両のみとなる。

ディマプルから先、コヒマを経由してマニプール州の州都インパールに至る幹線道路は、山々を縫うように真横に突っ切るように走っている。そして、幹線道路から上下に木の枝のように分岐して道路が分かれている(下図参照)。街が斜面に貼り付くように成り立っており、斜めに分岐した道路はその先が袋小路になっていることが多く、回遊性に乏しい。歩行者が道なりに歩くには不便なため、街中にショートカットの階段が設けられている。

しかし、階段を利用すれば距離的には近いが、標高1400mの高地にある上に、運動不足でメタボ体型の私にとっては階段の上り下りは非常に困難である。街歩きは旅の醍醐味であり、あてもなくブラブラと街を歩き回るのはいつもの旅行では非常に楽しいひと時であるが、コヒマでの街歩きは登山のようにハードな苦行であった。道に迷い目的地になかなか辿り着けず、アップダウンを繰り返した末に力尽きて諦めたこともあった。そのため、街歩きといえば、アップダウンが少なく賑やかな幹線道路沿いを歩いてばかりで、あまり横道に入らなかったのは後から考えると非常に残念なことだった。

ちなみに、このコヒマの街を突っ切る幹線道路は、アジアハイウェイ1号線(AH1)の一部を構成している。アジアハイウェイ(Asian Highway Network)とは、アジア32カ国を横断する全長14.1万kmにわたる幹線道路網で、主に既存の道路網を活用し、現代のシルクロードを目指して計画されているものである。この1号線は、総延長は2万557kmで、アジアハイウェイの中で最も長い路線である。日本の東京(日本橋付近、江戸橋JCT)を起点とし、韓国、北朝鮮、中国、ベトナム、カンボジア、タイ、ミャンマー、インド、バングラデシュ、インド、パキスタン、アフガニスタン、イランを経由してトルコとブルガリアとの国境付近の終点に至る。コヒマの目の前の道が、途中対馬海峡を渡るものの日本橋まで繋がっていることにロマンを感じた。

画像:あまりに雑な道路と階段のイメージ図。文章で説明すると分かりづらいが、図に描くとイメージしやすいかもしれない。

写真:コヒマ郊外の風景。

写真:建物は斜面に貼りつくように建っている。

写真:コヒマを突っ切る幹線道路。その先はディマプル、後ろはインパールに繋がっている。

写真:コヒマを突っ切る幹線道路。斜め上に分岐する道路が見える。

写真:コヒマの街並み。

写真:階段シリーズ①階段の先ははるか彼方。

写真:階段シリーズ②

写真:階段シリーズ③建物と建物の隙間にも階段が。途中、小さな雑貨屋らしき店があった。

写真:階段シリーズ④階段に沿って電線や下水道が走っていることも多い。

写真:階段シリーズ⑤電灯がほとんどなく夜は真っ暗になる階段も多い。

写真:階段シリーズ⑥幹線道路わき、階段の入り口。

コヒマの街は斜面にあるため、階段とともに崖も多い。人通りの多い幹線道路の歩道ですら、片側は崖であることが多々あった。崖の落差は3~4メートル程度のものから、大きいものでは20メートルほど(ビル6~7階程度)あった。落ちたらただではすまない落差でもガードレールが無いところが多く、人とすれ違う際には緊張した。

写真:通行量が多い幹線道路の歩道ですら片側は崖。

写真:眼下は10メートルほどの高さ。

写真:崖下から建つビル2階部分が玄関というお店も多い。

写真:幹線道路から直接建物に入れるよう橋で2階と繋がるケースも多い。

(9)キリスト教
コヒマでは、非常に多くの教会を目にすることができる。コヒマに到着時には、あちこちにそびえ立つ教会に驚いたほどである。下図は、Google Mapにおいてコヒマ中心地で「Church」で検索して出てきたものを抜粋したものであるが、800m四方程度の狭い範囲内に数多くの教会が建っていることが分かる。小さな教会も含めるとその数は更に大きくなると思われる。

ナガランド州では、州人口の約90%がキリスト教徒で、残る10%がヒンドゥー教徒やイスラム教徒といわれている。コヒマ市においては、2011年度国勢調査によるとキリスト教徒が80.22%、ヒンズー教徒が16.09%、イスラム教徒が3.06%、仏教徒が0.45%とのこと。

キリスト教徒は、日曜日は安息日として商店や飲食店のほとんどは閉店、人々は礼拝のため教会に集う。特に州都コヒマは大小様々な教会が各地に点在することもあり、日曜は礼拝のため周辺各地から正装で着飾った人々が自家用車やタクシー、大型バスで集結し、道路は車で大渋滞、街は人々でごった返し大混雑、何かのお祭りのような賑わいぶりだった。特にたくさんの女性がとびっきりのお洒落で思い思いに美しく着飾る様は壮観だったので、写真を撮りたい衝動に一瞬襲われたが、どう見ても不審者、日本の恥なので思い留まった。後日「旅の恥はかき捨て」は良くないものの、礼儀を尽くして駄目元で撮影の許可を求めれば良かったかなと若干の後悔。各教会の前では、信者の方々が旧知の友人知人と同窓会のように立ち話で盛り上がる姿をあちこちで見かけ、なんだか楽しそうな様子が微笑ましかった。

図:コヒマ中心地における主な教会の分布(800m四方)。小さな教会も含めるとその数はさらに多くなる。(出典:Google Map)

写真:コヒマ各地で見られる教会の建物。中心地の幹線道路のロータリーそばに大きな教会が見える。

写真:右端と左手前に教会が見える。

写真:左手前に青い屋根で派手な色をした教会の建物が見える。

写真:街中にもビルに溶け込む形で教会が散見される。

コヒマを散策すると、そこかしこに教会を目にするが、その中でも群を抜いて大きく目立つのが、カテドラル(大聖堂)。インド北東部で最大の教会建物らしい。

この大聖堂は、戦争犠牲者の鎮魂のため各国からの資金援助(90%が海外から)で建てられた。庭には数本の桜の木が植えられているらしいが、戦死者の慰霊のために日本からはるばる運ばれてきたとのこと。

ナガのキリスト教徒の大半がプロテスタント(バプテスト派)であるが、ここは珍しくカトリックの建物。屋根の形がモロン(ナガの未婚男性の集会所兼宿泊所、日本にもかつてあった「若者宿」のようなもの)を模したナガの伝統建築様式を取り入れた極めてユニークな建物とのこと。バチカンから神父が派遣されているが、教育に力を注いでいて信者から尊敬を集めているらしい。

コヒマの街中でも特に高い所に立地しており、空気が薄い上に、宿から徒歩で1時間余りかかり最後の階段でヘロヘロに。まるで登山のようなキツさだった。やっとの思いで到着したら14時過ぎ。16時過ぎには日没となるコヒマでは間もなく夕方、しかも日曜の夕方ということで、人影はまばらだった。

写真:大聖堂の建物。モロンを模したナガの伝統建築様式を取り入れている。

参考画像:かつてモロンとして使われた建物、今は雑貨屋か?(コノーマ村にて撮影)

写真:大聖堂内部。巨大なキリスト像と宗教画が見られる。正面上のステンドグラスとドームを支える鉄骨製の柱が美しかった。

写真:入り口側壁面のステンドグラス。

写真:日曜夕方近くのため、人影はまばら。まさに言葉通り「がらんどう」

写真:正面玄関頭上のキリストを抱えるマリア像

写真:大聖堂からの眺め。コヒマの街を一望できる。

 

関連記事

おすすめ記事

  1. メコン圏と大東亜戦争関連書籍 第8回「神本利男とマレーのハリマオ マレーシアに独立の種をまいた日本人」(土生良樹 著)

    メコン圏と大東亜戦争関連書籍 第8回「神本利男とマレーのハリマオ マレーシアに独立の種をまいた日本人…
  2. メコン圏の写真集・旅紀行・エッセイ 第31回「メコン川物語 ー かわりゆくインドシナから ー 」(川口 敏彦 著)

    メコン圏の写真集・旅紀行・エッセイ 第31回「メコン川物語 ー かわりゆくインドシナから ー 」(川…
  3. メコン圏が登場するコミック 第23回「密林少年 ~Jungle Boy ~」(著者:深谷 陽)

    メコン圏が登場するコミック 第23回「密林少年 ~Jungle Boy ~」 (著者:深谷 陽) …
  4. メコン圏関連の趣味実用・カルチャー書 第10回「ベトナム雑貨と暮らす Vietnamese Style」(石井 良佳 著)

    メコン圏関連の趣味実用・カルチャー書 第10回「ベトナム雑貨と暮らすVietnamese Style…
  5. メコン圏を舞台とする小説 第50回「バンコク喪服支店」(深田祐介 著)

    メコン圏を舞台とする小説 第50回「バンコク喪服支店」(深田祐介 著) 「バンコク喪服支店」(…
  6. メコン圏現地作家による文学 第16回「田舎の教師」(カムマーン・コンカイ 著、冨田竹二郎 訳)

    メコン圏現地作家による文学 第16回「田舎の教師」(カムマーン・コンカイ 著、冨田 竹二郎 訳) …
  7. メコン圏を描く海外翻訳小説 第18回「ヴェトナム戦場の殺人」(ディヴィッド・K・ハーフォード 著、松本剛史 訳)

    メコン圏を描く海外翻訳小説 第18回「ヴェトナム戦場の殺人」(ディヴィッド・K・ハーフォード 著、松…
  8. メコン圏題材のノンフィクション・ルポルタージュ 第31回 「アキラの地雷博物館とこどもたち」(アキ・ラー 編著)

    メコン圏題材のノンフィクション・ルポルタージュ 第31回 「アキラの地雷博物館とこどもたち」(アキ・…
  9. メコン圏対象の調査研究書 第29回「日本をめざしたベトナムの英雄と皇子 ー ファン・ボイ・チャウとクオン・デ」(白石昌也 著)

    メコン圏対象の調査研究書 第29回「日本をめざしたベトナムの英雄と皇子 ー ファン・ボイ・チャウとク…
ページ上部へ戻る