調査探求記「ひょうたん笛の”古調”を追い求めて」③(伊藤悟)

「ひょうたん笛の”古調”を追い求めて」③(伊藤悟)第3章

 “古調”、僕がこの曲を聴いたのが東南アジアにこだわるようになったきっかけだったた。今から4年前、1998年2月、1年間の予定で雲南省昆明市の雲南大学に留学した。

 着たばかりのある春の夜、僕は同室のQDさんたちに誘われて大学近くの“飲み屋”に行った。なんという偶然だろう、そこでタイヌア族のエン先生が吹く“古調”を聴いてしまった。低音と高音の持続音(ドローン)と循環呼吸法という特別な技術を用いた、ゆっくりとしていて、威厳がある旋律、そしてあたりの“隙間”という隙間を満たしていく音色に体の芯から感動した。

写真: 僕の先生

僕はいくつかの衝撃的な出会いから、休学届を出していた日本の大学に退学届を出すことにした。毎日、同室のQDさんに迷惑をかけながら笛を練習した。早くこの曲が吹けるように先生が教えてくれる基本をみっちり練習した。その年の秋に入り、一緒に笛を習っていたFTさんは日本に帰国し、先生はそれまでの狭い部屋から台所もあるような部屋を借りて住むことになった。僕を取り巻く環境も変わっていく。

その頃から、先生が酒に酔っ払った隙を見計らって、この“古調”という曲を吹いてもらい、部屋に帰って真似する、こんな練習を続けた。その頃はただその曲が吹きたかった。この笛が、この曲が民族の文化と生活に深く関わっていると真剣に考えもしなかった。

ある日、先生は僕が“古調”を吹こうとするのを見て、“古調”はなにもひょうたん笛だけで奏でる曲じゃないことを教えてくれた。そして、歌って聴かせてくれた。笛で吹く曲の一句一句には意味が込められていることを説明してくれた。あの時、初めて音楽と生活が深く結びついているのじゃないかと思いを巡らせた。休みの合間を縫って、時には学校をサボって、少数民族の村々をまわりはじめていた。人に会い、生活に触れ、そして音楽を知る。

10,11月と雲南芸術学院の教授について、雲南省辺境地帯の少数民族音楽を聴く機会を得た。この2ヶ月間にタイ族だけでなく他の民族が吹くひょうたん笛にも出会った。そして、ある日、教授と僕はひょうたん笛のエン先生の故郷にたどりついたのだった。

(C)伊藤 悟 2002 All rights reserved. 

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