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コラム(江口久雄さん)「メコン仙人だより」第9話 「鳥たちの大祭」
- 2000/10/10
- コラム(江口久雄さん)「メコン仙人だより」, 企画特集
- 江口久雄
ビルマのカチン族(雲南のジンポー族)のマナウ祭起源伝説と鳥たちの祭り
コラム(江口久雄さん)「メコン仙人だより」 第9話 「鳥たちの大祭」
カ・ブンドゥムの踊りをともなう、カチン(ジンポー)族の葬式が、『古事記』に見えるアメワカヒコの葬祭にたいへん良く似ていることを話しましたが、カチン族の葬式には鳥たちは登場しません。鳥たちについて考えて見ましょう。
アメワカヒコの葬祭での鳥たちの役割分担は次のとおりです。
ガン=死人の食物を持つ役
サギ=箒を持つ役
カワセミ=料理人
スズメ=臼をつく女
キジ=泣く女
現代の常識から考えれば、たぶんこれらの鳥の扮装をした人たちがそれぞれの役をやったのだろうと思いたいところです。またやや文化人類学オタクの人ならば、いろいろな種類の鳥はトーテムかも知れないと考えるかもしれませんね。しかし、敢えて常識を捨てて、本当にこれらの鳥たちがやったのだと考えてみてはどうでしょうか。
ニンゲンたちが行うカチン族の葬式にどうして鳥たちが登場しないのか、その秘密を解くカギはこの点にあるようですが。ギルホーズが記録したカチン族の葬式はニンゲンたちがやったものなのです。それに対して『古事記』に遺されたアメワカヒコの葬祭の記録?では、鳥たちがまるで葬儀一式請負いそうろう、という感じで一緒に参加しています。鳥たちは言ってみればイベント屋のチームとしてニンゲンの葬式に入っているのです。
ところで、カチン(ジンポー)族の大祭に、陰暦1月15日のマナウ祭というのがあります。奇しくも日本の小正月と同じ日に催されるこの祭りでは、龍の長衣をつけた四人の先導者にジンポー刀を帯びた男と女の踊りの列が勢ぞろい。龍の長衣というのは遠い昔の中国人からの贈り物だといわれます。この四人の先導者が踊り始めると、男たちは刀を抜いてふりまわし、女たちは手巾をひらひらさせて踊りの列が動き出すのです。
このマナウ祭の起源を説いた伝説が『景頗族民間故事』に見えます。それによれば、マナウ祭はもともと太陽の子供たちの踊りで、ある日、太陽のお爺さんは鳥の代表としてスズメを祭りに招きました。このスズメが地上に帰ってから、鳥たちを集めて地上最初のマナウ祭を行ったといわれています。この鳥たちのマナウ祭では14種の鳥たちが、14の役割をこなしていますが、主な役割をピックアップすると次のようになります。
エンギペイル雀=ご飯を炊く役
パンヤンツォン鳥=酒を醸す役
エンメイマトゥン鳥=米をつく役
ポツォチャウー鳥=掃除をする役
どうです。ご飯を炊く役と料理人のカワセミ、米をつく役と臼をつく女のスズメ、掃除をする役と箒を持つ役のサギがほぼ一致していませんか。
残念なことに鳥の名前が中国語なまりのジンポー語なので、何の鳥なのかわかりません。『景頗民間故事』では、先のカ・ブンドゥムの踊りの「ブンドゥム」を漢字で「崩冬(ポントゥン)」と音訳していることから、上にあげた鳥たちの名前も実際のジンポー語の発音とはかなりのへだたりが予想されます。それに私メはけっこうヒマ人なのですが、カチン(ジンポー)語までは手がまわりません。上にあげた鳥たちが実際にどの鳥に該当するのかについては、われらがメコン圏のカチン(ジンポー)語通の手助けを借りなければ解けないのです。どなたか手助けを...。
マナウ祭はもともと太陽の子供たちの祭りで、アメワカヒコとは「天若日子」と解釈すればまさに「太陽の子供」になります。陽気な葬式を追ってみれば、次々に未知の扉が現れてきますね。 〈2000年10月号掲載〉