メコン圏が登場するコミック 第24回「タイのひとびと」(著者: 小林眞理子)


「タイのひとびと」 (著者:小林 眞理子、発行:ワニブックス<クランチコミックス>、2022年11月発行》

小林 眞理子(Mariko Kobayashi) <本書掲載より。本書発行当時>
隙あらばタイにいきたい 漫画家/イラストレーター。TwitterなどSNSでタイでの楽しい日常漫画を発信中。本書が初の単行本となる。

本書は、イラストレーターで漫画家の著者が、SNSで2020年3月~6月発表された作品に、単行本のための描き下ろし漫画もを加え加筆・修正し編集したもので、2022年11月に、ワニブックスのクランチコミックスとして刊行されたコミックエッセイの単行本。著者のTwitterなどSNSでタイでの楽しい日常漫画を発信していたものが、人気を呼び、出版社ワニブックスが運営するWEBマガジン「WANI BOOKS News Crunch(ニュースクランチ)」2022年3月~4月で、「タイの日常」として連載。本書が、タイでの楽しい日常とタイの人々との出会いを描いた漫画が、SNSで話題となっている漫画家・小林眞理子の初コミックエッセイであり、著者の初の単行本。

本書あとがきでは、著者が漫画を描いてSNSで発表してきた経緯が説明されている。それによると、この本に収録されている漫画は、主に著者がSNSで発表したもの。イラストレーターをしていた著者は、アイパッドを手にノマドワークのスタイルでタイ各地で過ごし、日本に帰って来た時にタイで起きた面白い話を友達に話しても、なかなか伝わりにくいモノがあり、漫画にしたら、現場の背景も、タイのひとたちのあたたかさも、絵にして伝えられると考え、ツィッターでフォローしあってる、たった数人の友達に向けて描き始めたことがきっかけとのこと。もちろん、1人でも多くの人に、タイの良さ、東南アジアへ興味が広がってほしいという思いもあったが、それが注目され、2020年にSNSで発表して2年後の2022年には、出版社ワニブックスが運営するWEBマガジンで連載され、更に同年にワニブックスから単行本として刊行に至る。

全27話の漫画が収録されているが、各話がそれぞれ独立したショートストーリーで、気軽に読みやすい。全27話の最初の話のタイトルも「ちょっとそこのタイまで」とあるように、全編各話が、ゆるく気張らず気楽な感じで、あたたかく微笑ましいし、ストーリーも漫画の絵も楽しめる。有名な観光地が舞台となるわけでもなく、主にバンコクの普段の街での日常の光景が描かれ、そこで見かける路上での情景や、出会うタイの普通のひとたちが描かれ、何かドラマチックなストーリーでもないし、ヒーローやヒロイン、あるいは悪人といった特徴的な人物が登場するわけでもなく、いたって、ありきたりのタイの日常的なシーンや人々ばかり。それが、何とも言えない、心地よく楽しいタイの日常の魅力が全編各話にあふれている。

タイの街の日常を感じれる場所として、まず、屋台文化のタイだけに、路上の屋台があるが、加えて、街のローカル食堂も、気取らずにタイの日常が感じられる場所で、第2話の「よく行く外の食堂」、第3話の「地上最強の生物みたいな注文」、第7話の「入りづらい食堂」などに登場。タイ語でしか記載がなく読めないメニューでの注文とか、言葉が通じず外国人慣れしていない店員たちとのやり取りと交流が不便ながらも楽しさがあり、第5話の「街角のザクロジュース」での屋台のザクロジュース売りの少年とか、第16話の「乗るタイプのマッサージ」でのタイマッサージ店でのマッサージのおばちゃんたちとのちょっとしたコミュニケーションが、なんか幸せな気分になったり、ほのぼのした気分になったりするから不思議だ。ローカルな場所での飲食以外に、ローカルな移動交通手段も、外国人旅行者や生活者が身近な話題で、第9話の「バイタクの話」でバイクタクシーでの面白いエピソードを取り上げている。

街の日常で見かける、日本とは違う価値観での「とんでもなさ」が、また、病みつきになる魅力の一つだし、面白い話として友人に話したくなる話題だろう。第4話の「スリリングな仕事」では、安全第一な日本では絶対に味わえないスリルがタイにはあり、タイのガテン系の人々のスリリングな仕事の様子が描かれているし、第6話の「蚊を避ける方法」や、第8話の「タイ北部の山の中での話」、第10話の「普通とは何か」などは、価値観の転換を強いられるような分類の話。タイ人の優しさが充分に感じられる話は、第11話の「タイ人の優しさ」、第12話の「タイ人の優しさ~翌日~」。タイと日本との感覚の違いについては、第22話の「タイのカンカク」という話の中でも、4回にわたって紹介。第23話の「タイの島」は、話の雰囲気が変わり、その意外な感じもなかなか良いかなと思ったら、第24話の続編「タイの島~2年ぶり~」では、やはりタイらしい、今までと同じような意外な面白さの話。この第24話では、2020年以降のコロナの影響を受けているタイの島の話になっている。第25話の「パイティアオパイパイ」では、2022年2月のロシアによるウクライナ侵攻の影響にも話が及んでいる。

著者のタイを好きになるツボも面白い。タイの街角で見かけるザクロジュースの屋台で、全部人力だけで一杯のザクロジュースの為に大量のザクロを使って作っていたて大変な手仕事ぶりを知り、最高の手仕事な屋台のジュースと感動する様子とか、ルンピニー公園を、のっしのっし歩くオオトカゲをはじめ、いろんな動物が、飼育されてる感じでなく、増えすぎた野良ネコ的な感じで、いっぱいいる様子に、”最ッ高に楽しいなココ!!  ”と、テンション高めに叫んでしまう様子とか、街中のドブの排水を飲んでいるミズオオトカゲを見て、”見た目にはびっくりさせられるが、大人しく、しょーもない愛すべき生き物である”と愛でる様子は、なかなかユニーク。

タイに住んでいたり、良く旅している人にとっては、タイあるあると、うなずいてしまう話が満載だが、第15話のマイケルジャクソンも1993年に公演した「スパチャラサイ国立競技場」のエピソードだけは、ここまでのことはさすがに普通では起こらないだろうと思える話ではあったが、タイの人たちが、ただ誰も細かいことを気にしていなかったという、あたりの話は、タイあるあると、思わず微笑んでしまう。他にも、チャトゥチャックの安モノボクサーパンツとか、第19話の「人生経験と雨宿り」でのナナプラザの話なども面白いが、描かれるスコールの凄さもタイらしい。驚きは、第20話の「コリコリとグリグリ」で、タイトル名から何の話かと思ったら、睾丸マッサージの話で、女性の著者は、読者からの体験談を追加で紹介するという新しいスタイルの漫画で対応。ヒップホップミュージシャンのYOU THE ROCK★がバンコクの屋台に現れたり、櫻〇翔と分かる人物のコメントや、お笑い芸人の千鳥の大悟が、テレビで激辛料理を食べていた時の表現の引用なども、新しいスタイルの漫画に思えた。

日本のハトと、バンコクのナナ・アソークのハトの違いなどの小ネタも観察が面白いし、チャトゥチャックのウィークエンドマーケットを日本のコミケ会場に見立てる著者のカンカクも面白い。本書で描いているが、雑多なバンコクの町並みに、真っ赤なスーツを着ているエアアジアのCAのお姉さんが、テイクアウトの食事をビニール袋に持ちながら、屋台で、スマホ見ながら、麺類を食べようとしている情景が、バンコクの街の日常的な風景の一つとして、秀逸と感心もした。細かいことでは、2019年に延長開通したMRT(Mass Rapid Transit)のブルーラインのイサラパープ駅周辺に著者が滞在していたのか、この駅や駅近くの描写にも目が留まった。

CONTENTS
ちょっとそこのタイまで
よく行く外の食堂
地上最強の生物みたいな注文
スリリングな仕事
街角のザクロジュース
蚊を避ける方法
入りづらい食堂
タイ北部の山の中での話
バイタクの話
普通とは何か
タイ人の優しさ
タイ人の優しさ ~翌日~
ルンピニー公園のオオトカゲ
タイの洗濯屋さん
スパチャラサイ国立競技場
乗るタイプのマッサージ
チャトゥチャック初体験の思い出
チャトゥチャックのパンツ
人生経験と雨宿り
コリコリとグリグリ
タイの占い
タイのカンカク
タイの島
タイの島 ~2年ぶり~
パイティアオパイパイ
タイの曜日占い
タイのありがたい虫
あとがき

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