メコン圏が登場するコミック 第23回「密林少年 ~Jungle Boy ~」(著者:深谷 陽)

メコン圏が登場するコミック 第23回「密林少年 ~Jungle Boy ~」 (著者:深谷 陽)


「密林少年 ~Jungle Boy~ ❶」 (著者:深谷陽、原作:『アキラの地雷博物館とこどもたち』アキ・ラー編著、発行:集英社<ヤングジャンプ・コミックス・BJ>、2006年11月発行)(*「ビジネスジャンプ」平成18年(2006年)13号~20号に好評連載されたものを収録)

「密林少年 ~Jungle Boy~ ➋」 (著者:深谷陽、原作:『アキラの地雷博物館とこどもたち』アキ・ラー編著、発行:集英社<ヤングジャンプ・コミックス・BJ>、2007年3月発行)(*「ビジネスジャンプ」平成18年(2006年)22号~平成19年(2007年)5号に好評連載されたものを収録)

●<著者紹介>
深谷 陽(ふかや・ あきら)<発行掲載時、本書紹介より>
1967年8月12日生まれ。舞台大道具、特殊メイクスタッフ等を経て、1994年秋「神様の島のある食卓」が、ちばてつや賞一般部門入賞。「踊る島の昼と夜」、「運び屋ケン」、「P.I.P. ~プリズナー・イン・プノンペン」、「艶捕物囃~唐紅花の章~」、「スパイシー・カフェガール」など、著者多数。

●<この物語の主人公>
アキ・ラー  Aki Ra(通称 アキラ)<発行掲載時、本書紹介より>
カンボジア人。5歳でポル・ポト軍に父母を殺され、20歳までポル・ポト軍、ベトナム軍、カンボジア軍で少年兵として戦い、地雷を埋めた。20歳の時、国連軍で地雷処理を始める。村人に頼まれて地雷や不発弾処理に無料で出かけるディマイナー(地雷掃除人)。26歳(1999年)で自宅兼「地雷博物館」を公開。どこからも援助なしに見学客の寄付で運営している。「地雷の危険性と戦争の悲惨さを伝えたい」と自分で掘った地雷や不発弾を展示し、戦争孤児や地雷被害の子供たちを養育している。今までに処理した地雷は「2~3万個」。

本作品「密林少年 ~Jungle Boy~」は、漫画家・深谷 陽(ふかや・あきら)氏が、「アキラの地雷博物館とこどもたち」(アキ・ラー編著、三省堂、2005年9月)の原作本をもとに、脚色・構成したドキュメントコミックで、2巻完結。1巻は2006年11月、2巻は2007年3月に、集英社<ヤングジャンプ・コミックス・BJ>として発行。初出は、「ビジネスジャンプ」平成18年(2006年)13号~20号・22号~平成19年(2007年)5号に連載と、原作発行の翌年にはコミック化されている。本書の原作は、カンボジア・シェムレアップにある「アキラの地雷博物館」館長、アキラー氏の数奇な少年時代と、その後の活動、および地雷博物館のこどもたちの声を1冊にまとめたものだが、本作品は、原作の主要な部分である「パート1 マイ・ストーリー(アキラの物語)」がベース。原作本も、書かれている内容は、非常に想像を絶するような壮絶な体験からの話ながら、子供たちにも分かりやすく読んでもらうためにか、漢字のフリガナも多く、文章も非常に読みやすい文体構成となっていたが、本書のコミック版は、原作にかなり忠実な内容で、更に漫画化により、よりインパクトある劇的な形で、更に理解しやすく読みやすくなっている。

原作の編著者で、本作品の物語の実在の主人公は、1973年ころ、カンボジアのシェムレアップ郊外で生まれたカンボジア人男性。生まれた年も良くわかならないが、1973年ころだそうで、本名、アキ・ラー(通称アキラ)とはいうものの、自分の本名は不明で、各々の時代に合わせて各々の名前があり、アキラという名は、観光ガイドをしていた時につけてもらったクメール名「アキ・ラ」が日本名としても通じるのでそのまま使ってきたとのこと。赤ん坊のころに家族と離されて、5歳でポル・ポト軍に両親を殺されたあと、少年兵としてカンボジア内戦時代を、10歳頃の1983年から20歳頃の1993年までの10年間を、1985年まではポル・ポト軍、1989年まではベトナム軍、1993年まではカンボジア軍と、3つの軍隊で戦い、膨大な数の地雷を埋めてきたが、20歳頃の1993年、UNTAC(国連軍)に雇われて地雷処理を始める。1997年以降は1人で自主的に地雷処理をおこない、1999年にアンコールワットの近くに自宅を兼ねた「アキラの地雷博物館」をオープンし、自分で掘った地雷や不発弾を展示するとともに、戦争孤児や地雷被害児を養育する活動を続けている。

本書の著者で、漫画家の深谷 陽 氏は、1967年生まれで、福島県石川郡石川町出身。元特殊メイクアーティストの経歴を持つ漫画家。1994年、講談社の漫画新人賞「ちばてつや賞・一般部門」(第26回)で、「神様の島の愛ある食卓」が入選し漫画家デビュー。以降、デビュー作をはじめ、は、インドネシア・バリ島の著者自身の旅行体験をベースとしたデビュー作品の単行本『アキオ紀行バリ』(1995年12月刊行、講談社モーニングKC-444単行本)の続編『アキオ無宿ベトナム』(1996年刊行)など、数多くのアジアを舞台とした作品多く、カンボジアを舞台とした原作本のコミック化も「P.I.P. ~プリズナー・イン・プノンペン」で手掛けていて、アジア漫画の作風も多様。アジア漫画の漫画家としても有名ながら、アジア漫画に限らず、歴史時代物なども数多く手がけている。本作品の冒頭で漫画でも描かれているが、2004年、深谷陽氏がカンボジアのシェムレアップで、偶然に、アキラの地雷博物館を知ったことが最初のきっかけ。

本書のタイトルは、「密林少年 ~Jungle Boy~」となっているが、本作品の主人公アキラーは、赤ん坊のころに家族と離されて、5歳でポル・ポト軍に両親を殺されたあと、少年兵としてカンボジア内戦時代を、10歳頃の1983年から20歳頃の1993年までの10年間を、ポル・ポト軍、ベトナム軍、カンボジア軍と、3つの軍隊で、戦い続け、20歳の1993年、UNTAC(国連軍)に雇われて地雷処理に関わるが、その時に初めてシェムリアップの町に出てくるまで、ずっとジャングルの中で過ごし、文字通り、密林少年(jungle Boy)だったわけで、上巻の1巻は、全編、カンボジアのジャングルの中の話。冒頭のカラー頁の”あの頃 ージャングルがー 世界のすべてだった”という文章に始まる漫画は、1983年のカンボジア北部の密林が描かれ、下巻の2巻の最初の第11話「一筋の光」の最後で、「アキラは生まれて初めて”街”を見た」というシーンで飾っている。

本書の第1巻(第1話~第8話)は、本作品の主人公アキラーが、カンボジアのシェムレアップ郊外で生まれ、ポル・ポト軍支配下で、赤ん坊のころに家族と離され、「こどもグループ」で育てられ、5歳でポル・ポト軍に両親を殺されたあと、少年兵として、10歳頃の1983年から1985年まではポル・ポト軍、16歳頃の1989年まではベトナム軍の下で戦った時期を描いていて、そのうち、第3話の途中から第8話までは、13歳の1986年にベトナム軍につかまり、ベトナム軍の下で、今度は、ポル・ポト軍と戦うベトナム軍での戦いと生活の話。人づてに聞いたポル・ポト軍に父母が言いがかりの理由で殺された時のことや、バナナを盗んだ村人がポル・ポト兵による見せしめの処刑として、家族の目の前で村人の内臓を抉り出し、家族に笑いや拍手を強要する残酷な場面など、またベトナム軍の下での話として、ベトナム兵がカンボジア農民の家畜の牛の近くに地雷を仕掛けて、牛肉をせしめる話や、カンボジアの少年たちがベトナム軍にとっての人間地雷探知機にさせられる話など、原作の話を忠実に漫画で再現している。

残酷で悲惨な状態ではあるものの、主人公の少年が非常に元気で逞しく弱音をはいていない姿には驚かされるが、原作にはない脚色も本書には何点か見受けられ、ポル・ポト軍で少年兵として戦っていた時の同年齢に近い、カンボジア少女兵のナナの存在や、ベトナム軍キャンプに同行しているカンボジア人の大人の女性のソレットの存在は、原作には登場していなかった話。原作に書かれている、1988年、ベトナム軍兵士の一人として、シェムレアップから約50キロ北にある、軍事上の要所クチンという小さな町に配属されていた時に、夜間、パトロール隊が出かけた時に、ポル・ポト軍の奇襲に遭い、部隊がほぼ全滅し、アキラー氏は、命からがら逃げきった「パトロール隊」という話が、本書では、第5話「スパイ疑惑」、第6話「密通」として脚色構成されている。また、第8話「年上の部下」という話も原作には記されていなかった話。第7話「触れ合い」は、村人や子供たちとの交流や、ベトナム軍での主人公と、ポル・ポト兵士たちとのカンボジア人同士の交流のシーンも描かれている。

本書の第2巻(第9話~第15話+最終話)は、本作品の主人公アキラー氏が、1989年にベトナム軍が撤退し、1993年まではカンボジア政府軍の兵士として、ポル・ポト軍の残党と戦いを続けるところから始まる、カンボジア政府軍の下では、幼い子供たちに交じり、初めて学校に学ぶことが出来た様子が原作通り、微笑ましく描かれるものの、戦争は継続していて、原作に記されたポルポト軍による「対戦車地雷」や「奇襲」の攻撃による甚大な被害で、ポル・ポト軍の執拗な攻撃に悩まされる。が、カンボジア和平への動きが進み、UNTAC(国連軍)がカンボジアに来る頃から、「第11話 一筋の光」が差し込み、本作品の主人公アキラー氏も、軍隊での兵士生活を離れ、UNTAC(国連軍)に雇われて地雷処理を始める。そして、「第13話 決心」では、1997年以降は1人で自主的に地雷処理をおこない、アンコールワットの近くに自宅を兼ねた「アキラの地雷博物館」を作ることを決意する。周囲の冷ややかな視線が多い中、1999年に「アキラの地雷博物館」をオープンさせ、自分で掘った地雷や不発弾を展示するとともに、戦争孤児や地雷被害児を養育する活動を続けていく意思の強さや人間的な優しさに感動するが、同時に、本作品の主人公アキラー氏の早くに戦争孤児になり、ずっとジャングルで少年兵として過ごしてきた若い頃の生涯を思うと、活動を賛同し支えてくれる暖かい自身の家庭も育んでいる様子に救われる。

原作では、「パート1 マイ・ストーリー(アキラの物語)」の終盤に記されている「生きること、死ぬこと」と題した文章の意味するところが、本書の第2巻の終盤に凝縮している。尚、本作品では、政情や国際情勢の変化などの解説や、地雷の種類についてのまとめた説明だけでなく、更に、「アキラさんを良く知る人達が語るスペシャルコラム」として、原作「アキラの地雷博物館とこどもたち」担当編集者(三省堂編集部・阿部正子 氏)、「NGOアキラの地雷博物館サポートセンター」の松川朝洋 氏、カメラマンの野老(ところ)康広 氏の3人の日本人の声も、特別ページとして、文章で掲載されている。

  • 目次
    「密林少年 ~Jungle Boy~ ❶
    第1話 古い記憶
    第2話 髭と牙の巨人
    第3話 出動命令、そして・・・
    第4話 綱引き
    第5話 スパイ疑惑
    第6話 密通
    第7話 触れ合い
    第8話 年上の部下
    「密林少年 ~Jungle Boy~ ➋
    第9話 黒い5人組
    第10話 真実
    第11話 一筋の光
    第12話 空を飛んだ日
    第13話 決心
    第14話 再会
    第15話 因縁
    最終話 友達

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