「シャン州東部(チェントン・モンラー)旅行記」(森 博行さん)第5編「チェントゥン郊外の山岳民族」

シャン州東部(チェントン・モンラー)旅行記」(森 博行さん)
第5編 チェントゥン郊外の山岳民族

森 博行:
京都府京都市在住(寄稿時)。ビルマ(現ミャンマー)シャン州を訪れる(2002年4月)。「消え去った世界 ~あるシャン藩王女の個人史」(ネル・アダムス著、森 博行 訳、文芸社、2002年8月発行)訳者

第1編:チェントゥン到着までの途
第2編:チェントゥン到着初日
第3編:チェントゥンの市場
第4編:博物館と寺院
第5編:チェントゥン郊外の山岳民族
第6編:中国国境の町モンラーへの道
第7編:モンラーの町と中国とのかかわり
第8編:モンラーからタチレークを経てタイへ出国

 (2002年)4月25日、一日車を雇って(12000チャット、約1900円)、ガイドと一緒に近郊の山地民を訪ねる。チェントゥンを北に出て、約30分ほど農村地帯を走ってから山にかかる。キリスト教徒化した村を過ぎ、アカ族の集落で車を降りる。この村は水田を持って定住し、子供は学校に通っている。アカ族の住居は出入り口が二箇所あり、男と女で生活空間が別れている。ガイドは住民と知り合いで、勝手に家に上がりこむ。
写真:チェントゥン郊外

写真:登り口のアカ族の村

歩いて山道を登る。途中、渓流のある場所で休んでいると、アカ族の猟師が通りかかる。筒先から弾を込める銃で、火薬と数種類の大きさの鉛弾を持っている。撃鉄のところに煙硝(子供のころ駄菓子屋に置いてあった)を装着して発火させる。射程は数十メートルぐらいらしい。そこに山から下りて来たエン族の男が通りかかる。色黒のモン・クメール系種族で半裸だが、みんな顔見知りらしい。共通語はシャン語。
写真:エン族の村

30分ほど山道を登って、木々の間にエン族の村が見えて来る。木々をはらった赤土の斜面に高床の住居が並ぶ。床下に木材が多く蓄えられているのは、雨季(5月から9月)に入ると焚き木を切りに行けないから。隣の山の低い位置に、別のアカ族の村が見える。エン族の村に入ると犬が多く、老婦人と小さな子供だけの(成人は昼間、山に出ている)家に上がると、縁台に犬も一緒に上がっている。隅に機織機がある。老婦人が落花生とお茶(薄いウーロン茶)を出してくれる。日蔭になった縁台から眺める山の斜面と木々の緑、遠くの重なる山並みは絶景。下りになった山道を15分ぐらい歩いて、上から見えたアカ族の村に。途中、エン族の子供が蝉獲りをしている。この村のアカ族は未だ焼畑をしている様子。子供の数が多い。
写真:エン族の子供

写真:別のアカ族の村

急な山道を下ると、滝がある。今は乾季の終わりで水量が少ない時期。滝から先は平坦な道で、売店が一軒あり、中国製のビール、タイ製の清涼飲料を置いている。店の裏で果樹園を作っていて、スプリンクラーのような仕掛けで水を撒いている。数分で、登り口のアカ族の村が耕作している水田に出る。滝からはすぐの場所だった。
 写真:滝

昼食はチェントゥンに戻る道の途中の、シャン(タイ・クーン)の村で。道路の両側に並ぶ家はどれも結構立派な造り。ここでも麺を食べる。タイとの違いは、テーブルに魚醤ではなく醤油が置いてあること。店のおばちゃんの話では、明日が満月でモンラーの町ではポイ(祭り)があり、若い者はモンラーに行っているとのこと。
写真:タイ・クーンの村
  
写真:パラウン族の村

午後はパラウン族の村。平地定住、水稲、シャン文字使用とのことで、いったい何がシャンと違うのかと思うが。ここの子供たちが町に住めば、一市民だろう。ガイドの彼に、ここの若い世代がチェントゥンの町に住んで市民生活をすればシャン人と呼ぶかと尋ねてみる。それは違うという返事だが。

温泉に向かって移動する。途中の村は中国風の墓地を持っている。タイ・ヌァの村だと言う。温泉は熱湯に近く、周りの売店では温泉卵を売っている。源泉を水路で冷まして個室に導き、入浴させる施設がある。硫黄の匂いはするが薄い。個室の温泉に入ってみたが、タオルを持って行く必要あり。
写真:温泉
   
帰り道、ガイドの親戚が居るという村の西瓜畑に寄って西瓜を食べる。甘くて美味しい。畑の先にチェントゥンの町が見える。村の僧院に居住しているガイドの従弟の僧がやって来て少し話す。英語で話す機会がないそうで、勉強するにはどこへ行けば良いか考えているようだった。ヤンゴンにもシャンの寺院があって一年ちょっと居たようだが。チェンマイにはシャンの寺院があるし、チェンマイ大学なら英語もできるんじゃないかと言ってみても、どうもここの人々はこちらが想像するほどタイ王国に期待していない。現実には、TVではタイの放送を見ているし、タイの日用品が出回り、バーツが流通していてもだ。確かにタイ人化する気になってそれが可能ならば見方が違うかも知れないが、タイ王国でシャン人と言えば不利があるし、ここに戻って来るつもりなら、ビルマ語を忘れるわけにはいかないし。
写真:西瓜畑

 (C)森博行 2002 All rights reserved.  

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