メコン圏が登場するコミック 第16回「ゴルゴ13・ペガサス計画」(さいとう・たかを 著)

メコン圏が登場するコミック 第16回「ゴルゴ13・ペガサス計画」(さいとう・たかを 著)


「ゴルゴ13 ペガサス計画」(【SPコミックス・シリーズ16「九竜の餓狼」】、著者:さいとう・たかを、リイド社)⇒さいとう・プロ公式サイト 

本作品『ペガサス計画』は、世界をまたにかけて活躍する狙撃のプロフェッショナル、ゴルゴ13(サーティーン)のSPコミックシリーズ第16巻「九竜の餓鬼」(計3作品収納)に収められている1972年12月作品。ベトナム戦争中に書かれた作品で、作品の舞台もベトナム戦争下の北ベトナムと南ベトナムになっている。北ベトナム上空で米軍機が撃墜され、米軍の極秘情報を握る米軍少佐が生き残り、北ベトナム領内の堅固な要塞に幽閉されたということで、この米軍少佐の口封じを、ゴルゴ13は、CIAより依頼される。

 米軍の戦略爆撃機による北ベトナム領内への爆撃(北爆)の前日に、人工降雨によって北ベトナムの地対空ミサイルレーダーの作動妨害を目的とした米軍輸送機が、北ベトナム上空にて北ベトナムの地対空ミサイルによって撃墜された。そのパラシュートで脱出した生き残りの搭乗員が、米軍のクレティス・H・リッチモンド少佐だった。この少佐は、ICBM(大陸間弾道弾)の最新の迎撃システムという重要な軍事計画の起案者のひとりであったが、たまたま実戦部隊に加わってミサイル探知に関する自分の理論の裏付けを試みようとして米軍輸送機に搭乗していた。

 偵察衛星の探知したところによると降下したクレティス・H・リッチモンド少佐は、北ベトナム国境の僧院に幽閉されていると判明し、捕われて以来、昏睡状態を続けていたらしいが、拷問、洗脳にあって重要な軍事計画が敵側に漏れることを恐れたアメリカ政府は、少佐救出、状況によっては僧院を攻撃し少佐の生命を絶つという指令が米陸軍特殊部隊(グリーンベレー)が下され、ペガサス作戦が4度にわたり計画されたが、いずれも失敗に終わり、是が非でも、このペガサス作戦を遂行しなければならない、とあらゆる可能性を検討したCIA本部は、職業的テロリスト、ゴルゴ13に賭ける。CIAの依頼を受けて「ペガサス計画G」としてゴルゴ13は、南ベトナムに到着するが、サイゴン近郊の米陸軍特殊部隊基地近くの空港に到着するはずのゴルゴ13の登場シーンも、なかなか面白い。

 また、本作品の大きな見所としては、クレティス・H・リッチモンド少佐が幽閉されているという北ベトナム国境の僧院が、GRU(ソ連軍事情報部)の手の者によって固められており、どこからもつつきようの無い完全な要塞となっており、ゴルゴ13が、どのように攻略するのか、ということが挙げられよう。このバリゲの僧院は、まず、谷間にあるために高所からの爆撃は絶対不可能で、第2に対空への守りが堅固で、危険を冒して米軍が敢行したヘリコプターによる攻撃も対空射撃の洗礼を受け攻撃射程内に達する事も出来ず撃墜されており、第3に、周辺には地雷がビッシリ敷かれてあり、地上から接近した米軍の徒歩攻撃隊は僧院の周辺に周辺に敷かれた地雷原に触れ全滅している、という具合に米軍は打つ手を失っていた。

 尚、本作品の巻末には、異例の事と思うが、著者による次のような補足文章と関連写真が付されている。勿論、この内容が、ゴルゴ13が、僧院の周辺は峨々たる山並みの迫る谷間で自然の守りが囲んでいるという僧院の要塞への接近方法に関するものであるのだが、1972年の作品発表当時、パラ・セーリングの普及状況がどのようであったかが知ることができる。

真紅のナイロンパラシュートに身を託して大空を翔る・・・このナウなスポーツをパラ・セールという。そもそも、これは10年前、米軍のパラシュート着地訓練用として始められたものであるが、今や米国、メキシコ等においては、レジャーの花形としてもてはやされている。自動車、もしくはモーターボートによって牽引されたパラシュートは約60メートルの高度を30~40キロの速度で飛翔する・・・。わが国においては9年前、名古屋航空少年団が、器材を輸入して飛んだのが最初であり、以来まだ、ほんのわずかな数の人たちの専有物ではあるが・・・やがて、一大ブームを巻き起こす日も、そう遠いことではあるまい・・・

また、本作品では、ベトナム戦争での米軍による人工降雨の事が書かれている。本作品の中では、「1963年 CIAが試験的に人口降雨を試みたのが最初で、1965年からは公式にホーチミン・ルートを始め、ラオス、カンボジア、南北ベトナムの重要補給路に豪雨をふらせて北の補給路を妨害する工作が進められてきました・・・」と、紹介されている。ホーチミンルート上の補給路を根絶する事を目的とした枯葉剤散布は良く知られているが、兵器としての気象改造・気象コントロールもベトナム戦争時にも現実に行われた。この点に関する参考サイト関連ページによると、この作戦はポパイ作戦と呼ばれ、1966年にラオスで試験運用が行われ、1967年3月から、米軍の作戦が始動されたとある。

SPコミックシリーズ「ゴルゴ13シリーズ(16)・九竜の餓狼」 目次
■「九竜の餓狼」 
1972年8月作品
■「Dabbie !!」   1973年1月作品
■「ペガサス計画」 1972年12月作品

「ペガサス計画」目次
・PART 1   激戦の要塞
・PART 2   ナンバー4部隊帰還せず!!
・PART 3   ペガサス計画G
・PART 4   空のケースの意味は!?
・PART 5   ”G”は来ていた!
・PART 6   拠点Z-1上空の惨事
・PART 7   可能性はひとつ!!
・PART 8   可能性への人選
・PART 9   選ばれた男
・PART 10  ビッグ・ジョー
・PART 11  夜を待つふたり
・PART 12  ”G”は宙に浮いた!!
・PART 13  中は静かだった・・・
・PART 14  そして”G”は出ていった

本書収録作品の主な登場人物
・ゴルゴ13
・キャサリン・シルバー(アメリカ国防省防衛解析研究所副部長)
・米陸軍特殊部隊大佐
・米軍のペガサス計画ナンバー4部隊
・ジョン・マッカロー軍曹
・クレティス・H・リッチモンド少佐
・ノーラン

本書収録作品の主なストーリー展開場所
・北ベトナム国境 ・サイゴン近郊

関連記事

おすすめ記事

  1. メコン圏の写真集・旅紀行・エッセイ 第31回「メコン川物語 ー かわりゆくインドシナから ー 」(川口 敏彦 著)

    メコン圏の写真集・旅紀行・エッセイ 第31回「メコン川物語 ー かわりゆくインドシナから ー 」(川…
  2. メコン圏関連の趣味実用・カルチャー書 第10回「ベトナム雑貨と暮らす Vietnamese Style」(石井 良佳 著)

    メコン圏関連の趣味実用・カルチャー書 第10回「ベトナム雑貨と暮らすVietnamese Style…
  3. メコン圏を描く海外翻訳小説 第18回「ヴェトナム戦場の殺人」(ディヴィッド・K・ハーフォード 著、松本剛史 訳)

    メコン圏を描く海外翻訳小説 第18回「ヴェトナム戦場の殺人」(ディヴィッド・K・ハーフォード 著、松…
  4. メコン圏と大東亜戦争関連書籍 第8回「神本利男とマレーのハリマオ マレーシアに独立の種をまいた日本人」(土生良樹 著)

    メコン圏と大東亜戦争関連書籍 第8回「神本利男とマレーのハリマオ マレーシアに独立の種をまいた日本人…
  5. メコン圏対象の調査研究書 第29回「日本をめざしたベトナムの英雄と皇子 ー ファン・ボイ・チャウとクオン・デ」(白石昌也 著)

    メコン圏対象の調査研究書 第29回「日本をめざしたベトナムの英雄と皇子 ー ファン・ボイ・チャウとク…
  6. メコン圏が登場するコミック 第23回「密林少年 ~Jungle Boy ~」(著者:深谷 陽)

    メコン圏が登場するコミック 第23回「密林少年 ~Jungle Boy ~」 (著者:深谷 陽) …
  7. メコン圏を舞台とする小説 第50回「バンコク喪服支店」(深田祐介 著)

    メコン圏を舞台とする小説 第50回「バンコク喪服支店」(深田祐介 著) 「バンコク喪服支店」(…
  8. メコン圏題材のノンフィクション・ルポルタージュ 第31回 「アキラの地雷博物館とこどもたち」(アキ・ラー 編著)

    メコン圏題材のノンフィクション・ルポルタージュ 第31回 「アキラの地雷博物館とこどもたち」(アキ・…
  9. メコン圏現地作家による文学 第16回「田舎の教師」(カムマーン・コンカイ 著、冨田竹二郎 訳)

    メコン圏現地作家による文学 第16回「田舎の教師」(カムマーン・コンカイ 著、冨田 竹二郎 訳) …
ページ上部へ戻る