メコン圏に関する英語書籍 第7回「Along the Maekhong River & the Cambodian Border」( I.Granot 著)(1)

メコン圏に関する英語書籍 第7回「Along the Maekhong River & the Cambodian Border」( I.Granot 著)(1)


「Along the Maekhong River & the Cambodian Border」( I.Granot 著、Benjawan-Travelling Co.,Ltd.(タイ・ラチャブリ)、1999年発行)

本書は英語で書かれた東北タイ(イサーン)の旅ガイドであるが、サイト別のガイドブックという形式ではなく、車による行程全11日間の旅行記のような形式になっている。詳細なロードマップや80枚のカラー写真が付いている上に、各サイトについての詳細な説明や行程についてもいろんなオプションの説明と目標地点への行き方の詳細説明があり、ハンディなガイドブックとしても有用だ。通常一般のガイドブックには紹介されていないスポットをこまめにカバーしているので、東北タイの有名観光地に飽きた人にも役に立つのではなかろうか?ここでは本書で紹介された行程とスポットを3回に分けて紹介する。

1回目は最初の4日間分で、以下の行程のように、カンボジアとの国境の町・サケオ県アランヤプラテートから東北タイ南部のブリラム県、スリン県、シーサケット県のクメール遺跡を回っている。タイにおけるクメール遺跡というと、ナコンラチャシマのピマイ遺跡、加えてブリラム県のパノムルン遺跡が知られているが、他にも沢山のクメール遺跡がイサーン南部の県に散在している。

●行程1日目:バンコク発ー≪国道1号線・国道305線を107km北東≫ -ナコンナヨック
●行程2日目:ナコンナヨックー≪170km国道33号線≫-アランヤプラテートー≪50km北上≫タープラヤー郡(サケオ県)ー≪126km北東≫ スリン県ガーップチェーン郡ーブリラム
●行程3日目:ブリラム-≪64km南≫ナーンローン郡ー≪東≫プラサート郡ー≪214号線北上≫スリン
●行程4日目:スリンー≪60km東南≫サンカ郡ー≪北上し国道226号線に入り東に向かう≫ーシーサケットー≪61km東≫ウボンラチャタニ

1日目は朝早くバンコクを出発し、ナコンナヨック川岸にあるナコンナヨックに到着。町から北東約10km強にあるナーンローン滝、サーリカー洞窟などの自然景勝に立ち寄っているが、大抵の日本人にとってはそう珍しくも無いので説明は省略。

2日目の行程では、まずアランヤプラテート(サケーオ県)に到着。通常はカンボジアとの国境ポイントや国境マーケットを見に行くことになろうが、ここでは、価値ある周辺のクメール遺跡2ヶ所を訪れている。アランヤプラテートから南下11kmのカーオノーイ遺跡と北上33kmのサドックコックトム遺跡だ。カーオノーイ遺跡は7世紀初に建てられたと見られるタイでのクメール遺跡で最も古い時代のレンガ造りの遺跡の一つだ(3塔の内、真中の塔だけが残り、11世紀に再建)。またサドックコックトムは、アンコール帝国の建設に関する碑文(1050年)が発見されたことで有名である。

この後は北上後、カンボジア国境に沿い東に向かい、これまたあまり一般には紹介されていない国境間近のクメール遺跡、タームアントム、タームアン、タームアントット(いずれもスリン県ガーップチェーン郡)を訪ねる。著者は、このタームアントムはピーマイやパノムルン両遺跡のように小奇麗な修復作業が終わっておらず(1997年末当時)、タイで最も美しいクメール遺跡の一つであると賞賛している。尚、タームアン、タームアントットは、アンコール帝国最盛のジャヤヴァルマン7世時に作られた宿泊所、病院であったとされている。≪熱心な大乗仏教徒であったジャヤヴァルマン7世は全国に102ヶ所の病院を建て、主要3街道に121の宿泊所を作った≫

行程3日目は、ブリラム県ナーンローン郡の有名なクメール遺跡、パノムルン遺跡・ムアンタム遺跡を訪れるが、パノムルンのすぐ近くにもジャヤヴァルマン7世時に作られた病院や宿泊所の遺跡がある。この後、国道24号線に戻り、国道214号線との交差点までまっすぐ東に走りここで右折し(左折し北上するとスリンの町に着く)3kmほど南下し更に左折し700mほど行くとプラサートヒンバーンプルアンがある。この遺跡は11世紀半ばウダヤーディチャヴァルマン2世時に建造されたものであるが、1970年に修復が為されている。

行程4日目は、スリンからシーサケットを経てウボンラチャタニに向かうが、最初から国道226号線(ナコンラチャシマからウボン迄ほぼ国鉄に沿って走る国道)だけを走らない。まずスリンから東南60kmのサンカ郡に向かい7世紀建造と大変古いプームポーン遺跡を訪れる。その後同じスリン県サンカ郡にある近くのプラサートヤーイガオに立ち寄る。ここはもともと12世紀前半ヒンドゥ教寺院として建てられたが、後代仏教寺院として崇拝の対象とされ寝釈迦仏も安置されている。

この後、北上し国道226号線に戻りシーサケット、ウボンへと東に向かうことになるが、この途上(スリンの町から33km東)にあるプラサートシーコラプームスリン県シーコラプーム郡)、更に40km東(シーサケットの手前7km)の地点にプラサートカムペンヤイ(シーサケット県ウトゥムポンピサイ郡)、シーサケットの手前9kmの地点にプラサートカムペンノイ(シーサケット県シーサケット郡)などのクメール遺跡も見落とせない。

古代カンボジア(前アンコール期)
6世紀後半、チェンラ(真臘)が勃興。やがて扶南が滅亡。7世紀後半のジャヤヴァルマン1世の死後、国が乱れる
■7世紀に建立■
イーシャナヴァルマン1世
バヴァヴァルマン2世
プラサートカーオノーイ サケオ県アランヤプラテート郡
プラサートプームポーン  スリン県サンカ郡

中世カンボジア(アンコール朝)
8世紀の分裂・混乱の後、9世紀初にジャヤヴァルマン2世がアンコール王国の礎を造る

■11世紀に建立■
ウダヤーディチャヴァルマン2世(在位1049~1066年)バプーオン寺院を建立
 ≪バブーオン様式≫
プラサートサドックコックトム  サケオ県タープラヤー郡
プラサートカムペンヤイ  シーサケット県ウトゥムポンピサイ郡
プラサートタームアントム  スリン県ガーップチェーン郡
 ・プラサートムアンタム ブリラム県ナーンローン郡
10世紀末のジャヤヴァルマン5世時から建造が始まり、4代の王の治世を経て11世紀中のウダヤーディチャヴァルマン2世時に完成
プラサートヒンバーンプルアン スリン県プラサート郡

■12世紀に建立■
スーリヤヴァルマン2世(在位1113~1145年)アンコールワットを建造
≪アンコール様式≫
プラサートパノムルン ブリラム県ナーンローン郡
10世紀初のジャヤヴァルマン4世から建造が始まり、11代の王の治世を経て12世紀前半スーリヤヴァルマン2世の時代に完成
プラサートヤーイガオ スリン県サンカ郡
プラサートシーコラプーム スリン県シーコラプーム郡

■12世紀末に建立■
ジャヤヴァルマン7世 アンコールトムを建造 ≪バイヨン様式≫
プラサートカムペンノイ シーサケット県シーサケット郡
プラサートタームアン
プラサートタームアントット スリン県ガーップチェーン郡

関連記事

おすすめ記事

  1. メコン圏題材のノンフィクション・ルポルタージュ 第31回 「アキラの地雷博物館とこどもたち」(アキ・ラー 編著)

    メコン圏題材のノンフィクション・ルポルタージュ 第31回 「アキラの地雷博物館とこどもたち」(アキ・…
  2. メコン圏対象の調査研究書 第29回「日本をめざしたベトナムの英雄と皇子 ー ファン・ボイ・チャウとクオン・デ」(白石昌也 著)

    メコン圏対象の調査研究書 第29回「日本をめざしたベトナムの英雄と皇子 ー ファン・ボイ・チャウとク…
  3. メコン圏現地作家による文学 第16回「田舎の教師」(カムマーン・コンカイ 著、冨田竹二郎 訳)

    メコン圏現地作家による文学 第16回「田舎の教師」(カムマーン・コンカイ 著、冨田 竹二郎 訳) …
  4. メコン圏関連の趣味実用・カルチャー書 第10回「ベトナム雑貨と暮らす Vietnamese Style」(石井 良佳 著)

    メコン圏関連の趣味実用・カルチャー書 第10回「ベトナム雑貨と暮らすVietnamese Style…
  5. メコン圏を舞台とする小説 第50回「バンコク喪服支店」(深田祐介 著)

    メコン圏を舞台とする小説 第50回「バンコク喪服支店」(深田祐介 著) 「バンコク喪服支店」(…
  6. メコン圏が登場するコミック 第23回「密林少年 ~Jungle Boy ~」(著者:深谷 陽)

    メコン圏が登場するコミック 第23回「密林少年 ~Jungle Boy ~」 (著者:深谷 陽) …
  7. メコン圏と大東亜戦争関連書籍 第8回「神本利男とマレーのハリマオ マレーシアに独立の種をまいた日本人」(土生良樹 著)

    メコン圏と大東亜戦争関連書籍 第8回「神本利男とマレーのハリマオ マレーシアに独立の種をまいた日本人…
  8. メコン圏の写真集・旅紀行・エッセイ 第31回「メコン川物語 ー かわりゆくインドシナから ー 」(川口 敏彦 著)

    メコン圏の写真集・旅紀行・エッセイ 第31回「メコン川物語 ー かわりゆくインドシナから ー 」(川…
  9. メコン圏を描く海外翻訳小説 第18回「ヴェトナム戦場の殺人」(ディヴィッド・K・ハーフォード 著、松本剛史 訳)

    メコン圏を描く海外翻訳小説 第18回「ヴェトナム戦場の殺人」(ディヴィッド・K・ハーフォード 著、松…
ページ上部へ戻る