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メコン圏を描く海外翻訳小説 第9回「アンナと王様」(エリザベス・ハンド 著(Elizabeth Hand)、石田 亨 訳)
- 2004/3/10
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メコン圏を描く海外翻訳小説 第9回「アンナと王様」(エリザベス・ハンド 著(Elizabeth Hand)、石田 亨 訳)
「アンナと王様」ANNA AND THE KING(エリザベス・ハンド 著(Elizabeth Hand)、石田 亨 訳、竹書房(竹書房文庫)、2000年1月)
<訳者紹介>石田 亨(いしだ・すすむ)
1954年大阪生まれ。ICU卒。訳書に『エンド・オブ・デイズ』『アルマゲドン』『エネミー・オブ・アメリカ』『スピード』『ザ・ロック』『ホームアローン2』『クロッカーズ』『妖魔の宴 狼男編』『スター・ウォーズ』3部作(竹書房) 『スター・ウォーズ Xウィング・ノベルズ』4部作(メディアワークス) 『スター・ウォーズ エピソード1 ストーリー・オブ・フォー』『スター・ウォーズ ダーク・エンパイアⅠ』(小学館プロダクション) 『スター・ウォーズ キャラクター&クリーチャー』『スター・ウォーズ エピソード1 クロスセクション』『スター・ウォーズ エピソード1 キャラクター&クリーチャー』『スーパーマリオ』『メイキング・オブ・スーパーマリオ』(小学館) 共訳に『メイキング・オブ・ターミネーター2』(バンダイ)、監訳に『スター・ウォーズ最新科学読本』(竹書房)などがある。(本書訳者紹介より、本書発刊当時)
本書は、1999年にアメリカの映画会社20世紀フォックス社によって製作された映画『アンナと王様』の脚本を元に書かれた小説の邦訳版(映画の脚本はSteve MeersonとPeter Krikesによって書かれた)。この映画は、チュラロンコン皇太子の家庭教師としてシャム国に赴任したイギリス人女性アンナ・レオノーエンズと、後のラーマ5世となるチュラロンコン皇太子の父であるラーマ4世モンクット王(1804年~1868年、在位1851~1868年)を主人公とした物語であるが、映画化は3度目にあたる(主演はジョディ・フォスターとチョウ・ユンファ)。最初の映画化作品は、1946年製作の映画『アンナとシャム王』で、2度目の映画化作品は、「Shall We Dance」でも有名で世界的に大ヒットした1956年アメリカで製作のミュージカル映画『王様と私』だ。
19世紀中葉のシャム王国(現在のタイ)。精気に溢れたモンクット王は、諸外国に門戸を開放しながら外国からの植民地化を拒み、新しい近代国家の形成を目指していた。モックット国王は王子王女たちに英語、科学、文学の教育をほどこすため、一人のイギリス人女性、アンナ・レオノーウェンズを家庭教師として招く。 子供時代にイギリスを離れボンベイとシンガポールに長く暮らした経験を持つアンナは、イギリス陸軍の大尉だった夫レオンを結婚生活2年たらずで失い、女手一つで息子ルイを育ててきた彼女は、息子ルイ、インド人夫婦の従者とともにバンコクに赴任してくる。
アンナは、異国の地で様々なカルチャーショックを受けながらも、王子王女たちの教育に情熱を注ぐ。モンクット王は勇気と情熱に溢れたアンナに次第に惹かれ、アンナも進歩的な考えを持つ王に深く共鳴していき、人種や身分の差を超えたロマンスが生まれていく。『アンナと王様』では前作の映画よりもずっとラブ・ストーリー色が濃厚になっているが、アンナ・レオノーエンズは実在の人物なるも、映画『アンナと王様』や脚本の小説版の本書では、モンクット王とのロマンスをはじめ多くのことが史実と異なる話となっている。
1862年、チュラロンコン皇太子(1853~1910年)の家庭教師としてシンガポールからシャム国に赴任したイギリス人女性アンナ・レオノーエンズ(1831~1914年)が1870年に書いた「シャム宮廷のイギリス人家庭教師」なる手記を、バンコクに在住した宣教師夫人のマーガレット・ランドン(1903~1993年)が1944年に小説として刊行。映画『王様と私』と『アンナとシャム王』は、このマーガレット・ランドンの小説を脚色したものであるが、マーガレット・ランドンの小説だけでなくアンナの小説も自らの経歴も含め脚色されている箇所が少なくない。3度目の映画『アンナと王様』も、映画は映画で史実とは別物の一つの娯楽であるものの、タイでのロケが認められなかっただけでなく、君主に対する不適切な描写があり歴史を歪曲しているとの理由で、世界的に有名な映画『王様と私』同様、タイでの上映が禁止されている。
映画『アンナと王様』はタイでのロケがタイ政府より認められなかったものの、大掛かりで豪華な王宮のシーンをはじめ、冒頭のアンナ一行がバンコクに到着する船着場、王室御座船(ゴールデン・ハンサ)、農耕祭、王の一行が一時過ごす離宮、晩餐会とダンスのシーンなど、楽しめる箇所は少なくない。奴隷の問題に関心を持つ幼少のチュラロンコン皇太子に、アンナはアメリカの女性作家ハリエット・ビーチャー・ストーの小説「アンクル・トムの小屋」の本を勧めるが、モンクット王はアンナの幼少の息子ルイに葉巻を勧めて、幼少の皇太子に現時点でこのような本を読むことは良くないとアンナに諭すシーンもある。農耕祭で太陽と月の物語が舞踊劇(コーン)で演じられるが、この話も2人のロマンス展開上、効果的に使われている。
アンナとモンクット王、アンナの息子ルイとチュラロンコン皇太子以外の主な登場人物としては、わずか8歳でコレラに罹りわずか8歳で亡くなるモンクット王最愛のファ・イン王女、シャムの裕福な茶商人の娘でモンクット王の側女として献上されるも恋人が忘れられず最後には恋人とともに処刑されてしまうタプティム、タークシン王に心酔しているアラク将軍などが挙げられる。アンナの手記に書かれ3本の映画に登場する側女タプティムではあるが、『アンナと王様』の話と『王様と私』の話とでは正反対の結末になっている。またアラク将軍が王政転覆を謀り反乱を起こしてモンクット王を絶体絶命のピンチに追い込む話が、この『アンナと王様』に盛り込まれているが、このような設定は前2作にもアンナの手記にも無く3度目の映画化で新たに加えられた全くのフィクション。ビルマ、インドシナを支配下に置きタイに勢力を伸張してくるイギリスとフランスによる植民地化の危機にさらされていた時代状況は描かれているが、当時すでにタイにとってのかつての強敵ビルマの脅威はなくなっているのにビルマ軍のタイ領侵攻の事も書かれている。
尚、本書巻末には、アンナ・レオノーエンズのその後の経歴を中心に訳者による解説が掲載されている。本書の最後は、1897年のイギリスでのアンナとラーマ5世の30年ぶりの再会のシーンとなっているが、1897年8月、シャムを離れアメリカ、カナダに移り住んでいたアンナがたまたま訪れたロンドンで、シャム国王としてイギリス訪問中のチュラロンコンと劇的な再会を果たす。また、アンナの息子ルイのその後についても本書解説に下記のように紹介されていてこちらも大変面白い。
「一方多感な頃をバンコクで過ごした息子のルイはイギリス社会になじめず、アイルランドの寄宿学校をとびだして、当時アメリカに住んでいた母親のもとに身をよせる。しかし、ここも性に合わず、オーストラリアに移住して警察官になるが、これまた長続きせず、結局シャムに舞い戻って、チュラロンコン王の身辺を警護する近衛将校になる。のちに王女の一人(つまりチュラロンコン王の妹、かつての同級生!)と結婚して、チーク材をあつかう材木会社を設立、財をなした。」
本書の目次
第1章 バンコク到着
第2章 父の肖像
第3章 接見
第4章 多難な前途
第5章 王室御座船<ゴールデン・ハンサ>
第6章 武力挑発
第7章 公式晩餐会
第8章 贈り物
第9章 離宮
第10章 謀反
第11章 裁判
第12章 白象をもとめて
第13章 ラストワルツ
エピローグ
解説
関連テーマ
●ラーマ4世モンクット王
●ラーマ5世チュラロンコン王
●奴隷制の廃止
●スリーパゴダ峠
●タークシン王ストーリー展開時代
・1862年~1867年
・1897年
ストーリー展開場所
・シャム王国
主な登場人物たち
・アンナ・レオノーウェンズ(未亡人のイギリス人女性。モンクット王の要請で王室家庭教師としてシャムへ)
・モックット王(シャムの国王。1851年即位、ラーマ4世。英語や科学に精通しシャムの近代化に尽力する)
・タプティム(シャムの裕福な茶商人の娘。モンクット王の側女として献上される)
・ルイ(アンナの一人息子。アンナとともにシャムへ)
・チュラロンコン皇太子(モンクット王の第一王子。後のラーマ五世)
・ファ・イン(モンクット王の最愛の王女。本名はチャンタラ・モンソン)
・クララホーム(シャム宰相。国王の信任篤き忠臣)
・アラク将軍(シャム国最高顧問。好戦的な武人)
・チョウファ親王(モンクット王の弟君)
・オートン船長(蒸気船ニューキャッスル号)
・ビービー(50代のインド女性、アンナの侍女)
・ムーンシー (ビービーの夫)
・シンガポール駐在シャム領事
・ウィリアム・アンダーソン
・歯抜けの老女
・馬車の御者
・通訳
・チョウファ親王の副官
・ブンナン総督とその一族
・バンプリ村民
・フランスの外交使節
・国王の護衛(二コーン、ノイ、ピタク)
・ティアン国王夫人
・チョンコン・ヤイ王子
・サック・サワット王子
・カニカ・ケオ王女
・チョー・タイ王子
・ジャオ・ジョム・マンダ・アン夫人
・ラ・オレ(女性の奴隷)
・マイクロフト・キンケイド(東インド会社の実業家)
・イギリス大使館付の武官
・ブラッドレー卿(イギリス外交使節)
・ブラッドレー夫人
・ブレイク大尉(イギリス軍人)
・プラトゥーナム市場での少年
・バラッド(タプティムの恋人)
・ピム(タプティムの侍女)
・プイヤ・プロム裁判長
・死刑執行人